守の章 援助交際・待ちあわせ
一定のリズムをきざむ振動が眠気をさそう。
となりの若い男性が自分のほうに寄りかかってきそうだ。が、すんでのところで持ちこたえ、男性は姿勢をただす。ほっとする。と、ふたたび頭の重さに引っぱられるように、男性がこっちに倒れかかってくる。
うっとうしい。ろこつにいやな顔をしてやるのだが、相手はしたたかに居眠りをしているわけだから、もちろん気づきもしない。こうしてわざとらしく表情をしかめるのは、むしろほかの乗客へのアピールである。とはいえ、だれもが素知らぬ態度をとおし、助けてくれようともしない。仕方なくがまんする。自分も目をつぶり、眠ったふりをする。
ほどなくすると、電車が目的の駅にすべりこんだ。三宮駅である。停車するのももどかしく、さっさと立ちあがって出口のほうへ向かう。ちらっと振りかえると、さっきの男性はいま目覚めたばかりのようで、大きく伸びをしていた。
(アホッ! のんきなやつ――)
星野かりんは内心舌打ちをした。
ショートヘアを茶髪に染めた彼女は今年で十六歳、神戸市内の高校に通う一年生だった。薄くほどこされたアイシャドウによって彼女の大きな目は美しく際立ち、小鼻は控えめに張っていた。細く整えたまゆはゆるやかな弧を描き、形のいい唇はきつく結ばれていた。
扉が開き、かりんは人の波にもまれて外へ押しだされる。ほどよく冷房がきいた車内とはちがい、外はむっとするぐらいにむし暑かった。ふと息苦しさをおぼえる。
「痛いっ!」
と声が出たのは、二の腕に激痛が走ったからだ。見るとあの眠りこけていた男性ではないか。彼の肘に突かれたようだ。
「ちょっと!」
猛烈に腹が立ち、なにか文句をいおうとしたが、これだけの人込みでありながらも男性は器用に人と人のあいだをすり抜けていき、あっというまに視界から消えてしまった。怒りは行き場をなくし、かりんはわなわなと拳を握りしめるほかなかった。
気持ちがおさまらないまま自動改札機に切符を差しいれる。人の流れに乗ってエスカレーターを下りると、小さな広場に出る。土曜日とあって広場は埋めつくさんばかりに人でいっぱいだった。若者が圧倒的に多かったが、おばさんや老人だけで形成されたグループもまじっている。たばこの煙がたちこめ、場は喧騒に支配されていた。
きょうの相手をきょろきょろと探す。出会い系サイトで知りあった男性である。携帯メールに添付された写真を見るかぎり、優しそうな人であった。年齢は四十二だという。
待ちあわせの場所は突きあたりのファーストフード店の前、相手はグレーのズボンに白のポロシャツを着てくるということだった。ちゃんと見つけられるだろうかと思っていたが、そんな心配もまったくの杞憂に終わった。相手のほうからかりんに声をかけてきてくれたからだ。
「じゃあ、行こうか」
男はかりんをエスコートするように歩きだした。
立ちならぶ居酒屋やレストランはどこも繁盛し、街はこれ以上ないほどに賑やかだった。派手で色とりどりの看板が歩道をかざり、いかがわしい店の前では人相のわるい客引きが通行人に声をかけていた。
大学生の飲み会であろうか、二十人くらいの男たちが固まっていた。二次会はどこにするかについて話しあっているのがとおりしなに聞こえてきた。 |