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  東方起承転 作者:紅山車
そろそろこまーしゃる入ります。
息抜きって大事よね。
46話
「面白い外来人が居るんだ!」

早々と目を覚ました白黒鳥──霧雨魔理沙は、いきなりピーチクパーチクとこんなことを言いはじめた。私はそれを横目で見ながら、けれど何も見なかったように目を逸らす。
「……あぁ、そう。それじゃ私は忙しいからこれで」
「霊夢ぅ〜。そんなに冷たく当たるなよ〜。話だけでも聞いて行けって、な?いよっ!大統領!」
「『No,we can』よ、魔理沙」
「おおう、その流行りに便乗したように見えて実は自分のおつむの弱さをさらけ出す、という変則技を使ってまで笑いを取りに行くとは流石だな霊夢!・・・すごい漢だ!」
「あんたの褒め方には悪意しか感じないわ」
「ははは。そんな霊夢の指摘も、『痛くないわ♪』だぜっ!何故ならやられ慣れているから!」
「ああそう、それは良かったわね。それじゃ私は用事があるからこれで」
「おぉい、無視すんなよ霊夢ー。何だよ、想いは伝えたら壊れちゃうのかよー」
「……魔理沙は大変なものを盗んでいったわ。私のもう二度と戻ってくることは無い、『さっき』という名の尊い『時間』よ」
「過去の事を思っちゃ駄目だぜ?怒りに変わってくるから。今ここを生きていけよ。だからわたしの話を聞け」
「もしそうしたら、未来の私は今私がした行動を悔やむでしょうね。『何であんな事をしたんだろう』って」
「未来の事も思っちゃ駄目だ。不安になってくるから」
「堂々巡りね」
「全くだ」
「……仮にあんたの話を聞いたとして、それで私にどんなメリットがあるのかしら?」
「イキイキするぞ!」
「イライラするわ」
「あはぁ〜ん」



加速装置!



「な〜あ〜、何でそんなに嫌がる事があるんだよ〜?」
大結界の修繕に向かう私の背中に、ピッタリと蝉のようにくっついてくる白黒鳥。暑苦しいし欝陶しいからやめてほしい。
「外来人だぜ?それもここ数日の間に来た新顔だぜ?ちょっとは興味引かれたりとか無いのか?」
「全く無いわ。今日び外来人なんて珍しくも何とも無いじゃない」
かといって、そう頻繁に起こるようなことでも無いが、それでもあのスキマ妖怪は人の苦労も知らずに、何も考えていない様子でほいほい外来人を連れて来るのだ。
何も知らずにこちらに来た場合の外来人の大低の末路は、飢えてのたれ死ぬか妖怪に襲われて死ぬかのどちらかだと言うのに。
「大体、あんたの言う『面白い話』は、私にとっては『面白くないかつ面倒臭い話』なんだから。解ったら私の後ろに立たないで頂戴」
私は変に懐いた犬を追い払うように、右手で魔理沙の期待するような視線を払いのける。けれど魔理沙には、私の背中から退く気は全く無いらしい。相変わらず両肩上辺りからひょこひょこ顔を出しては、その度にこちらを見てきて、非常に欝陶しい。
そんな捨てられた犬のような目で見ても駄目。
「あ〜、もう!霊夢が聞いてくれなかったら、私は一体誰に話せばいいんだぜ!?ああ、話したい!話したくて話したくて喉と唇がムズムズする!」
「アリスに話せばいいじゃない。あんたの『唯一と言っても良いぐらい』まともな友人でしょ?」
「……あー……アリスはちょっち都合が悪いというか……」
私の言葉を聞いた魔理沙は、途端にバツが悪そうに俯いた。喧嘩でもしたのだろうか。
「それじゃあ、あの人は?ほら、香霖堂の……」
「……こーりんもちょっとなぁ。最近なんだか目の敵にされている気がして、あんまり顔を合わせたくないんだよ」
「……また喧嘩?」
本当に、魔理沙という奴は。
厄災しか振り撒かない。
「なら、パチュリーやレミリアにでも頼んできなさい。紅魔館になら、暇な連中も有り余るほど居るでしょう?」
「……霊夢、お前私をストーカーでもしてたのか」
……いきなり何を言うのか。
「だって、私の行動を逐一把握出来てないとそんな嫌味みたいな事言えないぜ?」
「………………」
紅魔館に行け、という言葉が何故か魔理沙には嫌味に聞こえるらしい。魔理沙の耳は一体どんな構造をしているのか。
「……いいかしら、魔理沙?」
私は縁側に転がっていた煎餅を拾い上げると、それを魔理沙の目の前に突き付けた。
「う……」
「何が悲しくてあんたなんかをストーキングしなきゃならないのよ。そんな無駄な事をする暇があるなら、縁側に座って煎餅でもかじっていた方が有意義よ。そして、それと同じように、あんたの話を聞いて、また面倒事を背負い込む暇があるなら、先に控えている面倒事を片付けるわ。私にとっては後者の方が遥かに優先すべき事項なの。解る?」
「わからん!」
「……あんたねぇ……」
断言する魔理沙を見て、彼女がトラブルメーカーたる所以を垣間見た気がした。そりゃあ、喧嘩する相手も増えるというものだ。
「なあ、頼むよ!後はもう霊夢しか話す相手が居ないんだよ!」

そんな事件量産機は、尚も私の肩に掴まりながら、引き下がることなく鳴きはじめる。そろそろ欝陶しいを通り越してウザくなってきた。
私は、半ばムキになったように魔理沙の言葉を拒否する。ここまで来たら、意地でも聞いてやらないでやる。その方が、今後の魔理沙のためになる。
「ああ、もう!」
私は魔理沙の手を、肩から払いのける。こうなったら、目的をしっかりと明言した方が良いかもしれない。どうせこの自己中魔女は、私の用事は大した事じゃあないとでも思っているのだろう。
「何だよ、親友の私の話も聞けないほどその用事ってのは重用なのかよ!?何よりもまず優先すべきは友情だろ!?」
少し怒ったような語調で、魔理沙は私に言う。それがまた自分の事を棚に上げた主張だった為、自然と私の顔は怒りで熱くなった。
「はあ!?いつあんたと私が親友になったのかしら!それに、あんたの下らない話を聞く事より、大結界の修繕に行くことの方がよっぽど──」
もう知らない、こんな奴はあらゆる人に嫌われ嫉まれ生きていけば良い。そう思い、私の有りったけの心情を吐露しかけて、

──ふと、言葉が止まる。

外来人。

最近、来たばかり。

大結界の綻び。

それを伝えに来た、紫。

事前に示し合わせたようにぴたりと嵌まる、これらの出来事。私はその『自然過ぎる』設問から、ある一つの法則を照らし合わせる。

外来人の存在は、その殆どが──『神隠し』。
それが意図的に出来るのは、八雲紫その人。

「……はあ」
仕方無し、といった感じにため息をついた後、私は背中から魔理沙を引っぺがした。そのまま地面に放り投げると、魔理沙は車に轢かれた蛙のように地面に張り付き、「ぐえ」と苦しそうに一言漏らした。
「いってえなあ!一体何すん──」
「五分」
ああ本当に私という奴は、魔理沙に対してはとことん甘い──軽い自己嫌悪に陥りながら、私は再び縁側に腰を下ろす。
「それ以上は待たないわ。簡潔に、そして手短に話して。聞くだけなら聞いてあげる」
瞬く間に軟化した私の態度に、魔理沙は一瞬目を丸くしたが、直ぐにいつもの不適な笑みを浮かべ、
「へへ、合点承知だ」
魔理沙はどすん、と女性にあるまじき音を立てて地面に座り込んだ──心なしかその顔は、秘密基地の存在をお母さんに黙っている子供のように無邪気で、けれど何か裏がある、そんな顔のように見えた。
魔理沙は、右手の人差し指を一本出してから、言う。

「そいつの名前は、前多孝一」

──まず間違いなく、退屈しない人物だぜ。



『はじめてのおつかい』。
幼少時代を経験した者ならば、ほぼ必ず一度は体験したことがあるであろう(つまり大体の人間なら経験がある)、自身の自立性を確かめる人生初の試験。
もちろん俺にだって経験はある。あの時は確か、調理用のまな板を買ってくるよう父に言われた。あの時俺はまだ幼稚園児だった。父さんは、野菜でも肉でも切る時は無駄にやたらと力を込めて切っていたから、まな板にがたが来て真っ二つに割れてしまったのだ。
応急処置としてプラスチックのまな板を買ってきた俺が見た物。
自分の手の平の上で葱を刻む、父さんの勇姿だった。
あの後、危ないだろうと怒った母さんにボコにされた父さんの顔は、今でも忘れられない。
……何故今、こんな幼少期の思い出を持ち出すか、と言えば。
今の俺もまた、それと同じ類の、『自立性を確かめる試験』を受けているからだ。けれどこの試験は、前述の物とは違い、誰もかれもが必ず受けるものではない。ある一定の層の人間にのみ課せられる試験。
その名称とは──



「そこが終わったら、次は畑の雑草むしりよ。ああそれと、小屋周りの雑草も抜いておいて頂戴──異論は認めないわ」
「………………」

『はじめてのこきつかい』。

「ほら、急いで窓拭きと室内の拭き掃除それに家具も磨かないと。昼ご飯時に間に合わないわよ?十二時を少しでも回ったら、貴方は昼食抜きだから、そのつもりでいなさい」
「………………わかった」
「『わかった』?『はい』『わかりました』『幽香様』貴方の私への返答は、この三つの単語で構成されたものしか認めていないわ。今度そんな馴れ馴れしく喋ったら間違いなく殺すわよ──返事は」
「……『はい』」
「ふふん。よろしい」
そう言うと彼女は、意気揚々と小屋の奥に向かっていった。朝から昼前の今まで、飽きる事なく向日葵を眺め続けていたのだが、ようやく小屋の中に入ってきたと思ったら、やたらと俺に暴言を吐いて来たのだ。
黒ずんだ雑巾をバケツの中に入れ、付着した汚れをこすり落とす。朝からこの行動を何度繰り返しているかわからない。元の世界で、店の開店準備などを手伝う事もあったので、掃除は手慣れているつもりだったのだが、いかんせん時間が時間だ。
朝の六時に、文字通りに『叩き』起こされて。
現在時刻、十一時三十七分。
その間ずっとだ。
さらに──特に付け足す必要も無いだろうけど、一応言っておくと──肩はまだまだ痛い。
けれども、だ。
「……仕方ない、だろ?」
誰に向けてでも無く、呟いた。
彼女には、恩がある。それも『命を救ってもらう』という、超A級にドでかい恩が。
それに比べれば、こんな掃除なんて屁みたいなものだろう。こんな事でいいのなら、いくらやっても事足りない。
そう、こんな掃除くらい──

「ああ、そうそう。昼食の準備も貴方がして頂戴。もちろん、十二時までに完成しなかったら貴方は食べられないから、勿論そのつもりでね?」

「………………」
「返事は?」
「……は」
「掃除を終わらせてからね」
「いぃー……」

自然と、壁に掛けられた時計に目が行ってしまう。短針が十二近く、長針が八を指していた。

……掃除プラス昼飯抜きくらい、屁でも無い。
自分に言い聞かせてから、俺は再び床の木目を雑巾でなぞりはじめるのであった。



「レミリアに狙われても、フランドールに狙われても──生き残っている人間、ね」
話し終わって恍惚とした表情を浮かべる魔理沙を横目で見ながら、つぶやく。
運が良いだけ──いや、全ての運を『運命』によって捩伏せるレミリアが相手なら、それは無いだろう。ならば、それだけの力量が備わっていた──。
まだここにきて三、四日の外来人に、あの姉妹から逃げ切れるだけの『能力』が?
「………………」
どうやら、紫はとんでもないものを幻想郷に送り込んだらしい。それも正体が明らかになっていない、アンノウンな存在。パンドラの箱のように不可視な。
蓋を開ければ、どんな妙が飛び出してきても不思議ではない存在。ここ幻想郷では、それが何よりも──恐ろしく、不気味だ。
ついさっきまでここに居た、紫の言葉を思い出す。

『けれど、残念ね。今回の大結界の綻びは、私の能力の影響で生じたものではないわ』

「……あながち間違いじゃないかもしれない、か……」
「何か言ったか、霊夢?」
と、恍惚状態から復活した魔理沙が聞いた。私は「何でもないわ」と返してから、今一度魔理沙の方に向き直り、言う。
「魔理沙」
「ん、何だ?」
「やっぱり私達、親友同士よね」

そんな女子学生が言い合いそうな言葉に、魔理沙は苦笑いしながらこう返した。

「現金な奴だぜ」

「博麗の巫女だもの」

無事大結界を修繕したら、茶でも煎れてやろう。


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