ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
  東方起承転 作者:紅山車
まるまる二話分ぐらいの長さになってしまった。急展開?こまけえことは(ry
18話
「孝一さんは外来人なんですか」
「その言い方にはまだ慣れないが……ま、そうなるのかな」
美鈴のある種トリップ状態が落ち着いてきたので、俺は改めて今現在の境遇を話した。

自分が、外の世界からやってきた所謂「外来人」である事。

人里に向かう途中で、道に迷ってしまった事。

今から無理に人里へ向かおうにも、既に日が暮れてしまって、かえって危険だ、という事。

そして、一つの懇願。

「紅魔館に、ですか?」
美鈴が、困惑と驚嘆の表情で、俺を見つめる。
「……お願いします」
そんな美鈴に、頭を垂れる俺。



懇願とは、寝床の提供。
彼女が門番として働いている、という、「紅魔館」なる建物。
俺は、一晩だけでもいい、そこに泊めてもらえないか、という旨の懇願、請願を試みたのだ。
敷地内の安全な場所で野宿とか、何なら一緒に門番の仕事を手伝うから、とか。
ふと見てみると、「彼女の一人に泊めてくれと頼むヒモ野郎」に見えるが、実際それに酷似した状況であるから、全く情けない話である。違うのは「彼女の一人」という部分だけなのだから。



「ごめんなさい」
有り難いことに美鈴は、こんなヒモ野郎の願いを、無下に断る事なく真摯に聞いてくれた。
その返答が、こちらである。
「私の一存で決められることじゃ無いので……」
「……そっか」

まぁ、それはそうだろう。
今日知り合った女性に、こんな無茶な事を言うだけでも失礼なのだ……話を最後まで聞いてくれただけでも、奇跡のようなものだ、というのに。
「……すいません。希望に添えなくて」
「いや、ありがとう。話しただけでも、気が楽になった」
「あ……いえ、そんな」
申し訳なさそうな表情で、下を向く美鈴。その気持ちだけでも、今の俺にとっては、非常に心強かった。
「あ、そうだ」
ふと思い立ち、バッグの口を開けて、手でまさぐる。
出てきたのは、少し冷めてしまった肉まん。
それを、未だ俯いている美鈴に差し出した。彼女は顔を上げると、驚いた表情を浮かべる。
「これ、良かったら食べてくれ。あ、少し冷めてるから、温めなおした方がいいかも」
そういうと俺は、美鈴の手にその肉まんを握らせる。
「……何でですか?」
「?……何でって?」
「だって、私、断って」
……あぁ、そういうこと。
「そんなんじゃないって。ただ、余ってるだけだ……ほら」
俺はバッグの中身を開いて見せる。美鈴は、この「魔窟」に一瞬目を剥いたが、
「で、でも……これじゃ、私だけがいい目見て、孝一さんは──」



死ぬかもしれない。



俺の道は、これで一択になった。
夜通し歩いて、人里を目指す。
可能性は、限りなく低い。里につくまでに妖怪の餌になるのがオチだ。バッグの中身に吊られてやって来る可能性も、十分ある。
だが、諦めた訳ではない。勿論、身体を自ら妖怪に捧げるに等しい行為である、野宿など論外だ。

ひたすら歩きつづける。

それが、俺に残された道だ。

生き残るための。



「………………」
唖然とした様子で、俺を見る美鈴──何か信じられないものを見たような、そんな顔だ。
彼女は、呟いた。

「妖怪に、自分から食べられに行くんですか」

俺は思わず苦笑した。
リグルの言葉を、思い出したのだ。

『妖怪に食べられに行くなんて、普通の人間のすることじゃ無い』

『だから、死ぬなんて言わないでくれないかな』

それは、思わず──。

幻想郷にいる妖怪は、みんな他人想いのお節介焼きなんじゃないか──と、錯覚するような。
そんな感覚。



「なぁ、美鈴?」
「はい?」
「一つ、泊めてもらう以外で。
頼みがあるんだけど」
「………………?」



「人里までの道を、教えてくれ。それで、おあいこだ」



「あぁ、それと」
──以前ならともかく。
俺は、こんな暗い森で死ぬつもりは更々無いからな。
また生きて会おう。
俺はそんな言葉を残し、暗い森を駆け出した。
教えられた道によると、この土道に沿って直進すれば、いずれはたどり着くらしい。
僅かな希望を胸に秘め、俺は足を更に早めたのであった。



紅魔館周辺の見回りを終えた私は、定位置である門にもたれ掛かり──先程の、奇妙な邂逅を思い出しながら、呟いていた。
「……卑怯ですよ、孝一さん」
──そんな風に言われて、何もしなかったら。
私が悪者じゃないですか。
「怒られるのは、私なんですよ?……本当に、もう」
それは、門番故に。
門を破られては、門番の恥。
   ・・・・・・・
では、それ以外の場所。
例えば──裏口。
そこを破られたならば。
恥は、誰が被るか。

無論、門番である。

館に侵入されるのを、未然に防ぐ──それが、門番の役割なのだから。

それを、許した。
しかも、自らの手で、である。
「今度は、ナイフ何本刺さるだろうなぁ」
自らに起こるであろう疫災を想像し、身を震わせる。
今頃、彼はどの辺りだろう。
         ・・・
人里に向かっているつもりであろう、彼の事を思い出す。
「不思議な人だったなぁ」
ふと、手元を見落ろす。
手には、彼がくれた肉まん。
既に夜の冷風に晒され、冷たくなったそれを、口に運ぶ。
「美味しい」



私は、自主的に、彼を助けた。
門番失格と言われても良い。
役立たずと罵られても良い。
ただ、彼には。
生きていてもらいたかった。
理由は、解らない。
けれども、心の奥底では。
この時、既に。

私は、惚れていたのだと思う。

柄じゃない。
似合わない。
──故に、気づくのは、もう少し後になるのだけれど。



私は、すっかり高く昇った月を見上げながら、深く溜息をついた。
果たしてそれが、恋心によるものだったのか。
それとも、これから起きるであろう罰を案じての物だったのか。



今でも、「和」は出ていない。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。