0007* 大きな大きな大鳥居
黄色のニュービートルの車内では、双子の兄妹が同じ表情で口を開け、ただただ呆然と上を見ている。
その表情は悪夢でも見ているような、そんな、信じられないといった顔。
目の前にある、大鳥居がその原因であった。
それは全体的に直線的であり、笠木の下に島木がないことから、『神明鳥居』であることが分かる。
装飾的な物は一つも無い簡素な造りで、地面に対して垂直に建てられている。
二人は、たった今起きた『オデッセイ』の事故にはまったく目もくれず、ただひたすら古い木造の鳥居を眺め続けた。
「こんなのアリかよ……」
兄、坂下真人は呟いた。
「なんかすごく怖いんだけど……」
妹、坂下真朝も呟いた。
昨日は存在していなかった、異様な物体。
一体いつ現れたというのであろう。なぜ? 何の為に? ……そんな疑問を抱かずにはいられない。
それは巨大であり、圧倒的存在感を放ち続けている。
まるで彼等のために開かれた、『地獄へ繋がる門』のようであった。
二人の腕には底しれぬ恐怖から、鳥肌がびっしりと立ち始めていく。
一方、隣に止まるタクシー内の後部座席では、
「ちょっ、事故だよ事故!! 大きいよ! ……ねえ、ミドリ。中の人、大丈夫なのかな?」
と、童顔の女が、目をうるうるさせながら半ば興奮気味で騒いでいる。
「ちょっとまって」と、ミドリは手で女に静止を促してから、ゆっくりとその目を固く閉じた。
男にしては長めのまつげが、顔に影を落としている。
女は指示されたとおり、黙り続けた。
「とよちゃん、安心して。見た目はド派手な事故だけど、全く命に別状ないよ。それに、俺らができる事は何も無いし……」
そう言いながら、時間をかけて目を開けた。
「あ、ミドリは占い師だから、分かっちゃうのかぁ。……すごいなぁ」
とよは感心しながらミドリの顔をじっと見つめる。
あまりに尊敬の眼差しで見られるので、ミドリは照れてしまい、「ちょっとしかわかんないよ」と謙遜して答えた。
ミドリは東京で活躍する、そこそこ名のある占い師だ。
しかし、その本業は建築家である。
普段は二足のわらじで仕事に追われているのだが、今は三日間だけ休みを取り、こうしてここにいるのであった。
「それよりさ、なんか今、この空間……すごく変だよね。俺、今鳥肌すごいもん」
唐突なミドリの言葉に、訳も分からず、とよは深く瞬きをする。
「変ってなにが?」
考え込むように「う……ん」と唸ると、ミドリは降参するかのように、「うまく説明出来そうもないや。……まあ、いろいろと変なんだよ」と答えにならない答えを言う。
それから一つ呼吸をおき、
「例えばあの大鳥居……。運転手さんも言ってたけど、すごく変だと思わない?」
と神妙な顔つきで付け足した。
その言葉に、とよは深くうなずき同意する。
「うん、変だよー。お正月に実家に帰った時は、あんな物、なかったんだよ? あんなバカでかい鳥居を作った奴、本当にバカだよね。税金のムダ使いだよ!!」
「…………へっ?」
予想外の解答にミドリは狼狽えるが、それでもとよの演説は続く。
「そういえばお母さんが、今年からすごく税金が高くなったって言ってたし、実はこの市自体がすごく借金だらけなんだって。それなのに、あんなろくでもないもの作っちゃってさ! みんな頑張って納めてるんだから、税金は大切に使って欲しいよね。……って、東京に住んでる私が、こんなこと言う資格ないんだけど……」
そう言いながら、頬をピンクに染め、市に対して軽く怒っている。
ミドリはもう、苦笑いするしかなかった。
(…………なんでここで、税金の話になるんだろう……?)
それでもミドリは、そんなハチャメチャな思考のとよが、心の底から大好きなのであった。 |