0006* 突然の事故
同じ言葉を発した事に、お互いがしばし顔を見合わせる。
暗黙の了解で、相手が何を言おうとしているのか想像できたが、俊太郎は「先どうぞ」と佐伯に発言を促した。
えっと……という仕草で間をとった後、
「きっと言いたい事、僕ら一緒っすよね。あんな鳥居、今までなかった」
佐伯は鼻をこすりつつ言った。
俊太郎は目で、うん。と何度も頷いて、
「わからないことだらけで、本当に混乱しちゃいますよ」
深くため息をついて見せた。
――キキキキキィ…………『ガシャン!』
突然店先で、事故としか思えない大きな音が響き渡る。
「な、何だ!?」
佐伯と俊太郎は、緊急事態に、慌てて店を飛び出した。
「あ……」
一台の車が、不気味な大鳥居に突っ込んで煙を上げている。
正面衝突――そのフロントは見事にひしゃげている。
車種は、ホンダ・オデッセイだ。
「だいじょうぶか!?」
俊太郎は大声で車内に呼び掛ける。
中では、ITSヘッド・エアバッグ、サイドエアバッグ、カーテンエアバッグなどといった、ありとあらゆるエアバッグが膨らんでいる。
佐伯はグっと力を込め、助手席のドアをこじ開けた。
「痛ぁーい」
腕をさすりながら、栗色の長い巻き毛の少女がよたよたと外へ出る。
その足を覆うルブタンのヒールが、カツカツと音楽のように地面を鳴らした。
怪我はなさそうだが、少女のあまりの可愛さに、佐伯と俊太郎は思わず息をのんでしまう。
まるでキラキラと星が飛び散っているかのように、その周囲は後光がさして見える。
少女は一般人が着こなせそうもない、派手目の花柄ワンピースをさらりと着ていて、一目でタレントかモデルなのだろうと予想する事ができた。
「もう、マッツーったら、いきなり急ブレーキ踏むんだからっ。危ないじゃないの」
薄くチークの塗られた桃色の頬を膨らませ、微妙に怒っている。
「違う、ブレーキなんか踏んで無いよ。いきなりハンドルが効かなくなって、衝突したんだ!」
マッツーは運転席で必死に言い訳をする。
それから慌てて車外へ出て、少女の傍へ走り寄り、「リオ、怪我はないか?」と優しく言った。
「腕が折れそうー」
言いながら、リオはマッツーの前で腕をぷらぷらと振る。
青年医師、俊太郎は(それだけ動けばだいじょうぶだよ、アホラシ)と思いつつ、
「あなたのほうが、酷い怪我じゃないですか。ちょっと待ってて下さい」
と、マッツーに言った。
「え……?」
マッツーは事故直後で興奮している為気づかないが、額からダラダラと血液が流れ出している。
「きゃっ、マッツー、ひどい怪我じゃないの!」
ようやく気づいたリオは、オロオロとし始めた。
「おーい、智、俺の鞄持ってきてくれないかー?」
事故の音に反応して、車外に出ている智に、俊太郎は大声で話し掛ける。
「え? うん。……中の人、怪我してるの?」
智は心配そうに眉をひそめた後、手際良く後部座席から大きな鞄を取り出して、俊太郎の元に駆け寄っていく。
その鞄の中身は、医療品の簡易セット。包帯やら消毒やら、緊急時に備えていつも車に常備しているのだった。
「サンキュ。お前はそっちの女の子を見てくれ。なにか変化があれば、知らせてくれよ」
俊太郎はマッツーに近寄りながら、智にそう指示をする。
智は医学部に通う、成績優秀な学生であった。
「わかった」
そういって、リオに近寄っていく。
「……あっ……」
リオの目は、チカチカしていた。
自分に近づいてくる男の子は、まさに『王子』と呼べるような、線の細い美男子だった。
その瞳はひどく澄んでいて、一度見ると目が離せなくなってしまう。
右手で顔にかかる髪を横に撫でつけるしぐさ1つをとってみても、それは優雅で美しく、まさに薔薇が似合いそうな少年と言えた。
普段リオに近づいてくる男はどこか上気しているが、『王子』の顔はいたって涼し気。
向こうでマッツーを手当している青年医師と、どことなく似ているが、その顔はとてもミステリアスである。
切れ長の大きな瞳にかかる長めの前髪が、そう思わせるのかもしれなかった。
「……あの、僕の顔に何かついてます?」
あまりにもリオが見つめるので、智は少し不安になった。 |