0048* 漆黒の黒・純白の白
「はっ? なんだよ秘密って。しっかりこっちの名前を聞いたくせに、嫌な奴だな」
アーサーよりも先に反応したのはテユだった。彼にとって、声の主は気取っているとしか思えない。彼は気取り屋が嫌いだった。無論アーサーもしっかりとテユの気取り屋リストの上位にランクインしているのだが。
「ユン君、喧嘩腰はいけないね。もう少しだけ Tone down してみようか」
「うるせーよ!」
アーサーの言動、一つ一つがテユの感情を逆なでる。テユはどいつもこいつもうぜぇ奴だと思い、ヘルメットを畳に強く打ちつけた。
「少年、落ち着くが良い。秘密といえども時至ればそなた達に名を明かそう。我はそう断言する」
言い切ると声の主は再び鈴の音を暗闇で響かせる。
…… チリ、チリリ、リ、リン ……
鈴に合わせ、衣擦れの音が耳に届く。おそらく風の流れと軽快な足音から、舞を舞っているのではないかと二人は想像する事が出来た。
「「「悉に……闇し殿の縢戸。是に万の神の声のりたまひき時自ら照り明りきて咲ひき……」」」
声の主の発した謌と言える言葉に、テユは訳も分からず首をかしげる。それはまるで百人一首の流れるような独特な節。
「とても興味深い詩だね」
アーサーは満足そうに言う。
……チリリ、リリ、リン……
ようやく鈴の音は止む。すでに衣擦れの音も風も足音も、ない。
「間もなく此処は光に包まれ目を開ける事は叶わず。よって、閉じるが良い」
「は?」
テユは本日、幾度眉をひそめただろうか。それは眉間にしわが出来てもおかしくはない程。
次の瞬間、声の主が告げた通りに、漆黒の黒は一転、純白の白へと塗り替えられる。
テユとアーサーの視界はハレーションを起こした状態となり、あまりの眩しさに二人は顔をしかめ、目を固く閉ざした。
「光は持たず。月讀の力は強きゆえ、程なく消える。急ぎこちらを見るが良い。我はそなた達の前でのみ姿を現す」
「は……? 見ろだと? 無茶言うなよ、眩しすぎて目が潰れる」
テユは目を塞ぎながら言う。彼の頭は現在くらくらと揺れている。
そんなテユを横目に、アーサーはタイトなスーツの上着よりサングラスを取り出し、おもむろにかけた。そして声の主を見る。
「これは……!」
途端揚がる驚きの声。
アーサーが目にしたのは、いつか博物館で見た絵ような、古めかしい姿をした者だった。
そのヘアスタイルは、それぞれ両の耳の横で長い髪を8の字型に結った美豆良で、服装は筒袖の上衣に絹褌。それは膝のあたりで銀糸によって足結されていて、生地にはいずれも蓮の花をモチーフにした豪奢な刺繍が施されている。全てが上代の貴族男性を思わせる装飾。
中性的な顔だちのその者は、顔だけ見ても男か女か見当がつかないが、胸が平らなこととその骨張った骨格から男である事が分かる。
アーサーはその顔にひどく見覚えがあると感じたが、誰であったか思い出す事はできず、しばらく男の顔を見つめながら考えた。
「渡来人には我が姿、珍しく映ると見える。が、我にもそなたは珍しい」
言うと男はアーモンド型の目を細めて笑う。
「君は素晴らしいね。生きた歴史だよ」
アーサーは男に近づいた。
「あれ……?」
ようやく目を開ける事ができたテユは、男を見て驚いた。
「ちょっ……真人くん。埴輪みたいな格好して何やってんの?」
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