0004*『緑が丘交差点』
『緑が丘交差点』
――後日談、地元の人は、そろって首をかしげ、
「そんな交差点、ここには存在しないよ」
「ここは白山交差点まで、長く続く1本道のはずだけど」
だがその時……そこには確かに存在していた。
――『緑が丘交差点』
長年その地に住む坂下真人・真朝の両兄妹は、その異様な入口に疑問を持たなかった。
なぜならその光景は、この先にある『白山交差点』に酷似していたから。
日頃運転慣れしているタクシー運転手、佐伯にいたっても、同じ理由で全く疑問を感じていない。
後続の車、オデッセイに乗るマッツーも、“5本目の信号機”で右に曲がると記憶していたため、微塵も違和感をおぼえなかった。
……否。
マッツーは、黄色のビートルを追い抜かすことしか考えておらず、周りの風景や『緑が丘交差点』と記された標識を見ていなかったというほうが正しい。
静寂を破るかのように、その『緑が丘交差点』を右に曲がった先で、一つの『驚きの声』が上がった。
「うわっ。な、なんだよこれ!」
発したのは、ビートルやタクシー、オデッセイの500メートルほど前を走っていた、トヨタ・プリウスに乗る青年医師、勝浦俊太郎。
「こんなもの、いつの間に出来たんだ? ついさっきまでなかったぞ!?」
その声は半ば叫び声となって、車中に大きく響き渡る。
「えっ? 何? ……俊君どうしたの?」
俊太郎の従兄弟にあたる神川 智は、助手席で形の良い眉をひそめてみせた。
彼は東京からこの地に飛行機で到着したばかり。何が起こったのかさっぱり分からない。
「智……信じられねぇ事が起こった。……でけぇ……」
俊太郎は、まばたきを忘れたかのように目を見開いたまま、ただ上を見ている。
智はそれを横目で確認し、同じく恐る恐る見上げてみた。
二人の眼前にそびえ建つのは……およそ直径五メートルの円柱二本に支えられる、大きな大きな木造の大鳥居。――その高さ、三十メートル以上はあるように思われる。
異様なのは、その大きさもさることながら、それが法隆寺西院伽藍を彷彿とさせるくらいに年月を経た、とても古い材質であるということ。つまり作られたばかりではなく、大昔からそこに位置しているかのよう。
車道を挟み込むようにして、それは堂々と建っている。
まさに熊野本宮大社にある『大斎原』の大鳥居を思わせた。
「なんでこんなところに鳥居があるんだよ!?」
俊太郎はひどく困惑していた。
その心臓ははち切れそうになっており、小さな頃に患っていた持病の喘息が出てしまいそうな勢いだった。
「ええっ? この鳥居、元からここに無かったの?」
「ああ。こんなものあってたまるかよ。……信じられねぇ!!」
智は言葉を失った。何が起こったのか、頭の中はグシャグシャだ。
同じく俊太郎の頭の中もグシャグシャであったのだが、とりあえず家へ帰って落ち着こうと思い、アクセルをぐっと踏み込んだ。
……しかし、車は不気味にもエンストする。
(え? オートマなのに?)
おかしいと思いつつ、落ち着いてキーを右へひねるが、エンジン音は聞こえてこない。
(こんなはずは……。なっ……何が起こった?)
何度も再挑戦するが、結果は虚しく同じであった。
智は、ただならぬ雰囲気に怯え、
「俊君、エ、エンジンかからないの!? なんで?」
と、慌てて言う。
「わからねぇ。……車、買ったばかりなのにおかしい。……とりあえず電話してみる」
ハザードランプをつけた後、俊太郎はジャケットの内ポケットから携帯電話をとりだした。
その後、画面を見て愕然とする。
しだいに大粒の汗は、彼の涼やかな額を覆う。
「お、おい、智。お前の携帯を見せてくれ!」
「え? ……うん」
「早く!」
智は焦りながら、鞄から二つ折りの携帯電話を取り出し、俊太郎に手渡した。
俊太郎はそれをすかさず開いて見る。
……画面は赤い文字でこう記されていた。
――『圏外』
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