名前のない街(4/61)PDFで表示縦書き表示RDF


名前のない街
作:nico



0004*『緑が丘交差点』


『緑が丘交差点』

 ――後日談、地元の人は、そろって首をかしげ、
「そんな交差点、ここには存在しないよ」
「ここは白山交差点まで、長く続く1本道のはずだけど」


 だがその時……そこには確かに存在していた。
 ――『緑が丘交差点』

 長年その地に住む坂下真人・真朝の両兄妹は、その異様な入口に疑問を持たなかった。
 なぜならその光景は、この先にある『白山交差点』に酷似していたから。
 日頃運転慣れしているタクシー運転手、佐伯にいたっても、同じ理由で全く疑問を感じていない。
 後続の車、オデッセイに乗るマッツーも、“5本目の信号機”で右に曲がると記憶していたため、微塵も違和感をおぼえなかった。
 ……否。
 マッツーは、黄色のビートルを追い抜かすことしか考えておらず、周りの風景や『緑が丘交差点』と記された標識を見ていなかったというほうが正しい。




 静寂を破るかのように、その『緑が丘交差点』を右に曲がった先で、一つの『驚きの声』が上がった。

「うわっ。な、なんだよこれ!」

 発したのは、ビートルやタクシー、オデッセイの500メートルほど前を走っていた、トヨタ・プリウスに乗る青年医師、勝浦俊太郎。
「こんなもの、いつの間に出来たんだ? ついさっきまでなかったぞ!?」
 その声は半ば叫び声となって、車中に大きく響き渡る。

「えっ? 何? ……俊君どうしたの?」
 俊太郎の従兄弟にあたる神川 智は、助手席で形の良い眉をひそめてみせた。 
 彼は東京からこの地に飛行機で到着したばかり。何が起こったのかさっぱり分からない。

「智……信じられねぇ事が起こった。……でけぇ……」

 俊太郎は、まばたきを忘れたかのように目を見開いたまま、ただ上を見ている。
 智はそれを横目で確認し、同じく恐る恐る見上げてみた。

 二人の眼前にそびえ建つのは……およそ直径五メートルの円柱二本に支えられる、大きな大きな木造の大鳥居。――その高さ、三十メートル以上はあるように思われる。
 異様なのは、その大きさもさることながら、それが法隆寺西院伽藍(ほうりゅうじ・さいいんがらん)を彷彿とさせるくらいに年月を経た、とても古い材質であるということ。つまり作られたばかりではなく、大昔からそこに位置しているかのよう。
 車道を挟み込むようにして、それは堂々と建っている。
 まさに熊野本宮大社にある『大斎原おおゆのはら』の大鳥居を思わせた。

「なんでこんなところに鳥居があるんだよ!?」
 俊太郎はひどく困惑していた。
 その心臓ははち切れそうになっており、小さな頃に患っていた持病の喘息が出てしまいそうな勢いだった。

「ええっ? この鳥居、元からここに無かったの?」
「ああ。こんなものあってたまるかよ。……信じられねぇ!!」

 智は言葉を失った。何が起こったのか、頭の中はグシャグシャだ。
 同じく俊太郎の頭の中もグシャグシャであったのだが、とりあえず家へ帰って落ち着こうと思い、アクセルをぐっと踏み込んだ。
 ……しかし、車は不気味にもエンストする。
(え? オートマなのに?)
 おかしいと思いつつ、落ち着いてキーを右へひねるが、エンジン音は聞こえてこない。
(こんなはずは……。なっ……何が起こった?)
 何度も再挑戦するが、結果は虚しく同じであった。

 智は、ただならぬ雰囲気に怯え、
「俊君、エ、エンジンかからないの!? なんで?」
と、慌てて言う。
「わからねぇ。……車、買ったばかりなのにおかしい。……とりあえず電話してみる」
 ハザードランプをつけた後、俊太郎はジャケットの内ポケットから携帯電話をとりだした。
 その後、画面を見て愕然とする。
 しだいに大粒の汗は、彼の涼やかな額を覆う。

「お、おい、智。お前の携帯を見せてくれ!」
「え? ……うん」
「早く!」

 智は焦りながら、鞄から二つ折りの携帯電話を取り出し、俊太郎に手渡した。
 俊太郎はそれをすかさず開いて見る。


 ……画面は赤い文字でこう記されていた。


 ――『圏外』












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう