0039* 金色の植物
「それにしても……暑い」
相も変わらず煌々と輝いている砂漠では、影になる物は何一つなく、極上の日なたのまっただ中で、猿田毘古がけだるそうに胡座をかいて座っていた。
その目は二人の人間と、一柱の神の姿を追っている。
「まことに勝手な……いや、仲睦まじき事はなによりだが、いつまで拙者は……こうして待っておれば良いのだ。これは実にゆゆしき事態。熱中症になど、断じてなりたくはない……」
ブツブツとひとりごちるサルタヒコは途方に暮れ、着込んだ法衣をパタパタと仰ぎ、風を自らに送ろうと試みた。
しかし、そよぐのは熱風のみ。その暑さを助長させるだけ。
慌てて彼は仰ぐのを辞めた。
「もう絶えられん。ええい、暑すぎるわ!!」
彼はもう、暴れ出したい衝動に駆られていた。全ての衣服を脱ぎちぎってしまいたい。
しかしまだ何処かで理性が働いて、拳を握りぐっとこらえる。――我慢の限界はすぐそこにあった。
――グゴッ。
その時、サルタヒコの足元では、砂が異様な音をたてた。
「むっ……何事!?」
だれているとはいえ、咄嗟にその場に立った彼は、錫杖を思いっきり音の方へ突き立てる。
錫杖は高らかにリンと音を奏で、それに反応した夜尊が、遠くからサルタヒコをチラリと見た。
『くっ……。サルタヒコ、何を……するのです』
地中から、うめくような声がする。
サルタヒコは聞き覚えがある声に、慌てて飛び退き、片膝をついて礼をする。
それは彼の主、邇邇芸の命の声に似ていた。
「ニ、ニニギ殿であらせられるか!?」
『……いいから早く、錫杖を抜いてくれませんか』
「そのような地中で一体何をしておられるので?」
『ですから、とりあえず先に抜いてください』
おそるおそる砂深くに突き刺した錫杖を握り、サルタヒコはキョロキョロと左右を確認する。
本当に主であるのか、少しばかり自信がないためであった。
ふと、夜尊を見やると、こちらの様子を気に止めるでもなく、再び真朝と何やら話している様子。
(なんとのんきなお方だ……)
サルタヒコは、緊張している自分がバカバカしくなり、力を込めて錫杖を引き抜いた。
――グゴゴゴッ、グモッ。
不気味な音とともに、サルタヒコの足元の砂は、みるみる歪な形でこんもりと盛り上がっていく。
「ぬっ!?」
足場が非常に悪くなり、サルタヒコはぐらりと大きく揺らついた。
彼は錫杖を握りしめ、弧を描いて飛び跳ねる。
それは、少しばかり恐怖心を抱いていたのか、夜尊の方向であった。
「しびれを切らしたのかナ。ニニギが来たネ。ちょっと情緒不安定みたイ」
夜尊は真朝にじゃれつきながら、ぽつりとサルタヒコにそう言った。
その言葉と同時に乾いた砂漠には、植物が地中よりバサバサと音を立てながら発芽する。
「な、なによ、アレ……」
真朝は驚き目を見開くが、夜尊は「あれは何でもないから気にしないデ」と、彼女を覗き込むようにして告げた。
植物はみるみる大きくなって、その全貌が圧倒的な存在感をもってあらわれる。それは遠目にも一株の『稲』であることが確認出来た。
たわわに実った穂は金色に輝き、見るからに豊作だ。
通常の稲よりもやたらと大きく、その高さ、七メートルはあるかと思われる。
「なんだかすごく大きい……稲なのね」
真朝は顔を引きつらせながら、たどたどしく言った。 |