名前のない街(39/61)PDFで表示縦書き表示RDF


名前のない街
作:nico



0039* 金色の植物


「それにしても……暑い」

 相も変わらず煌々と輝いている砂漠では、影になる物は何一つなく、極上の日なたのまっただ中で、猿田毘古サルタヒコがけだるそうに胡座をかいて座っていた。
 その目は二人の人間と、一柱の神の姿を追っている。

「まことに勝手な……いや、仲睦まじき事はなによりだが、いつまで拙者は……こうして待っておれば良いのだ。これは実にゆゆしき事態。熱中症になど、断じてなりたくはない……」

 ブツブツとひとりごちるサルタヒコは途方に暮れ、着込んだ法衣をパタパタと仰ぎ、風を自らに送ろうと試みた。
 しかし、そよぐのは熱風のみ。その暑さを助長させるだけ。
 慌てて彼は仰ぐのを辞めた。

「もう絶えられん。ええい、暑すぎるわ!!」

 彼はもう、暴れ出したい衝動に駆られていた。全ての衣服を脱ぎちぎってしまいたい。
 しかしまだ何処かで理性が働いて、拳を握りぐっとこらえる。――我慢の限界はすぐそこにあった。

 ――グゴッ。

 その時、サルタヒコの足元では、砂が異様な音をたてた。 
「むっ……何事!?」
 だれているとはいえ、咄嗟にその場に立った彼は、錫杖を思いっきり音の方へ突き立てる。
 錫杖は高らかにリンと音を奏で、それに反応した夜尊が、遠くからサルタヒコをチラリと見た。


『くっ……。サルタヒコ、何を……するのです』

 地中から、うめくような声がする。
 サルタヒコは聞き覚えがある声に、慌てて飛び退き、片膝をついて礼をする。
 それは彼の主、邇邇芸ニニギみことの声に似ていた。

「ニ、ニニギ殿であらせられるか!?」
『……いいから早く、錫杖を抜いてくれませんか』
「そのような地中で一体何をしておられるので?」
『ですから、とりあえず先に抜いてください』

 おそるおそる砂深くに突き刺した錫杖を握り、サルタヒコはキョロキョロと左右を確認する。
 本当に主であるのか、少しばかり自信がないためであった。
 ふと、夜尊を見やると、こちらの様子を気に止めるでもなく、再び真朝と何やら話している様子。

(なんとのんきなお方だ……)

 サルタヒコは、緊張している自分がバカバカしくなり、力を込めて錫杖を引き抜いた。


 ――グゴゴゴッ、グモッ。

 不気味な音とともに、サルタヒコの足元の砂は、みるみる歪な形でこんもりと盛り上がっていく。
「ぬっ!?」
 足場が非常に悪くなり、サルタヒコはぐらりと大きく揺らついた。
 彼は錫杖を握りしめ、弧を描いて飛び跳ねる。
 それは、少しばかり恐怖心を抱いていたのか、夜尊の方向であった。

「しびれを切らしたのかナ。ニニギが来たネ。ちょっと情緒不安定みたイ」
 夜尊は真朝にじゃれつきながら、ぽつりとサルタヒコにそう言った。

 その言葉と同時に乾いた砂漠には、植物が地中よりバサバサと音を立てながら発芽する。

「な、なによ、アレ……」
 真朝は驚き目を見開くが、夜尊は「あれは何でもないから気にしないデ」と、彼女を覗き込むようにして告げた。

 植物はみるみる大きくなって、その全貌が圧倒的な存在感をもってあらわれる。それは遠目にも一株の『稲』であることが確認出来た。
 たわわに実った穂は金色に輝き、見るからに豊作だ。
 通常の稲よりもやたらと大きく、その高さ、七メートルはあるかと思われる。

「なんだかすごく大きい……稲なのね」
 真朝は顔を引きつらせながら、たどたどしく言った。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう