0034* コレの続きを
『その声色で名を呼ばれると、ゾクゾクするよ。愛しい兄上』
ミチルは恍惚とした表情で、笑う。その両手は夜尊を迎え入れる為であろうか、大きく開かれている。
夜尊は片手で真朝を抱え直すと、マントの中に手を入れて、彩絵檜扇を取り出した。
やがて手を振り、扇は開く。
『ま、待て兄上。この身はかりそめ。それで攻撃すれば、この女は死ぬぞ』
ミチルは頭上で手を交差させ、身を守ろうと試みる。
「ば、馬鹿な。須佐之男だと!? 御主……建速須佐之男の命で在らせられるのか!」
猿田毘古の声は、驚きで上ずってしまう。
スサノオ――それは、根堅州國を統べる神の名前。邇邇芸の命にとって、最悪の敵である。……そして彼に仕える者、すなわちサルタヒコの敵。
ミチルは横目でちらりとサルタヒコを見、太々しく『だとしてもお前には関係ない』と冷ややかに告げる。そして、邪魔者は引っ込んでろとばかりに、手を振り、去れと合図をした。
「ぬ……。拙者はこれまで手を抜き過ぎた。スサノオ殿、覚悟!!」
サルタヒコは砂を蹴ると、ミチル目がけて突進する。そして錫杖を彼女に突き刺すように前へと出した。
ミチルはやれやれとばかりに錫杖を受け流す。
『馬鹿かお前は、空気読め。邪魔なんだよ』
そう言いながら、力の限りサルタヒコの腹部に蹴りを入れた。
サルタヒコは呻きながら後方へ跳びずさる。
『あーあ、お前が余計な事するからスカートが破れたじゃねーか。どうしてくれる』
ミチルのタイトスカートは、蹴りの瞬間、見事に破れてしまった。まるで深く切れこんだスリットのよう。
破れ目からは、すらりとした生足がのぞく。
「スサノオ。で、どうするノ? 帰るの、それともボクと戦ウ?」
夜尊はニコニコと微笑みながら、彩絵檜扇で顔を煽いでいる。
その声は、すでにいつもの舌足らずな声であった。
ミチルは慌てて膝を折ると、困ったように夜尊を見上げ、首を横に振る。
『兄上、俺は戦うつもりなどない。「影ぬい」が解けた今、本来の姿でない俺が、あなたに適うはずもない。ましてや今日は満月で、あなたの力は満ちている。……分かるだろ? 今日は大人しく退散する』
鼻をすんとすすり、夜尊は扇を閉じた。そして、マントの中へと仕舞い込む。
「つまんなイ。キミと戦って、マアサにカッコイイ所見せようと思ったのニ」
そして続ける。
「もうボクの前に現れないでネ。バイバイ、スサノオ」
ミチルは呆れ顔で失笑する。そして再び艶やかな黒髪をなめまかしく耳にかけた。
『たとえあなたが望まなくても、近い内に必ず会う。必ず『女』を選んでもらう。今日のところはこのようにして会うのが目的だった。それに――』
その手は己の唇に触れ、魅惑的に夜尊に向けて投げキッスする。
『近い内にコレの続きを』 |