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名前のない街
作:nico



0025* 水晶はかく語りき


「二人、足りない」

 蝋燭ろうそくがゆらゆらと揺れ、闇の中、辺りをぼんやりと浮き上がらせている。
 時折灯りは意図的に左右に揺らぎ、その場にいる者を一人づつゆっくりと照らし出していく。
 皆、冬眠しているかのように横たわり、目を固く閉じ、その顔は血の気がなく、まさに蝋人形のようであった。

「……八、九、十。……やはり足りない」
「どうなされました? 邇邇芸ニニギ殿」

 ニニギは手に朧銀ろうぎんの燭台を持ち、声の方へと流れるように歩いていく。
 やがて前方に影を確認すると、その歩みをはたりと止めた。
猿田毘古サルタヒコ、二名足りません。きっとまだあの場に留まっているのでしょう。しかし門はすでに閉じてしまい、再び開けるには時間がかかります。急ぎ葦原中国あしはらのなかつくにに戻り、連れて来てもらえませんか?」
 朧げに浮かぶ、サルタヒコの亀裂の入った天狗面。
「御意」と一言だけ告げて、踵を返し去っていく。

「ああ、それから……」
と呼び止め、ニニギは続ける。
「まだ未確認なのですが、根堅州國ねのかたすくにの者が黄泉平坂よもつひらさかに向ったという報告がありました。まだあの辺りは大丈夫だとは思いますが、くれぐれも心して下さい」
 サルタヒコは振り向くと、こくりと頷き、やがて闇に消えて行った。

 

「これ程までに奴の動きが早いとは。……うかうかとしていられないな」
 そう呟くと、ニニギは右の手の平を、ため息まじりに覗き込む。
 その手には、いつ現れたのか、艶やかな水晶玉が煌めきながら乗っている。

 ――『ニニギ、首尾はどうなのです』

 水晶からは、雅楽のように趣のある声が鳴る。
 それでいて、儚い鈴の音のような……。
 声と同時にそこに写る、神々しく輝く女の姿。
 あまりに光が強いので、その素顔を直視することはできない。
 ニニギは眩しさに目を細め、
「お祖母様、未だ準備段階です。しばし、お待ち頂けますよう……」
と丁重に告げ、頭を下げた。
 ――『して、あの者は?』
「それが、ただいま行方が分かりません。是より捜索致します」
 ――『頼みましたよ。くれぐれも彼奴に会わせてはなりません』
 光は徐々に薄くなり、やがて女の姿もふつりと消える。
 同時に右手の水晶玉も、煙のようにかき消えた。


「…………夜尊よるのみこと……不憫なお方だな。知れば、どう動かれるのだろう」
 ニニギは眉を歪ませて、静かに虚空を見つめ続けた。












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