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名前のない街
作:nico



0023* 151515151515


 風は、止んだ。
 一体どのくらいの時間が経過したのであろうか。
 黄色のビートルの車内では、坂下真朝がうずくまり、ただひたすら恐怖に涙してカタカタと震えていた。
 両耳に当てた手は小刻みに揺れ、涙を拭おうにもうまくいかず、
「……夢よ。夢だわ……夢に決まってる」
と呟きながら、白いワンピースの袖で目頭を押さえつけた。
 彼女は首を振り、必死に目の当たりにした光景を否定し続けている。
 すべてが現実離れしすぎていて、まさに幻のような出来事だった。
 皆、消えてしまった……。


 ――その時、突然携帯電話は鳴る。
 彼女は驚き、ビクンと上体を動かした。
 震える手でおそるおそる二つ折りの携帯を開けてみる。
 その画面を見た瞬間、彼女は「キャッ!」と小さく悲鳴を上げて、電話を足元に叩きつけ、
「もう、嫌だっ!!」
と声を上ずらせて叫んだ。

 表示は『圏外』
 発信元は『151515151515』
 ――12桁。

 震える手で両耳をしっかり押さえるが、着信音は鳴りやむ気配はない。
 延々と鳴り続けている。
「な、何だっていうの……止めて、止めてっ……!」
 耳を強く押さえていても、不気味な音は鮮明に脳内を駆け巡ったまま。
 頭の中では、映画のように映写機が、151515151515という数字を上映し続けている。

(神様、助けて!!)

 ………………
 携帯は、おそらく100回近くは鳴り続けただろう。――しかし、未だに鳴り止まない。
 真朝の恐怖はどんどんエスカレートして、歯はカチカチと音を立てた。
 暑くもないのに汗はどんどんしたたって、服に水滴となって落ちていく。

「う、う、う」

 やがて観念したのか、手探りで携帯を探しはじめる。
 指先は物体を捉え、震えながら足元から拾い上げると、
「……も、もし、もしも……し」
と呟くように電話に出た。あまりうまくしゃべれない。

「あ〜、やっと出タ。キミ、出なさすぎだヨ。ボクもうちょっとで怒るところだったんだからネ。……ボクが怒ると、怖いんだヨ? どうなっても知らないヨ!」

 特徴のある篭った声。
 男なのか女なのか、大人なのか子供なのか、全く見当がつかない。

「だ……誰? 誰なの?」
「ボクー? ボクの名前はネー。…………うーん、困っタ。だってボクにはたくさん名前があるんだもノ。どれを名乗ろうかナ? うんとかわいいやつがいいよネ。……っていうか、キミ、車から出てきてくれル? 10秒待つかラ」

 真朝は引きつり、とっさに中腰になって、車内からキョロキョロと電話相手を探してみる。
 見えるのは、ゴーストタウンを思わせる街並み、主のいなくなったタクシー、ワンボックス、ハーレー、プリウス、そして大鳥居に激突しているオデッセイ。
 それらしき者は見あたらない。
「ど、どこにいるのよ?」
「おしえなイ。早く出テ」
 真朝は迷う。出て危険じゃないのか? でも、真人を探さなければ。でも、どうしたら? と。

「じゃあ数えるネ。ひとーつ、ふたーつ、みっつ……」

 電話の向こうでは、無情にもカウントが始まった。












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