0019* 迫り来る危険なもの
「おかしいなぁ……」
タクシー運転手の佐伯は腕を組み、じっと交差点付近を見つめている。
大鳥居を背に、黄色のビートルとタクシー、ワンボックスカーのそのまた向こう。
信号は青く点灯していているが、やがて黄色になり、そして赤へと変化する。
その後、後ろへ振り向いて、大鳥居の向こう側に続く車道を見つめた。
「……やっぱり変だ」
「どうしたんですか?」
青年医師、勝浦俊太郎は、“マッツー”こと松原真之介の額に包帯を巻き付けながら、佐伯を見る。
そして処置が終わると、中腰からスクっと起立し、彼の方に歩いていった。
近づいてくる俊太郎に対して佐伯は、
「さっきから車が一台も通らないんですよ。いつもは車通りが激しいのに……。僕らのように車が故障していたとしても、人すらいないのは変ですよね。どの家も、呼鈴鳴らしても反応ないし……」
と、首をかしげながら言う。
佐伯はずっと、電話を借りる為に付近の住宅をまわっていたのである。
「そういえば……」
俊太郎は記憶をたどるが、行き交う車は見ていない。
そしてぐるりと辺りを見渡すと、街は閑散として見えた。
民家や店はあるけれど、人の出入りはなく、歩行者の姿もない。
生活音も全くしない。
――まるで、すべてが眠っているかのよう。
「たしかに……車が通らないですね。街の様子も変だ」
日中に車や人の姿が途切れるなど、駅が近いその街では、普段決してありえないこと――。
「とよちゃん、逃げよう」
タクシーの中、後部座席に座る男は、突然ぽつりとそう言った。
「え〜、逃げちゃうのー?」
とよは冗談だと思い、笑いながら首をかしげるが、隣の男の顔を見たとたん、
「ミドリ、だいじょうぶ!? 具合悪いの?」
と、驚きの声をあげた。
彼の顔は青ざめ、額やこめかみからは汗が玉となってじわりと浮き出している。
とよはその額に触れ、熱があるか確認するが、同時に彼が小刻みに震えている事を知る。
「熱はないけど……どうしたの? 何があったの?」
目を潤ませながら、ミドリの顔を覗き込む。
「ここは危険だから、早く逃げよう」
ミドリは急いでそう言うと、とよの手を取り、後部座席のドアを思いきりバタンと開けた。
そして振り向き、「とよちゃん、急いで!」とその手を思いっきり自分のほうへ引き寄せていく。
「きゃっ」
あまりに力が強いので、とよはペタリと座席に転がってしまう。
ミドリは上から抱え込むように、とよの体を持ち上げて、外へと急いで引きずり出した。
「ごめんね。でもすごく嫌な感じがするんだ。……なにかが、来る」
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