名前のない街(17/61)PDFで表示縦書き表示RDF


名前のない街
作:nico



0017* まちぼうけ


「まだなのか? 一体いつ来るというのだ……」

 『緑が丘交差点』にて、忍耐強く『あと1人』を待つ猿田毘古サルタヒコは、それはそれはとても退屈していた。
 現在彼は自らの身体を発光させているのだが、それには深いわけがある。

 当然の事だが、一般車両には『緑が丘交差点』は確認できない。
 邇邇芸ニニギみことの独断と偏見で選ばれた者にだけ、交差点はその姿を現すのである。
 したがって行き交う車は、『緑が丘交差点』の手前にいるサルタヒコの姿のみを確認することができた。
 ただし、ガードレールが続く長い一本道に、唐突にポツンとたたずんでいるように、である。


「ワァ、天狗だー」
「……何あれ?」
「今日はお祭りなのかなぁ」

 彼を目撃した人は、口々にそのような事を言う。
 ……無理もない。彼は天狗の面をかぶり、古風な装束を着込んでいるのだから。
 挙げ句の果てに、わざわざ車から降りてきて、「私達と一緒に、写真いいですかぁ?」と言う者さえいる。
「はいチーズ」
の声とともに、ポーズをとった人間達と写真に写ってしまったサルタヒコは、たいそうニニギに対して腹を立てていた。

「くぅ、この仕打……断固抗議に値するぞ」

 神は人に崇められ讃えられて然るべき。
 見世物と化しているサルタヒコは、もう我慢の限界となっていた。
(なぜこのくだらぬ役目が、拙者である必要があるのだ!)
 怒りとともに、その体は徐々に光が満ちてくる。
 本来、天照大御神アマテラスオオミカミ以前に伊勢で信仰されていた『太陽神』である彼は、感情が高ぶると知らぬうちに輝いてしまう。
 ――勿論自らの意思でも発光できるのだが。

 しかし、結果として光る事は、サルタヒコにとって好都合なこととなる。
 なぜなら本日は雲一つない快晴……。
 太陽光が降り注ぐ中、光は回りの景色になじみ、その姿をうまく包み込む。
 まさに絶好の隠れみのであった。
 サルタヒコはもう、見世物にならずに済んだのである。

「……しかし、疲れる……」



 しばらくして、サルタヒコの感情も落ち着いた頃。
 彼は、いや、彼等はやって来た。
 大型のハーレーダビッドソンはぐんぐんと近づいてくる。
 視力が異様にいいサルタヒコは、すでに『ユン・テユ』と『塚本』の姿をとらえていた。
「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」
 そしてまずテユをまじまじと見る。
 ヘルメットとゴーグルを装着しているものの、一目でかなりの『美形』であることが確認できる。
「フン。ニニギ殿は相変わらずの美形好きと見えるな」

 そして後ろに座する者……
 先刻、ニニギの告げた言葉を思う。
【これより来る者の、後ろに座する醜女しこめを落とせ】
 サルタヒコは、「ククク」と笑う。
「これは酷い。石長比売イワナガヒメに瓜二つではないか。クククク」

 手に持つ錫杖しゃくじょうをシャラリと鳴らし、サルタヒコはにんまりと微笑んだ。
「さてさて始めるか。このようなくだらぬ仕事、素早く終わらすにかぎる」












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう