0017* まちぼうけ
「まだなのか? 一体いつ来るというのだ……」
『緑が丘交差点』にて、忍耐強く『あと1人』を待つ猿田毘古は、それはそれはとても退屈していた。
現在彼は自らの身体を発光させているのだが、それには深いわけがある。
当然の事だが、一般車両には『緑が丘交差点』は確認できない。
邇邇芸の命の独断と偏見で選ばれた者にだけ、交差点はその姿を現すのである。
したがって行き交う車は、『緑が丘交差点』の手前にいるサルタヒコの姿のみを確認することができた。
ただし、ガードレールが続く長い一本道に、唐突にポツンとたたずんでいるように、である。
「ワァ、天狗だー」
「……何あれ?」
「今日はお祭りなのかなぁ」
彼を目撃した人は、口々にそのような事を言う。
……無理もない。彼は天狗の面をかぶり、古風な装束を着込んでいるのだから。
挙げ句の果てに、わざわざ車から降りてきて、「私達と一緒に、写真いいですかぁ?」と言う者さえいる。
「はいチーズ」
の声とともに、ポーズをとった人間達と写真に写ってしまったサルタヒコは、たいそうニニギに対して腹を立てていた。
「くぅ、この仕打……断固抗議に値するぞ」
神は人に崇められ讃えられて然るべき。
見世物と化しているサルタヒコは、もう我慢の限界となっていた。
(なぜこのくだらぬ役目が、拙者である必要があるのだ!)
怒りとともに、その体は徐々に光が満ちてくる。
本来、天照大御神以前に伊勢で信仰されていた『太陽神』である彼は、感情が高ぶると知らぬうちに輝いてしまう。
――勿論自らの意思でも発光できるのだが。
しかし、結果として光る事は、サルタヒコにとって好都合なこととなる。
なぜなら本日は雲一つない快晴……。
太陽光が降り注ぐ中、光は回りの景色になじみ、その姿をうまく包み込む。
まさに絶好の隠れ簑であった。
サルタヒコはもう、見世物にならずに済んだのである。
「……しかし、疲れる……」
しばらくして、サルタヒコの感情も落ち着いた頃。
彼は、いや、彼等はやって来た。
大型のハーレーダビッドソンはぐんぐんと近づいてくる。
視力が異様にいいサルタヒコは、すでに『ユン・テユ』と『塚本』の姿をとらえていた。
「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」
そしてまずテユをまじまじと見る。
ヘルメットとゴーグルを装着しているものの、一目でかなりの『美形』であることが確認できる。
「フン。ニニギ殿は相変わらずの美形好きと見えるな」
そして後ろに座する者……
先刻、ニニギの告げた言葉を思う。
【これより来る者の、後ろに座する醜女を落とせ】
サルタヒコは、「ククク」と笑う。
「これは酷い。石長比売に瓜二つではないか。クククク」
手に持つ錫杖をシャラリと鳴らし、サルタヒコはにんまりと微笑んだ。
「さてさて始めるか。このようなくだらぬ仕事、素早く終わらすにかぎる」
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