0012* 教えてくれるかい?
「Sorry、間違えた。……君にはこっちだね」
プラチナブロンドの青年は再び名刺を取り出し、またもやスマートに真人に渡す。
それは銀色の特殊な紙でできており、白インクで『美術評論家 アーサー・ギース・ギャロット』と書かれていた。
アーサーは軽くウィンクし、「怪しい者じゃないよ。僕は君に聞きたいことがあるんだ。……いい?」と、人なつこく笑う。
真人はぎこちなく笑い返し、それから手に持つ名刺をもう一度じっくりと見た。
(……いいなぁ。俺だって、こんなカッコイイ名刺がほしい。うちの会社なんて、うすっぺらい再生紙だもんなぁ。貧乏くせぇ。……っつーか、美術評論家って一体何するんだ!?)
仕立ての良いスーツは、その質感と縫製で、最高級のものという事が分かる。
さりげなく履きこなしている靴も同様。なんとも言えない艶がある。
そしてハリウッドスター顔負けの外見……。
この人、ただ者じゃないな。と、真人は思い続けていた。
アーサーはさりげなく大鳥居に目線を移し、そして再び真人を見る。
その目力の強さは、思わず目をそらしてしまうほど。
これが『キラーアイ』というやつか……と、そんな事を思わせる視線であった。
「ねぇ、ずっと気になっていることがあるんだけど、教えてくれるかい?」
「え? あ、ああ……いいですよ」
(もしかしてこの人……そこまでして俺の名前が知りたいんじゃ……)
バカバカしい考えに、んなわけねぇよなと1人でツッこみ、真人は吹き出しそうになるのを必死で堪えた。
アーサーは一息ついた後、話し始める。
その表情はこの上なく真剣である。
「ねぇ、あの大鳥居は一体どこの神社のものなんだい? あれは本当に素晴らしい! ……たしか、日本に現存する最古の木造鳥居は、1540年に建立された窪八幡神社のものだけど、あの大鳥居はどう考えてもそれより古い。僕には世界最古の木造建築と言われる、607年に創建された法隆寺よりも、もっと古く感じられるんだ。これはかなりの歴史的発見だよ! しかも、ここまで巨大ときてる。……だから僕に、あの鳥居の事で知ってる事を詳しく教えてくれないか? 僕の通訳は、この土地の出身ではないから何も知らないんだ」
アーサー興奮し、その整った顔は少し上気している。
それはまさに、『湯上がりピンク』といったところだ。
「………………」
真人はめんどくさいことになってしまったと思い、黙り込んでしまった。
基本的に蘊蓄たれは、嫌いなのだ。
……なぜなら聞くのも答えるのも『めんどう』だからである。
「あのー。……あれはですねぇ、昨日まであそこに無かったんです。で、今日なぜかいきなり建ってましたぁ。だからその、世界最古っつーか、歴史的発見っつーか。……これはもう、ぶっちゃけ『怪奇現象』ってやつっすね。ハイ。」
「…………Do really?」
それからアーサーに質問攻めにされ、ジーンズのポケットに手をつっこみながら、これまでの事を嫌々説明する。
質問攻めは予想していた事であるが、真人もわからない分、やはり答えられる事は限られていた。
それでも大きな目をさらに広げて、アーサーはその言葉をじっくりと聞く。
それは好奇心いっぱいの子供のような顔であった。
(やべぇ……。こんな所でグダグダ立ち話してると、奴に怒られちゃうぜ)
真人は質問に答えながら、ずっと背後を気にしていた。
(まずいよなぁ)
緊張で口の中にはイヤな唾液が溜まり、ごくりとそれを飲み干した。
それから勇気を振り絞り愛車をチラ見すると、運転席に恐ろしく鋭い形相が一つ……。
(怖!! ……やっぱ怒ってるし……) |