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名前のない街
作:nico



0011* Arthur Guise Garrotと疑惑


 アーサー・ギース・ギャロット。
 この長い名前は、彫刻のような顔を持つ、英国人のフルネームである。
 ハイエースの運転席に座る、彼の通訳、浅田ミチルはぼんやりといくつか考え事をしていた。
 その目はずっと、バックミラーを映している。

 まずは一つ目。
 ――車はなぜ動かなくなったのか。
 これは彼女だけでなく、大鳥居、すなわち『緑が丘交差点』を通過した者が皆、思っていることだ。
 ちなみに彼女はこの土地の者ではないため、携帯電話が圏外であることに、なんら疑問は抱いていない。使えないなと思うのみである。

 そして二つ目……。
 これが今、彼女が最も考えていることである。
 ――アーサ・ギース・ギャロットがゲイであるという噂は本当なのだろうか。

 これは彼の仲間内で囁かれている噂なのだが、最近ミチルもゲイ説は本当なのかもしれないと思い始めている。
 彼が女に対して興味を抱いている姿を見たことがないからだ。
 彼女は6ヵ国語に堪能で、アーサーの通訳としてここ3ヵ月は働いているのだが、いまだに彼の傍に女の影を見た事がない。
 それに、魅力的で美しいとちやほやされて育ってきた自分に対して、アーサーは全く興味を示さず、その上、あの手この手を使って誘惑しても、軽やかにかわされ、すべて徒労に終わっているのだ。
 これがゲイではないとしたら、何だというのか。――彼女はそう思わずにはいられない。
 そして今のこの出来事。……後ろに止まる黄色のビートルから男の子が出てきたとたん、じっと見つめ、タイミングを合わせて車から出て行ってしまった。
 ……すごく怪しい。と、疑惑の目で、バックミラーごしに二人を見ていた。




 
「君の名は?」
「……へ?」

 唐突に名を聞かれ、真人はうろたえた。
(なぜ俺の名を聞く……?)
 その上、目の前の外国人は、ひたすらまっすぐ自分の顔を見つめている。
 人と目を合わせるのが苦手な彼は、気まずい面持ちで目を泳がせていた。

「ああ失礼、僕はこういう者だよ」
 スマートな動きで、『ジュード・ロウ』は名刺を差し出した。
 それは、流れるような美しい筆記体で書かれた、『貴族』を思わせる名刺であった。


【Arthur Guise Garrot】 


「……あ、あの、すんません。……俺、英語わかんないんですけど……」













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