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今回は新一サイドです。
前に言ったような、順番に、新たん(現実世界)、志保さん(夢?世界)のような感じで進むことはあったり、なかったりの感じだと思うのでよろしくお願いします。
第17話 後悔 (新一サイド)
 一方、工藤新一が動きだしたのは、博士が帰った後の朝10時ごろ。
 先ほど彼のもとへ寄越してきた行方知らずの宮野志保からの電話の内容は、未だ要領は掴めてないけれど、とにかく彼女の言葉によればこの日本を、いや、世界中を探しても、現時点では宮野志保は見つからないということだけは何となく理解できた。

 『自分は魔法使いの気まぐれで魔法使いに魔法をかけられ、此処ではないどこかの世界へ飛ばされた。』

 ファンタジー小説じゃあるまいし、そんな非科学的なことあるわけない。けれど、自分も小さくなるはずない体が幼児化されたという―――『科学の手』は借りてはいるけれども―――不思議な現象を身にもって体験しているわけだし、そしてそれを作ったのは、今電話をかけてきた張本人でもあるし。また、成功失敗両極端ではあるが、タイムマシーンでも作れそうな男も身近にいるし。だから100パーセント信じないと決め込むこともなかった。

 けれども。
 いや、しかし。

 考えれば考えるほどループに陥る。
 だから、とにかく。

 「米花中央駅のロータリーにいくしかねぇ、よな…」
 それが彼女みやのを助ける鍵となるのであれば。

 そこにいる60〜70前後のお婆さんを探せ。
 ―――さて、はたしてそう簡単に見つかるか。

 1、2度顎を指の腹でぽんぽんと叩きながら、考える。

 「ったく。俺も同じ境遇に陥ったよしみだからとはいえ、甘ぇよな」

 そんな自分に小さく苦笑したあとで大きく伸びをすると、蘭が昨日の夜作ってくれた夜食を冷蔵庫から取り出し、レンジでチンする。なんだかんだ言って、ずっと起きて仕事をしていたというのに、本日始めての食事。不思議にもそんなに腹は空いてなかったが、さすがに一睡もしていないので、これから本腰を入れてまた新たな捜査に入るというのに何も食べていないのでは、体力が持たない。それに、蘭の食事は自分にとっての何よりのエネルゲンとなるのだ。
体力的にも勿論、精神的にも。

「…魔法使い、か」

 レンジの中でぐるぐる回る皿を見ながら、彼はポツリとつぶやいた。もう何度呟いただろう、この言葉。電話で志保が口にしてからというもの、その言葉が頭に付いて離れなかった。

「アイツが一番魔法使いなんじゃねーかって思うけどな」

 こんなことを言ったのがバレたら絶対怒られるとは思うけど。
 新一は自分が呟いた言葉に思わず苦笑いを浮かべ、それから一緒に冷蔵庫から取り出していたオレンジジュースの紙パックからコップに注いで、それを喉の奥に流し込んだ。

 ピンポーンというチャイムの音に、彼はようやく温まった食事をレンジに残し、玄関のカギを開ける。こんな時間に来る相手といえば。

「帰って来てたんだ」
 蘭だ。ひょいと顔を覗かせてほんの数ヶ月前まではただの幼馴染で、今はもう恋人となった女性。彼の顔を見た途端、ほっとした顔をしてみせた。新一もまた自然と顔がほころんだ。
「おぅ、今作ってもらった飯食って、出掛けるとこ」
「また出掛けるの?」
 新一の言葉に心配そうに顔を曇らせる彼女に、心底申し訳ない気持ちになる。
「体、壊れちゃうよ?」
「平気だよ。それに今回はちょっと私情も含まれてるんだ」
「え?」
「宮野が行方不明なんだよ」
 彼の発したその言葉に、蘭は案の定驚いた表情を浮かべた。
「志保さんが?大変じゃない」
「あぁ。それで、米花中央駅のロータリーにいるばあさんを探してくれって連絡があって。そいつを見つけるべく腰をあげた、っつぅわけさ」
「…ロータリーにいるおばあさん?」
 その整った眉を一瞬顰め、蘭は彼に聞き返す。彼女がそんな顔をするのは無理もないことだ、そう新一は思ってはいたが。
「あぁ、何でも魔法使いだと」
「魔法使い?…「あれ?彼女ってそういうこと信じるコだったっけ?逆にそんなこと少しも信じないっていうタイプだと思うけど」
 信じられない、という様子の蘭に、新一は大きくうなずいて見せた。彼女を部屋に招きいれながら会話を続ける。
「だろ?だからちょっと気になって。探してみようと思ってよ。まぁ毎日いるわけねーかもしんねぇけど。手がかりくらいは掴めるだろ。そーしなきゃあいつが帰ってこないっつぅんなら、まぁその根本となるその人物って言うそのばぁさんを探さなきゃってな」
「それにしては結構暢気ね。…切羽詰まってるとか、危険が迫ってる、みたいな様子が見えないんだけど。ねぇ、志保さん、本当に大丈夫なの?」
「…さぁな」
「さぁな、って」

 困惑したような蘭の表情。無責任だとも思われたのかもしれない。でも、実際そう思われても仕方のないことかもしれない。だけど。

「俺もよくわかってねぇんだけどさ。なんだかあっちの世界だとかこっちの世界だとか。電話を聞いてると、少なくとも自由の利く生活をしてるみたいだから。そこまで急ぐ必要はねぇのかなとも思うけど」
 けれど、帰りたいのに帰って来られない状況に立たされている。

 一体彼女は、どこにいるのだろう。

 博士から最初に『志保くんが帰ってこない』と連絡を受けたとき、最初は自分と別れたあと、フラリどこかへ出掛けて行って、夜になったら帰ってくると思っていた。
 工藤新一に戻って、しばらくは検査の関係で志保とよく会って診てもらっていたが、最近は検査もなくなり、仕事も忙しく、隣人だというのにお互いの家を行き来することもなくなって。挨拶もあったりなかったりで、メールのやり取りも最近はなかったように思う。
 そんなので潰れる女ではないと高をくくっていたのだが、博士から最近塞ぎこんでいる志保くんの話し相手になってやってくれないか、というような電話を受けて仕事と学校の合間を縫ってやってみれば。
 確かに半年前までのイキイキとした表情が見られず、半年間行きがかり上、放っておいてしまった自分を猛省した。『見かけより強くない』ということは一緒に付き合っていることでわかってはいたけれど、此処まで落ち込んでいるとは思わなかった。
 
 けれど、話をしているうちに前のような表情を、笑みを見せてくれていたというのに。まぁ、その久しぶりの2人だけの時間も、また事件に呼ばれて、終了となってしまったわけだけども。帰ってくれば、またフラリ姿を消してしまったという連絡を受けて。そうして志保からあんな電話をもらって。

 いなくなった理由として、志保がただ何かを思って一人旅をしているのかもとか、博士が、恋人らんや仕事や学業などにかまけていた自分に対して、少しは宮野志保のことを考えろということで仕組んだことなのかもと半分くらい思っていたこともあったが、志保のあの言葉には少しもウソっぽさが感じられなかったし、今日の博士のあの窶れ具合も、彼が自作自演していたとは見えなかった。

 それにしても、と思った。
 あの、電話から漏れてきた『自分』に似た男の声も。
 声だけでなく、口調も、間の置き方もそっくりだった。

 『江戸川くん』『灰原』

 電話の向こうで、志保と、電話の向こうの相手はそうしゃべっていた。

 何を話していたのかまではすべてはわからなかったが、最後の方の、声を張り上げている二人の声は今でも耳に付いて離れない。





―――だってどうしても尋常じゃねぇって。

  ―――最初から尋常じゃないのよ、全てが…

―――何言ってんのか、わかんねーよ!







―――…なんだ、これ…。すげー古いケータイ。イマドキこんなの販売してねぇぞ?一体どこで見つけたんだよ、こんなもん。

  ―――あっ

―――懐かしいなぁ。これ、こーやって耳に当てて喋るんだろう?




 あの一連の会話がすべてウソだったなんて思えない。やっぱりなんだかんだで彼女は『此処このせかい』にはいないのだという気持ちが確信に変わる。そうして、博士が何も関わっていなかったということを。そうして、志保は自分の力ではどうしようもないところにいるということを。

 なのに、

 彼女のいう、『魔法使い』に魔法をかけられているというのに。
 あの電話の向こうにいる志保の落ち着きよう。あれが虚勢を張っているようにもどうにも思えなかった。

 彼女は一体どんな状況で、何をしているんだ?
 あの声の主は誰なんだ?あれは若しかしたら、『江戸川コナン』という、もう一人の自分なのか?
 じゃあ、もう一人の『灰原』はどこに?

 考えれば考えるほどわからなくなっていく。
  
 「…とにかく。そのロータリーに行ってくるから…蘭は先に学校に」
 彼がそう言ったそのとたん、蘭は大きく首を横に振った。
 「私も行くよ。一緒に探す」
 「え、だっておまえ授業が」
 「大丈夫。4限からだし、まだ間に合うよ。私だって志保さんのこと探したいし。」
 「でも」
 「だって新一」
 お互い一歩も自分の意見を曲げようとはしなかった。尚も心配そうに自分を見つめる新一に対して、蘭は無理やり言葉を被せた。
 「・・・志保さんは哀ちゃん、なんでしょ?私は、『志保さん』になってからの彼女はあまり知らないけれど、それでも『哀ちゃん』としての彼女は少しは知ってるつもりだから。これでも結構仲良くさせてもらったと自分では思っているのよ。そんな彼女が忽然と消えて、どこかから助けを求めてるのに、貴方だけに頼って私は知らん振りをしているわけにはいかないわ。…私も助けたいもの。そして、『志保さん』としてもずっと付き合っていきたい」
「…蘭」

 確かにその通りだ。
 蘭と同じく、今でも自分も、彼女を『宮野志保』ではなく、まだ『灰原哀』として見ているのだと思う。
 そうして、自分が『江戸川コナン』から『工藤新一』に戻っての変化があったように、彼女にも『灰原哀』から『宮野志保』になって変わったことがあることも微塵も気づかずにいた。
 シェリーでもなく、宮野志保として生きるのは、彼女にとっても勇気がいったことなのかもしれない。ずっと組織に拘束されて18年生きて、2年、博士や少年探偵団、そうして自分と小学校生活や事件を一緒にともにして。恨みきった組織を壊滅させて。姉と何度か逢瀬をしているときは素顔に戻れてはいたのかもしれないけれど、『宮野志保』として生活し続けることには不安があったことだろう。姉も死んで、家族が誰もいなくなった今となったらなお更。 いつでも博士は見守っていてくれただろうけれども。

 自分は何も知らなかった。
 また、少年探偵団と笑顔で過ごせるものだと思っていた。
 だけれど、志保は不器用で怖がりだということもわかっていたはずじゃないか。
 なのに、半年間も放っておいて。

 半年振りに一緒に過ごした志保のことを考えながら事件に向かっていった矢先。
 彼女はまた別の世界に迷い込んだ。

「俺もオマエと同じ位置に立ってるんだよな」
「え?」
「俺も、あいつのこと何も知らなかった」
「…そだよ。…だったら一人で探すより二人で協力した方が断然いいと思うでしょ?」
「…ああ」
 新一が頷くのを見て、蘭は『よろしい』とにっこり微笑んだ。
「それじゃ、行きましょう」
「あぁ」
 玄関を出て車庫に向かい、買ったばかりの新車の助手席に彼女を座らせる。自分も運転席に乗り込み、キーをまわす。
 エンジンの音を聞きながら、新一は志保が電話口で言った言葉を思い出していた。

『大丈夫、悪い人ではないわ』

 それは些細な言葉なはずであるけれど。
 恐らく、名前も知らない、一度会っただけであろうの彼女が、その人物のせいで帰る事のできない状況に立たされているのに、それでもそんな言葉をさらりと言える状況って。














「あいつは一体誰と、・・・何をしてるんだ?」
「え?」

 蘭が振り返る。けれど、その問いに返すことも忘れ、ただ立ち止まって顎に手を当てたまま考えることしかできなかった。志保がいるところが、彼女のいう『異世界』であるということはまだ信じることはできないけれど、それを抜きにして考えても、まだまだ考えなくてはいけないことが山ほどあって。

 ゲームを楽しんでいるようにも思えない。

 帰りたいと願いつつ、だからといって自分を送り込んだその人物を『悪いヒトではない』と言い、名前を告げずに『魔法使い』だとだけ答え。
 志保はその女をもともと知っているのか、それとも見知らぬ人であったのか。考えれば考えるほどわからなくなる。それでもなおも考える。

 自分は本当にそのロータリーにいるといわれる人物に会えるのか。
 そもそも彼女は本当にここに、今自分たちがいるこの場所に戻りたいのか。

 ―――始まる前からそんな一抹の不安が自身の胸中を渦巻いて、それを少しも拭うことはできなかった。
前削除した新一サイドをちょこちょこ残し、採用されたり追加したり、消したりしてます。

でも、この後の魔法使いとの話は多分変わると思います。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
今から遅番行ってきます!行きたくない。


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