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光、願いし者
作:笠城夢斗



第7話 謎の遺跡


 フローディアの国の、まさに南に位置する山脈。
 そのやや西よりの山のふもとに、目的の場所はありました。
「……なーんかフツーの洞窟に見えっけどなあ」
 ふもとにうがたれた大きな穴。その前に立ち、トモカズが不審そうに首をかしげます。
「見かけはな。だが……」
 ケンは洞窟の奥を見つめようとしました。あいにく、完全に調査が止まっているために明かりが残っておらず、穴の中は真っ暗でほとんど見えません。
 けれどその暗闇に、不穏なものをケンは感じ取りました。
 そしてそれに対し、彼よりずっと敏感な人間がすぐそばにいることを、ケンは知っていました。
「ミカド。……どうだ?」
 促され、ミカドが不愉快げに顔をゆがめます。
 ミカドはさきほどから、ケンやトモカズからは一歩退いた位置にいました。――それが答だと、ケンは察していました。
 二人の様子の意味にようやく気がついたトモカズが、顔をひきつらせました。
「おい……そんなにすごいのか? ここ」
「……予想外なほどじゃない」
 そっけなく、まるで何でもないことのようにミカドは告げましたが――
 魔力。
 一部の人間にしか感じ取ることのできない、その力の正体は――
 ……邪気、すなわち人間の吐き出す念の――とりわけマイナス方向へのエネルギーそのものなのです。例えば怒りや憎悪、嫉妬といった、普段歓迎されないエネルギーです。
 魔術士は、空気中に当たり前のように存在する邪気――魔力を感知し、自らの中に取り込み、それを操ります。本来忌み嫌われる邪気を、わざわざ自分の中に取り込む……だからこそ、魔術士は大変嫌われる職業です。
「入れそうか? ミカド」
 ケンがミカドの顔色をうかがいます。魔力は体にいいものではありません。魔力の気配に敏感であればあるほど――つまり、強力な魔術士であるほど――、気分が悪くなるという矛盾を生み出すのです。
 ミカドの体質を友人たちは知っていて、だからこその心配。
 けれど、返事は即答でした。
「入る以外に、道があるのか」
「……そうだな」
 ケンは微笑み、トモカズと目を見交わしました。
 彼らの友人は、まだまだ健在のようでした。


 ――我らに光を。照らせ――
 ミカドの静やかな言の葉とともに、洞窟内が淡い光で満たされました。
 浮かび上がった洞穴の奥を眺めやり、ケンが肩をすくめました。
「……参ったな。目の前にいたのか」
 びんっ!
 突如、襲いくる触手。飛びのく三人。
 視界に残像を残すような速さで少年たちのいた場所に穴をうがった触手は、次の瞬間には元の長さに収縮していました。
 うねうねとうねる何本もの触手。
 その中心に、天井からぶらさがった“目玉”――
「イービル・アイか。洞窟ダンジョンの入り口にいる魔物としては普通だな」
 人間の頭二つ分ほどの大きさの“目玉”は、不気味な粘液をもって天井と、他の触手とつながっています。頭上のその“目玉”までの距離は、ざっと一メートル。剣を伸ばすだけでは傷つけにくい場所です――
 油断なく数多い触手の動きを観察しながら、トモカズが仲間たちに訊きました。
「なあ、おい。こいつってレイヤの報告書にもなかったか?」
「あったな」
「ってことは、あいつが倒したんじゃないのか? 一度」
「そうだろうな」
「……なんでここにいるわけ?」
 びしゅんっ!
「二人とも、先に行け!」
 凶器の触手をかわし、ミカドが叫びます。迷わず残りの二人は走り出しました――洞窟の奥へと。
 途中、動く獲物を狙った触手をよけるのではなく剣で切り払います。ごたぶんにもれず再生能力の高い触手。雨のように天井から次々と伸びてきます。
 それでもケンとトモカズは触手にとらわれず走り続けました。そして二人からやや遅れて同じ方向に走ったミカドは、
 天井の“目玉”本体を通り越してしばし行った場所で。
 身を翻し、言の葉をつむぎます。
 ――我に仇なすものに地獄の業火を。燃やせ――!
 瞬間、
 ごおうっ……!!
 発生した炎が洞窟を埋めつくしました。見ているだけで目が焼かれるような赤い色がその場を染め、うねる触手を、そして“目玉”をのみこんでいきます。
 先を行くトモカズたちさえも背中に熱気を感じ、それだけで二人はじっとりと汗をかきました。
「うっわ、ミカド最初っからマジだし!」
「当たり前だ!」
 ミカドの代わりにケンが叫び、はっ――! と気合一閃、目の前をさえぎろうとした影を切り裂きました。
 ぼとぼとと地面におちたのはコウモリに似た羽のあるもの。
「あ〜くっそ、次から次へと!」
 トモカズのわめきながらの剣筋が、道の先から現れた凶暴なるものたちを、つらぬき、叩き潰し、切り飛ばしてゆきます。
 彼らの場合、切り込み隊長は常にトモカズの役目でした。彼の問答無用の勢いは、戦闘態勢に入ったばかりの相手には非常に効果があります。
 やや後ろから援護するのがケンの仕事。トモカズがしとめそこなったものを、あるいはトモカズのふいをついたものを、慎重確実な動きで葬り去ります。
 そして今日はさらに、最後尾をミカドが。
 発動さえ間に合えば近距離遠距離無関係な“魔術”を駆使して、パーティを囲もうと予想外の位置から現れた連中を一掃する――この洞窟は“魔力”の宝庫です。彼の力は、尽きることがありません――
 三人の進んだ道に、モンスターの死骸が残されていきます。
 人間と違い、ほうっておけば消滅していく死骸。
 ……けれど、復活するわけではありません。
「だーかーらーさー!」
 剣をふるう合間にも、しきりにトモカズは仲間たちに訴えました。
「数が多すぎねえか!? レイヤだってかなりの数倒したはずだろ!?」
「調査隊が入ってからけっこう経っているからな……! また外部から入ってきたのかもしれないだろう!」
「それにしちゃ、報告書通りのメンツじゃねえか!」
「モンスターの居場所にも相性があるんだ! この場所を好むタイプが揃ってるってだけだろうが!」
「そりゃそーだけどさ……!」
「よそみをするなトモカズ!!」
 背後からのミカドの罵声。トモカズは慌てて、飛んできたブーメラン状の刃をかわしました。手のひら二つ分ほどの大きさの凶器でしたが、それだけに回転が速く鋭く見えます。
 まるでそれ自体に意思が宿っているかのように、ブーメランは空中でくるりと方向転換してふたたび向かってきました。でやあっ! とトモカズはそれを、真正面から叩き折りました。しかし、
「奥だ! まだ来る……!」
 暗がりになって見えないほどの奥から、次々に同じ刃が空気を裂きながら向かってきます。ただでさえ広くない洞穴の中を――
「駄目だ……っ避けきれね――」
 先頭にいたトモカズは、とっさに利き手ではない左腕で顔をかばいました。
 ピシッ、ヒシュッ、パシュッ――
 いやな音がして、刃がかすめて通り過ぎていくのが分かりました。命中精度がよくないらしい、これなら――そう思い、トモカズは顔をかばっていた腕をはなしました。その時、
 ズバッ!
「――った……!」
 彼は悲鳴をあげました。今動かしたその左腕を、まともに刃が切りつけていきました。脳まで届くような、痛みとはまた違う衝撃がまず彼を襲い、それから一気に痛みが広がります。
 ――凶悪なる刃を力無きものへ。砕け――!
 ミカドの魔術が、飛び交っていた刃をすべて粉砕しました。ケンがトモカズに駆け寄りました。
 トモカズは地に膝をつきました。その二の腕が、血に染まっていました。相当な痛みであったに違いありませんが、そこはトモカズもプロの冒険者です。決して、剣を手放しません。
 ケンは何も言わずその傍らに膝をつくと、すぐに止血用の布を取り出しました。その一枚をまず腕のつけねあたりにある止血ポイントに強く縛りつけ、そして振り向かないまま、背後から近づいてきたもう一人の気配に呼びかけます。
「ミカド」
「替われ」
 ケンは残りの布をミカドに渡し、場所をゆずりました。
「悪り……」
 つまったようなトモカズの謝罪には何も応えず、ミカドは淡々と作業をしていきました。自身の道具袋をさぐり、薬草を選び出します。彼が手に取ったのは、長さが10センチほどもある肉厚な緑の葉――ベンケイソウという、遥か遠い国の英雄の名がつけられた草でした。
 数枚取り出し、軽く手でもんで柔らかくした後、その薄皮をはがしてトモカズの傷にあてます。傍らで見ていたケンを「手伝え」と促し、彼に患部に貼った葉を押さえさせると、自分はその上から布を縛りつけました。
 応急手当が済むと、ミカドは目を細めて言いました。
「だから、うかつだと言っているだろう」
「………」
「痛みはこらえろ。――どうした?」
 最後の問いは、ケンに向けたものでした。
 ケンはいつの間にかトモカズではなく、地面に散らばったブーメランの残骸を眺めていました。残骸はちょうど、チリとなって消えるところです。
「――たしかに――」
 ケンは呟きました。「トモカズの言う通りなんだ。この状態は、少し違和感がある……」
 レイヤが数多く倒したはずのモンスターが、まだこれほど残っている……そのことが。トモカズの疑問に正論を返していた彼ですが、やはりおかしいのです。
 しかし、ミカドは気にもとめないようでした。
「何も問題はないだろう」
 立ち上がりながらあっさりとそう言う彼に、ケンもトモカズも腑に落ちない表情を向けます。
 ミカドは言いました。
「不思議なことはない……あの報告書の通りならな」
「どういう意味だ?」
「ヤツが、仕事を失敗させた原因。それが本当のことなら、この状況も不思議ではないと言ってる」
「――あの、最後の?」
 ミサオがわざわざ文献から調べだしてくれた、レイヤが唯一勝てなかった敵。
 行くぞ、とミカドは二人を促しました。
「……そいつが本当にいるのかどうか、もうじき分かる」
 三人がこれから向かうのは――
 レイヤがたどり着けたうちの最奥、地下二階……







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