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遅れてすみません(汗
光、願いし者
作:笠城夢斗



第4話 王立図書館にて


 城下町でもっとも大きな建物というなら、それは王立図書館に他なりません。
 小国フローディアの抱える、大陸全土一を誇る図書館。あらゆる地域からの蔵書が集まっています。
 もともとフローディア付近は大陸でも“伝統の地”と呼ばれ、まだまだ調査の終わらぬ古い遺跡、洞窟がたくさんあるのです。そのために、学者や発掘者がこの国に集まり、それにともなって蔵書も増えたのでした。
 王立、と名がついていますが、現在その管理は王家の遠縁のある血筋に任せられています。
 ――その血筋の末裔、現管理人の娘であるミサオは、管理人室にひとりでひきこもり、あるデータを他の本と照合していました。
 ショートカットのつややかな黒髪。それにも負けず深い魅力をもつ黒い瞳を、じっと書類に向けています。その目つきは冷静で涼しげ、まさに“知的”と呼ぶにふさわしい美貌をもつ少女です。
 机に山積みされた本を一冊一冊調べていき、ときおり書類のほうに視線を落としては、再び本をめくっていきます。
 そして、
「これだわ……」
 何冊目かにさがしていた情報を見出し、ほっと一息。
 と。
 ふおん……
 ――彼女以外誰もいない管理人室の床に、ふしぎな紋様が浮かび上がりました。
「魔方陣……」
 ミサオは冷静につぶやきました。赤く光るその陣の中に、影が三つ――
 ぼやけていたその影が、やがてはっきり人の姿になると、
「――管理人の娘だな」
 開口一番、そのがらの悪い男たちの一人が言いました。
「何の用なの。ちゃんとドアから入ってきてほしいものだわ」
 ミサオは慌てもしません。さりげなく、本の開いていたページにしおりをはさんで閉じると、部屋に現れた闖入者ちんにゅうしゃを見すえます。二人は戦士系ファイターの男、一人は魔術士ウィザードです。いかにもな筋肉を無意味にひけらかす男たち。力は、たしかにありそうでしたが――
「書類を渡してもらおう」
「書類?」
「白の魔術士から受け取っているだろう。南第三遺跡のデータの書類だ!」
「ああ、レイヤくんのあれのことね」
 表情をぴくりとも動かさず、淡々と問います。「あの書類に何の用?」
「へっ――お前さんが知らないとは思えんがな」
「ただの噂でしょう。誰一人として確かめてはいないのよ――レイヤくんでさえ、見ていないと言っているわ」
「ねェはずはねェんだ! だからこそ、あの遺跡は最初はなっから白の魔術士にみたいなのに依頼したんだからな!」
「みたいなの、とはどういう意味かしら」
「決まってんじゃねえか。たった一人でたいていの仕事はこなせるほどの力があり、かつ金さえ払えば絶対に口外しない――」
 男は下品な笑みを浮かべました。「つまり、ことを荒立てずに始末するにはもってこいってな」
「――レイヤくんもまあ、ひどい評判たてられているものだわ」
 ミサオはため息をつきました。「もっとも、彼は否定しないでしょうけどね――で、あなたはその書類をどうするつもりなの?」
「知れたこと!」
「……あの遺跡に入るつもりなのね」
 ミサオは重々しくうなずきました。「あなたたち、合格よ」
「……あん?」
「これ以上なく悪役的悪役だわ。それも、ストーリーのほんの隅っこで、ストーリーを進めるためだけにちょっと出てくるご都合主義の権化。そういう悪役はおおかたそこそこ力はあるけど、少々頭が足りない――」
「なんだとぉっ!」
 いきりたち、戦士の一人が持っていたハンマーを壁にうちつけます。めごっ、とおだやかではない音がして壁がへこみ、続いて近くの本棚から本が数冊落ちてきました。
 へこんだ壁をいちべつしても、ミサオはペースをくずしません。
「壁の修理は大変なのだけど」
「口が減らない娘だな」
 と、今まで黙っていた魔術士が低く言いました。「だがまあいい。おとなしく書類を渡せ……言っておくが助けは来ない。ドアに少々細工をしたからな」
「……これもまたありがちね。パーティに一人、やたら冷静で少しは頭の切れる人物がいる」
「黙って書類を出せ」
「知っている? あなたたち」
 ミサオは黙りませんでした。ただひたすらに、淡々と。
「――力もあり、とりあえず一人はそこそこ頭のいい人もいる。そういう悪役がどうしていつも簡単に負けるかを」
「……聞いてやろう」
「パーティに必ず一人はいる、頭の回らない単細胞が、必ず計画を台無しにするからよ」
 言って、さきほど壁をへこませたハンマーの男を見やり、
「わざわざ音がもれないように魔術で部屋まで入ってきて、ドアにも防音の術をかけたんでしょうに。壁から伝わる振動はどうなるのかしら?」
「―――!」
「ここの両隣が物置だからって油断したのかもね。でも、こういう時は決まっているの。たまたま・・・・すぐ近くに、そういうのを敏感に察知してしまうような有能さんがいる、って。そして――」
 まさにその時――
 ふおん、と男たちがやってきた時と同じような不可思議な音がして、管理人室の床に新たな赤い魔方陣が浮かび上がりました。その中にまたもや三つの影。それがあっと言う間に、人間の姿をとります。三人の少年――
 それらはすべて、男たちのときとは比べ物にならぬほどの速さで成されました。
 移動術が完了するのにかかる時間の差。それはそのまま、術者の力量差です。
「――こうやって、タイミングよく正義の味方がやってくる」
「え、正義の味方って俺たちのことか!?」
 と実に嬉しそうに、現れたばかりのトモカズが言いました。スクール時代の同級生たる彼の、らんらんと輝く瞳をいちべつしてから、ミサオは重々しくつけたしました。
「……もちろん、正義の味方一行パーティの中にも単細胞はいるけれど」
「どーゆー意味だ!?」
「あら。ムードメーカーはパーティには欠かせないものでしょう」
「その場をややこしくしてストーリーに味付けをする、という意味でだろ」
 茶化すように言ったのは、おかしげな笑みを唇の端にきざんだケン。「どうしたんだミサオ? 突然正義の味方だなんて」
「ハルミに頼まれていたの。スクールで行われている創作小説コンクールの一般公募に投稿してみたいから、ストーリーを一緒に考えてくれって」
「ハルミが? オレは聞いてなかったな」
「賞をとって、ケンあなたを驚かせたかったみたいね」
「……じゃあ今オレに言っちゃいけないんじゃないのか?」
「いいのよ。三日で諦めたらしいから」
「………」
「で。私たちがこんな無意味な会話をしている間に、一人黙っていた有能な魔術士がいつの間にか敵を一掃――」
「するか。めんどうくさい」
 腕組みをしていた“有能な魔術士”ミカドは、一言のもとにミサオの言葉を蹴りました。
 ミサオは無表情のまま、ふっ・・と妙に芝居がかったため息をつきました。
「いけず……」
「な、なんかつっこみたいけど、すげえ怖い……」
 トモカズがぞっとしたようにうめきます。
 とりあえずそれは無視して、ミサオはようやく椅子から立ち上がりました。小柄ながらりんとした立ち姿。軽く腕を組んで“悪者”たちのほうを見ると、男たちは現れた少年たちを見つめて硬直していました。顔を蒼白にして。
「バ、バカな……なぜお前らが」
 ミカド、トモカズ、ケン。
 まだまだ若い彼らは、それでもその姿だけで悪役を震え上がらせるほど――実力が認められているのです。
 ミカドが冷えきった目つきで、邪魔な“悪者”たちを見すえました。
「邪魔だ。さっさと消えろ――」
「ああ待ってミカド、そいつらを眠らせておいて」
「………?」
「あとで損害賠償請求しなきゃいけないから」
 指をさすのは、へこんだ壁。
 ミカドは面倒くさそうに顔をしかめました。それからしぶしぶと――ここで断ると、“じゃあ当然あなたが代わりに払ってね”と言いかねないのがミサオという少女ですから――、ひるんでいる男三人に向かって手をかざします。
「ちょ、ちょっと待て! こんなアホな――」
「おとなしくやられなさい」
 ミサオは非情な言葉を吐きました。「しょせんちょい・・・の悪役なんでしょう」
 ――我に仇なすものを眠りの深淵へ。落とせ――
 ミカドのつむいだ言の葉に、見えない力が発動し……
 あっという間に、男たちは床にくずれおちました。どうやら、深く眠ってしまったようです。
 ミサオが満足げにうなずきました。
「さすがちょい・・・ね。みごとなあっけなさだわ」
「……。さっさと話を進めろ」
「話はハルミから聞いているけれど」
「ってうわ、切り替え早っ」
 トモカズのつっこみは、もちろん無視。
「モミジとカエデがね……。あなたたちがレイヤくんのところに行くだろうことは予想がついていたから、私もその間に調べておいたのよ」
「遺跡のことを?」
「というより、レイヤくんのデータの裏づけをとろうと思って」
 言って彼女は、さきほどまで調べていた本の山と、机の中心に置かれていた書類の束を示しました。
「あの書類。そこのちょい・・・の男たちが奪いにきたのだけど。主に、レイヤくんが遺跡内で出会ったモンスターのデータよ。それと、彼がたどりつけた地下二階までの地図」
「地下二階……。もっと深いのか?」
「さあ。あいにく、予測もつかないの」
 ミサオから書類を受け取り、三人は順に回し読みします。
「うっわ、えげつな……」
 トモカズがいやそうにうめきました。
「頭に入れておけよトモカズ。まさか書類を持ったまま遺跡に入るわけにはいかないからな」
「分かってら。にしても、どいつもこいつもやたら生命力の強いのばっかじゃねえか――これじゃレイヤだって手こずるって」
「そうね。で、これがレイヤくんが勝てなかった・・・・・・相手」
 言って、ミサオが最後の一枚を三人に示しました。
 文章だけではなく、似絵もつけられたそれを見て――
 ミカドが、不審そうに眉を寄せました。
「それは――」
「さすが、知っているのね」
 感慨もなさそうにミサオは、“悪者”たちの闖入時に閉じた本を、しおりのところで開きました。
「ここに、それの正式なデータがあるわ。ちゃんと覚えていきなさい――死にたくなければね」







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