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光、願いし者
作:笠城夢斗



第1話 プリンセスを探しに


 フローディア国の城下町は、国の中心地としてとてもにぎわっています。
 中でも酒場は、昼夜を問わずにぎやかです。この国には“冒険者”という職があるので――冒険者とは、つまるところ“何でも屋”ですが――、昼の酒場は彼らの仕事さがしの場となります。
 酒場はいくつかありますが、中でも大きい店が町の南側にありました。人気の元は、看板娘のハルミです。
 と言っても彼女は、にこにこしながら酔っ払いオヤジたちのセクハラに耐える可憐な美少女――では、決してありません。
「ちょっと、どこ触ってるのよ!!」
 怒声とともに平手を一発。これが彼女流のごあいさつ。
 彼女に言わせると、「お盆で叩かれないだけマシと思ってよね」だそうです。
 そんな彼女の裏表のなさときっぷのよさは信頼できるものでしたので、この酒場は特に冒険者に人気があります。交流と情報の広いハルミに仕事さがしを依頼する人間は、少なくありません。
 そんな冒険者たちの中に、トモカズとケンという二人の若き戦士がおりました。
「ハルミィ。なんか面白い話ねぇか〜」
 今日もトモカズが、テーブルの一つにだらけた様子でつっぷして、退屈そうな声を看板娘に向けています。
 ハルミは顔をしかめて、「シャキッとしなさい!」と怒ります。
「うっせえな。退屈なんだから仕方ねぇだろ何とかしろよ!」
「本当に何かしたいならスクールのコズエ先生のところ行ってお手伝いでもしてきなさいよ。あんたならいつでも歓迎してくれるわよ」
「げえっ冗談じゃねえぞ! また意味もなく大量の荷物運びとかやんのかよってゆーか俺は冒険者でしかも一級だぞ、何が悲しくてもう卒業したスクールに生徒のための荷物運びなんかしに行かなきゃならんのだ!?」
「コズエ先生に愛されてるから」
「ちーがーうーだーろー!!!」
 平然と答を返してくるハルミの前で、トモカズは悔しげにどんどんとテーブルを叩きます。
「ちょっと、テーブルが壊れるでしょこの馬鹿力!」
「だったら人をからかって遊んでねーでちゃんとした仕事をっ」
「ちゃんとした仕事じゃないのあんたが暇そうならスクールに来るように言っといてくれってコズエ先生に頼まれてるんだから」
「俺は暇じゃねえ!」
「退屈だって言ったじゃない」
「だからってその暇はあの先生のために費やすためにあるんじゃねえ!」
「とか言いながらつい三日前荷物運びやったんでしょ、スクールで」
「……っ!」
 トモカズは顔を真っ赤にしました。なんでお前が知ってるんだよ、とどこか勢いをなくしながらハルミをにらみます。
「私は情報屋なんだから」
 とハルミは胸をはりました。その隣で、くすくすと笑い声。
 酒場の小さなテーブルを、トモカズと挟むようにして座っている少年。すらりとした長身を椅子に預けリラックスした体勢のまま、おかしそうに笑っています。全体的に色素が薄く、トモカズやハルミとはやや違った雰囲気を見せる彼は、それもそのはず、異国の血が混じっているのでした。  
 トモカズは端正な顔立ちの友人――実は同い年です――の顔を見て、悟りました。
「ケン! お前チクりやがったな!!」
 バン! と大げさにもテーブルに両手を打ちつけながら立ち上がるトモカズ。どうやらスクールに行ったことがバレていたことが、よほど恥ずかしいようです。
 対してケンと呼ばれた少年――本名はケインなのですが――は、涼しい顔で言いました。
「人聞きの悪い。オレはいつだってハルミの仕事の協力者であるようにしているんだ」
 と、隣に立つハルミを見て微笑みます。それはそれは甘い笑顔。こんな笑みを向けられて、頬を赤らめない女性はいません。単に見てるだけで恥ずかしいからだ、とはトモカズの弁ですが。
 しかしハルミの反応はちょっと違います。なぜなら、慣れているからです。
 何と言っても“この世で尊敬すべきは女性以外にない”と公言してはばからないフェミニスト・ケンの中で、さらに特別扱いされている唯一の娘なのですから。
「そーよ。ケンはいつだってこっちの味方だもの」
 そう言って、彼女もケンに微笑み返します。トモカズはわめきました。
「ケン! お前男の友情と恋人とどっちが大切なんだよ!」
 言ってから、失言を悟って絶句。ケンはますますにっこりして、言いました。
「……どちらが大切だと言って欲しい?」
「そうねえ。友情と愛情を比べるなんて邪道よねえ。ケンだって、決められっこないわよね」
「ああでも、大切なトモカズがどうしてもって言うなら、オレも心を鬼にしようかな。そうすると大切な何かを失いそうな気がするな。とは言えお前は望んでいるんだな。さてどうしたものかな」
「……いい……もう……いいから……俺が悪かったから……」
 トモカズはぐったりと、もう一度テーブルにつっぷしました。スクール時代の同級生であるこの友人たちは、一人一人でも手ごわいのに、タッグを組むとそれはもう恐ろしいことになるのだと、彼はたった今思い出したのでした。うかつです。
 彼らの周囲では、昼間から酒場に入り浸っている暇な冒険者たちがくすくす笑っています。看板娘ハルミと、一級冒険者として国に認められているトモカズ、ケンのやりとりは、すでにこの酒場の名物なのでした。
 相変わらず仲のいい笑みを交わすハルミとケン。その前でぐったりとするトモカズ。なんとも平和ないつも通りの光景――
 と、そこへお店の裏へ行っていたマスターが、お店の中へ戻ってきて言いました。
「ハルミ、客だ」
「私ですか?」
 振り向いたハルミに、頑丈親父マスターは無言で自分が入ってきたお店の裏口に親指を向けます。
 ハルミは少し眉根を寄せてから、トモカズとケンに詫びを入れ、裏口に向かいました。
 ――裏口から彼女を呼ぶ客と言えば……そんなに種類は多くありません。
「久しぶりだな、ハルミ」
 そこには、いかにも普段着を装っていながら明らかに上流階級的な仕立てのよい服を着た、体格のいい男。
 ハルミは裏口の戸を閉め、肩をすくめました。
「センセ、身分を隠したいなら徹底的に平民服を着た方がいいと思うんだけど」
「分かってる。今回は急ぎすぎて頭が回らなかったんだ」
 と男は苦笑しました。この男性はアサカワと言い、スクールの教師です。担当は体育ですが、その縁でお城の兵士の基礎訓練指導を任されたりもして、お城とのつながりがある数少ない人間です。
 兵士の訓練を任されるだけあって、だてな教師ではありません。いつも堂々と、悠然としたこの教師が“急ぎすぎた”こととは何なのか。ハルミは気を引きしめました。
 アサカワは声のトーンをぐっと落としました。姿勢は決して内緒話ではないようにしながら――声は決して他にもれないように。
「……プリンセスがさらわれた」
 ハルミは一瞬、その言葉が理解できませんでした。彼女の様子を察し、アサカワはもう一度くりかえしました。
「さらわれたんだ。カエデ姫とモミジ姫が」
「―――」
 ……二度もくりかえされてまだ否定するほど……あいにく、ハルミは理解の遅い人間ではありませんでした。若いながら情報屋としての地位を確立している彼女は、嘘冗談の類をすべて見抜く自信があったのです。
 アサカワは嘘をついていません。だからこそ、ハルミにはショックでした。この国のシンボルである双子姫は……スクール時代からの、ハルミの友達なのです。
 アサカワはそれを知っています。だから彼は、ハルミに落ち込む暇を与えませんでした。
「誰か腕のいい者を紹介してくれ。これを世間に公表すれば国民が動揺する……できるだけ内密に、すみやかに解決できる者を――と、城からのお達しなんだ」
 その言葉に一瞬腹を立てかけたハルミは、すぐに力をぬきました。アサカワは悪くありません。城の命令も、間違っていません。
 友達である姫を、救う人間を自分が推薦する――
 ハルミは、迷いませんでした。
「……ちょうど今酒場の中で、暇そうにしてます、一級冒険者が」
 アサカワは眉を寄せました。一級という称号は、かなりの功績をあげた冒険者に城の軍隊が与えるものです。なぜ軍隊かと言えば、冒険者というのは元々は傭兵が始めたからなのですが。なんにせよ、それほど信頼できる称号ですから、それを与えられたような者が“暇そうに”などしているはずがないのです。
 そしてアサカワは知っていました。そんな例外的な“一級冒険者”を。
「あの二人か……。ケインはいいんだが、トモカズがな……」
「腕は確かですよ」
 ハルミは断言しました。それから、ゆっくりとつけたしました。
「……あの二人にとっても、プリンセスは友達ですからね」


「マジかよ?」
 酒場の裏ですべてを聞かされたトモカズの第一声は、それでした。
「……マジかよ」
 二度くりかえします。しかし誰も否定してくれなければ、笑い飛ばしてもくれません。
「城はちゃんと護衛していなかったんですか」
 ケンが腕組みをしたまま、アサカワに目をやります。アサカワは苦い顔で言いました。
「……今回は……姫君たちが、あのタカミヤ先生の目を盗んでまで外へ行ったからな。あの先生の目を盗めたんだ。兵士たちもついていけなかったんだろう……」
「今、タカミヤ先生は?」
「聞くまでもないだろう?」
 アサカワの苦笑に、元生徒たちは無言でうなずきました。タカミヤ先生はやはり元スクールの教師で、今は双子プリンセスの教育係です。女性ですが、怒らせると生半可な兵士では太刀打ちできません。今回の騒動ではさぞかし兵士たちはしぼられているでしょう。
 そしてもちろん、一番苦しんでいるのはタカミヤ先生なのでしょう。
「……絶対、見つけ出す。二人を」
 こぶしをかためて、トモカズが低く呟きました。常に一緒に仕事をしているケンも、何も言いませんでした。
「でも……“南第三遺跡”って……まだほとんど手が入っていなくて、危険区域に指定されてるのよね。二人とも大丈夫?」
 ハルミはアサカワが持ってきた、プリンセス誘拐犯の手紙を見つめて言いました。
『姫を返してほしくば、南第三遺跡へ来い』
 それ以外何も書かれていません。犯人の目的が、何もないのです。
「南第三か……。あそこはモンスターが出るんだ。だから調査が遅れてるらしいな」
 ケンがハルミを見やります。ハルミはうなずきました。
「レイヤくんが、一度調査隊の護衛を引き受けて入ったのよ。だけど、失敗したって」
「げ、レイヤのやつが?」
 トモカズがぞっとしたように表情を引きつらせました。「それってよほどのことじゃねえか? あいつが失敗なんて――」
「あとでレイヤ本人に詳しく聞きに行こう。――トモカズ」
 ケンは意味ありげに友人に視線をやりました。
「分ぁってるよ。俺たち二人じゃ無理だ」
 トモカズは憮然として返し、それからニヤリと笑いました。
あいつ・・・、呼びに行こうぜ。どうせこんな話聞いちゃ、嫌とは言えねぇんだからな」







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