プロローグ〜事の始まり〜
むかしむかし、と言うほど昔のお話ではありませんが、フローディアと呼ばれる小さな国に、かわいい双子のプリンセスがおりました。
姉の名はカエデ、妹の名はモミジ。同じ両親から生まれ、同じ環境で同じように愛されて育った二人は、十七歳になったころには、そっくりにかわいらしい少女となりました。
やさしい風のふく春の日。今日も妹姫のモミジが姉姫カエデを外にひっぱってゆきます。
場所はお城の裏がわの森のそば。軽快に進む妹姫のうしろで、姉姫が石につまずいて転んでしまいました。
「きゃあっ」
すてん、ぺしょっ。じつにかわいい音を立てて、姉姫が地面につっぷします。
「カエデ!」
前にいたモミジ姫はおどろいて振り向き、慌てて姉姫のそばにしゃがみこみました。お城の裏がわは森ばかりで兵士以外人が来ないので、あまり道が整えられていないのです。
「カエデ、大丈夫?」
心配そうにカエデ姫の顔をのぞきこむモミジ姫。
「うん……大丈夫」
カエデ姫はどうやら顔を地面にぶつけてしまったよう。かわいい姉姫の顔のあちこちにつく砂を、妹姫は手で払ってあげました。
それから、申し訳なさそうに姉姫に謝ります。
「ごめんね、歩くの早かった?」
「ううん、いいの」
カエデ姫は困ったような笑顔で言いました。「急がないと先生に見つかっちゃうし……」
二人は教育係の先生の目をぬけだしてきたのです。
妹姫の手を借りて、姉姫は立ち上がり服についた砂を払います。
モミジ姫はあたりを見渡しました。
「たしかこのあたりって聞いたのになあ……」
視線の先はお城ではなく、森。どうやら二人の目的は森にあるようです。
森の緑は風にふかれて、さわさわと鳴っています。
妹姫は、姉姫に言いました。
「カエデ、見分けられる?」
「ちょっと待ってね」
目のいいカエデ姫は少し目を細めて森を眺めていましたが、やがて「あ、あれ」と森の中の一点を指さしました。
「あれ、違うかな」
「あそこらへん?」
モミジ姫は声を弾ませて、森へ踏み込みました。
「気をつけて!」と心配そうな姉姫の声。けれどモミジ姫は小石につまずく姉姫と違い、背の高い雑草をも平気でかきわけてゆきます。足場はますます悪くなりましたが、一向に気にせずどんどん進んでゆきます。
やがて、モミジ姫は目を輝かせました。
「あった!」
姉姫に聞こえるように声をあげ、目的のものへとまた一歩踏み込みました。
すると、なぜかドンッと障害物に当たりました。
「え――あ、痛いっ!」
モミジ姫は悲鳴をあげました。腕を急に強くつかまれたのです。
「いけませんね、プリンセス」
と、だれかの声がしました。「お供もなしに、こんな所まで来ては」
だれ、と言いかけたモミジ姫の鼻を、甘い香りがくすぐりました。
モミジ姫の体から、すぐに力がぬけました。
「モミジ!」
森の外で見ていた姉姫が、青くなって金切り声で妹を呼びました。
“だれか”は妹姫の体をかついで、にっこりと笑いました。
「ご心配なく、あなたもご一緒しますから。女性に寂しい思いはさせられませんからね」
『姫を返してほしくば、南第三遺跡へ来い』
――これが、その日の夜にお城に届いた脅迫状でした。 |