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美容師ウサヒコと濁髪の魔法使い 作者:網田めい

Episode:1「熱風を操る、大いなる太陽の美容師」

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星屑のコントレールは、上空何千かメートルで。①

第一毛 「星屑のコントレールは、上空何千かメートルで。」
 
 ここは狭く人通りがない、一方通行の道路。昼間は買い物客が多すぎて、車は無理に通ろうとはしない。日頃から「あそこの通りは人が多い、車は通れない」そう言ってくれた人のおかげか、陽が落ちても車が寄りつかない場所となっていた。

 シャッターを閉めたブティックが並び、看板のデザインを照らす凝ったライトなどはそれほど多くはない。おしゃれのことなど微塵(みじん)も考えてはいない、夜はただの無機質。街灯に照られているだけの寂しい通りは、東京都渋谷区代官山の26時。

 ――ただ一軒、ガラス張りの美容室「girl」。半分閉めたシャッターから美容室経営に必要な照度(ルクス)を計算した明るい光が漏れ、半分閉めているシャッターからは、ふたりの美容師の下半身が見えた。

「だあああ! なにやってんだ! もっと丁寧にブロック分けをしろ!」

 佐宗(さそう)宇佐彦(うさひこ)は美容室の営業が終わり、カットレッスンをする見習い美容師に怒っていた。

 見習い美容師は首だけの人形の髪の毛を丁寧にブロック分けにして、ひとつのブロックを縦幅一センチ分のスライスを取り、それを右人差し指と中指ではさみ、切ろうとする。

「て、店長ぅ……綺麗にブロック分けをしたつもりなんですけどぉ……」
「正中線。ちゃんとセンターで分けろ。うなじと、額の真ん中。ほら、うなじを見ろ。額に比べて左に2ミリもずれているだろう」

 佐宗(さそう)宇佐彦(うさひこ)は腰にかけているシザーケースからカットコームを取り出し、ブロック分けされた頭髪を解いた。そして額からうなじにかけ、正中線上にぴったり素早くセンターに分ける。

「――おい。水分量が足りないし、ちゃんとトリートメントを使ってるのか? 髪通りが良くないときっちり正中線で分けることなんて、おまえじゃあ無理だ」
「ふぇぇ……」
「あーもう、今日は遅いから帰れ。こいつ(ウィッグ)の手入れは俺がしといてやるから」
「す、すみません……お疲れ様ですぅ……」

 見習い美容師は涙目でカバンを持って、そそくさと店を出た。

「……ったく」

 佐宗(さそう)宇佐彦(うさひこ)はコームを指でクルっと一回転させ、シザーケースにしまった。シザーケースには、カットコームの他に、カット用シザー5本、すきばさみ2本、ロールブラシが閉まってあり、髪を濡らす霧吹き、スプレイヤーと沢山のダッカール(髪留めクリップ)をベルト部分に引っ掛けている。
 宇佐彦(うさひこ)は、自分以外誰もいない美容室の片隅で客のセット椅子に座り、鏡越しに自分の顔を見た。

「――はあ、疲れた」

 目の前の雑誌を置く台座にあった試供品。ディーラーから渡された充電式のドライヤーを手に取って。

「……こんな風の弱いもん、営業で使えるかよ」

 ――カランッ

 明かりが消えている、人気のないシャンプーブースからパーマロッドの落ちる音が聞こえた。

「……?」

 宇佐彦はドライヤーを持ち、椅子に座ったままシャンプーブースの方を見る。

「――利得(ゲイン)()職業(ジョブ)、見ぃ〜っけ♪」

 声が聞こえた瞬間、目の前の景色はスパっと変わり……。

 ――青空の中。宇佐彦は遥か上空から椅子に座ったまま落下していた。

「ぬお!? ぬおおおおおおおお」

 浮遊している大地が見えた。その隣に巨大で乱雑にカットされたような水晶(クォーツ)が複数の金色の輪に守られながら淡く輝き、宙に浮いている。
 だが、それどころではない。手に持った充電式ドライヤーを片手に、宇佐彦は椅子に座ったまま落下していく。

 頭上を通った大きい影。宇佐彦は目を疑った。鋭い牙、緑色の鱗、2トントラック2台分くらいの大きな翼。荒い鼻息は、走行中のレーシングカーのエンジンから排気管へ未燃焼ガスが流出し、火を噴くアフターファイアのように炎が漏れていた。

 飛竜はピーンと背筋を伸ばし椅子に座りながらものすごいスピードで落下する宇佐彦の姿が滑稽(こっけい)だったのか、キューンと鳴いた。

 椅子は尻から離れ、身体が地面と平行になる。それはパラシュートのないスカイダイビングで、宇佐彦の身体はこぼれた涙と鼻水よりも先に落下してゆく。
 宇佐彦の脳裏に走馬灯。最後に店を持ちたかったなと心に思い、目を閉じた。

 ――瞬間。

「――あの、大丈夫ですか?」

 宇佐彦は若く、優しい女性の声が聞こえ目を開ける。

挿絵(By みてみん)

「よかったです。気を失っているのかと思いました……」

 彼女は三つ編みでほうきにまたがり、群青色をしたローブを着こなしていた。

「――あっ。髪が……」

 落下する宇佐彦のスピードに合わしていた彼女の三つ編みは風の影響で解かれた。三つ編みの型がついた黒髪は風でまばらに散る。宇佐彦は艶のない髪を見て、手入れが下手くそと気がついたが、それよりも彼女の姿の方が気になっていた。それは本でよく見る魔法使いそのものだったからだ。

 ほうきにまたがり髪を散らす魔法使いは宇佐彦と同じ速度で落下し続けている。

 よく見ると、尻から離れた宇佐彦の椅子をほうきの先端で引っ掛かっていた。彼女は「んしょっ」と、ほうきから椅子を離し、宇佐彦を椅子に座らせる。

 ……彼女はほうきにまたがったままで、正確には飛んではいない。椅子と同じ速さで落下中だ。

 正面に向かい合う形となったふたり。

 椅子にお行儀よく座る宇佐彦と、ほうきにまたがり落下する魔法使い。落下スピードはいっこうに落ちない。

 一呼吸分の間。

「――えっと、お願いしますっ! えへへ。それ、魔法の椅子ですよね? よかったら私も乗せてもらえませんか? いっしょにお空を散歩しましょう!」

 宇佐彦は。

「これはただの椅子だああああ! 空なんか飛べないんだよおおおおお!」
「えええええええええ! 三つ編みが解けて、私はもう空を飛べませんよおおおおお」

 彼女はほうきを太ももではさみ、両手で慌てて髪を三つ編みしようとするがハイスピードで落下する風の影響でうまく髪を結べない!

「あわわわわわわわわ、三つ編み! 三つ編み! 三つ編み―――――――!」

 宇佐彦は慌てて三つ編みをしようとする彼女を見て!

「おいっ! 三つ編みをすればいいんだな?! そうすれば、空を飛べるんだな!?」
「はははははははいぃぃぃ! あわわわわわわわわわわ」
「髪に触るなぁああ! 俺にまかせろおおおおおおお!!!」

 宇佐彦は椅子から離れ、彼女に充電式ドライヤーを無意識に手渡した。

「――えっえっ???」

 宇佐彦は彼女を無理やり後ろを向かせて、風の影響をもろともせず()(ぐし)で三つ編みに必要な部分の髪を整え、風の影響を受けないように片手で髪を束にし、引っ張る。

 その束を逆手の指先を毛束の内に入れて、素早く丁寧に指先だけで編んでゆく!

「髪留めっ!」
「はははは、はいっ!」

 彼女はポケットから純銀で出来た洋風のかんざしを取り出した。

「――かんざしかよっっ! まあいい!」

 宇佐彦はかんざしを口にくわえ、三つ編みを彼女の綺麗な首筋がしっかりと見えるようにオールアップスタイルにした。きっちりと力を入れ、まとめた後ろ髪は風にあおられ、散らかっているのは前髪だけとなった。そして、宇佐彦は彼女が魅力的に見える位置に狙いを定め、勢いよくかんざしを差した!

 ――瞬間、彼女の髪が光りだす!

「――ありがとうございますっ! 魔力充分っ! 飛っびま―――すっ!」

 ほうきにまたがった彼女は勢いよく空を()ける。ハイスピードで駆けるほうきの筆からは(きら)びやかな星の屑が溢れ出て、彼女は空に輝く線を描いた。

 近くを飛んでいた飛竜は彼女の隣に並んだ。彼女は青空によく似合うさわやかな笑顔で飛竜に手を振る。竜は彼女の手を振った姿を見てふたたびキューンと鳴いた。

 宇佐彦は気持ちの良い真っ青な空に星屑で線を描く彼女を見上げる。
 超高速で空を飛ぶ姿に面を食らった宇佐彦。だがすぐに正気を取り戻した。
 彼の焦った顔は雲一つない青空とは違い、さわやかなものではない。

「――俺を置いていくなあああああああああ」

 ――毛髪魔法世界(ベルモタカラント)の上空、何千かメートルでふたりは出会った。

 これが後に伝説となる美容師ウサヒコと濁髪の魔法使い(クラウディ・ウィッチ)シディアの運命の出会いである。
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