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美容師ウサヒコと濁髪の魔法使い 作者:網田めい

Episode:3 「サロン・ウサピィ、始動」

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理として涙が水である、由。2

第21毛 「理として涙が水である、由。2」
※挿絵はまだ入っていません。文章先行配信。
 
 アイオラは怖いと(まぶた)を閉じて、耳をふさぐが、涙は流れ続けた。

 目は閉じているという事は目の前は真っ暗で、当然のこと。
 耳を塞いでいるという事は何も聞こえない、それも当然のこと。

 ――閉じた瞳のその先の広がりは、現実だが現実ではない。彼女は想の世界へのめり込む。

 今の彼女には目を閉じていても見えてしまう暗闇が、明るくなる。
 そして耳を塞いだにも関わらず、例外も無く音楽が聞こえてくる。

 それは暗闇の真ん中を一本の光が自分の瞳に向かって貫き、黒をかき消す。中心点が見え、白の広がりからのホワイトアウト。入れ違いで“音”が響く。
 ――“音”。ピアノとフルートの旋律が、一面の白へ静かに馴染(なじ)んでいた。
 調律音(メロディ)は耳で追わなくとも身に染み、心をひどく落ち着かせようしてくる。そして音の粒が徐々に減り、感動しきってしまう前にすうっと消え、何者かが話しかけてくる。


『曲の続きは……もう少し壊れてから。もうすぐ会えるね――』


 声の色が細い、幼い男の子の声が聞こえたと同時に。


「アイオラちゃん……」


 ――名前を呼んでくれた声の振動が胸に伝わり、そのまま頭まで通じた。アイオラがたった今、感じているぬくもりは窮屈(きゅうくつ)で、ひどく優しかった。目を、耳を、きちんと()けた。
 (ひら)いたはずの目が、視界に映す色は一面の茶色だけ。
 だがこれは、(まこと)の現実。きちんと目を開いている。……ダサい茶色。それは見た事のある生地の色で、メイド服の色だった。

 シディアはアイオラを優しく抱きしめていた。アイオラに瞳をゆっくりと開けるよう、ひとりで閉じこもらないようにと、彼女は何も言わず優しく頭を撫でていた。

「――は、離してください……!」

 シディアは何も言わず、離さずそのまま強く抱きしめた。

 ユーディは膝を足元にすがらせたウサヒコをただ茫然(ぼうぜん)と見つめ、続いてシディアを見た。彼女はまるで母親のような顔でアイオラを抱きしめている。彼女は、シディアと同じようにウサヒコを抱きしめようと、励まそうと動いた。しかし、なんと声をかければいいかわからない。彼に向けた手をそっと戻して、うつむいた。
 ウサヒコは何故、傷ついてしまったのだろうか。
 彼女は私が連れてきた。私のせいなのだろうかと、胸を痛くした。

 ――マサムネはウサヒコを見ていた。メガネのブリッジを左中指で支え、カコクを起こしにシャンプーブースへと向かう。

「――カコク、起きて」

 カコクはマサムネに肩を揺らされ、重い腰をあげた。

「ううん。なンだ……? ……静かだな」
「うん……」

 カコクは状況が掴めなかった。だが今、この場が暗い雰囲気だとは理解する。

「――マサムネ。俺の力が必要だってのか?」

 マサムネは静かに、うなずいた。

「……しょうがねえな」

 カコクはシャンプー台をぴょんと飛び降りて、すぅっと息を吸い込んだ。そして叫んだ。

「――遊びに、行くぞおおおおおおお!!!」

 ――それどころではない。ユーディは空気を読めないカコクに怒りと(あき)れが混じった感情をあらわにし、シディアとアイオラを引っ張り外へ出た。纏わせた二つの感情は彼女の背中から目で感じることができ、閉めた扉の音は強く、耳からでもすぐに伝わった。いずれにせよ“拒絶”の二文字であった。

「なンだよ、あいつ。ノリが悪りぃな」

 マサムネはキャッシュレジスタのそばに置いていた肩掛けカバンと細長い包みを手に持つ。
 そして、ウサヒコに話しかけようとするが、躊躇してしまう。
 ……意を決して話しかけようとしたその時、カコクが笑顔で叫んだ。

「ウサ兄っ! 遊びに行くぞ!」

 カコクは、無理矢理ウサヒコの手を引き、立たせたと同時に――。

 ――ドゴォ!!

 掴んだ腕。後ろから前へ体を軸回転させ踏み込む。瞬間的に前屈し身体を沈め……。

 ――カコクはウサヒコに一本背負いを決めていた。

 床に叩きつけられたウサヒコは背中を押さえながらのたうちまわり、痛苦の表情で叫ぶ。

「――何をするんだよッ!!!」

「悪りぃ。つい、な。――さあ、行こうぜ!」

 カコクの顔はただ、心からウサヒコを楽しませてやりたいという表情でしかなかった。

「マサムネ、良い頃合いだ。街を出る。だからお前の力が必要だ。“あれ”は持ってきてるよな?」

 マサムネは細長い包みをカコクに見せた。

「もちろん。今日はそのつもりだったんでしょ?」
「へへ。やっぱり、マサムネにはかなわねえなあ」

 ウサヒコは、なすがままにカコク、マサムネに連れられ、店を出た。
 日は沈みはじめていた。夕方の色は元の世界と変わらない。遠くに見える夕日の()えに真っ白な女王の城は光っていた。石をタイルのように並べた造りのメインストリートの地面に活気溢れる商店街、人の目に映るその全ての風景が銅色に染まっていた。

 カコクの橙の髪が夕日の色に馴染む。
 彼は手櫛(てぐし)で洗いたての髪をかきあげ、水の飛沫を小さく飛ばした。ピアスがちゃらりと揺れて、ほのかに光る。彼は笑う。心から笑う。

「腐ってンじゃねえよ。笑えよ、ウサ兄!」

 夕日は沈み、いずれ紫色の夕闇に変わるだろう。
 カコクは走った。ウサヒコを走らせるように、ついてこいと誘う。
 日が沈んでもいつまでも遊ぼうと、夜を“拒絶”する(けっ)して止めることが出来ない子供のように。

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