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美容師ウサヒコと濁髪の魔法使い 作者:網田めい

Episode:2「ヘアーサロンウサピィ、開店までの軌跡」

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愛する人の作り方。2 ①

第14毛 「愛する人の作り方。2」
 
 ――ルビィの心の言。

 ルチルは今からウサピィに告白しに行く。シディアの魔法の力で好きな想いが肥大した状態で。

 ボクを悩ませたユーディの魔法は何故か解けた。解けた理由なんて、知らないし、どうでもいい。きっとユーディのことだ。他にも魔法が解ける方法があったんだ。ボクはルチルが告白するなんて、嫌なんだよ。ただ嫌なだけ。だから止めなきゃ。……魔法の力でウサピィのことがもっと好きになって告白をするなんて、そんなの間違っているもん。そんなのものは絶対に恋なんかじゃないもん。きっと恋ってもっとこう……温かくて、ほわっとして、きらきらして、きっと素敵なもの。ルチルがウサピィのこと、大好きなのは知ってる。……知ってるけど、それは昔からルチルがお兄さんが欲しかったからだよね? ただ、ウサピィが理想のお兄さんに見えて、ただ、自分のお兄さんになってほしかっただけ。そんな軽い理由なんだ。妹がお兄さんのことが好きだなんて、これは恋じゃない。妹が兄のことを恋人のように想うだなんてありえないもん……。
 恋ってきっと血の繋がっていない他人が、友達が、兄妹の絆以上に大好きになる気持ちだから。たしかにルチルとウサピィは血は繋がってないよ? でもね、ルチルがウサピィのことを『おにいちゃん』って呼んでる時点でそれは兄妹のようなものでしかないんだもん。
 ……だから、ルチルは告白したらダメだよ。ボクはとめる。絶対にとめてみせる。そして、ボクが告白をするんだ。

「――って、なんでそうなるのっ!」

 自分の気持ちを心で呟いたルビィは、自分自身にツッコんだ。脳裏にはさわやかなウサヒコの姿が浮かぶ。ウサヒコはルビィの名前を呼んで、さわやかな笑顔で手を振っていた。

 ――温かくて、ほわっとした。ウサヒコの笑顔はきらきらして、とても素敵なものだった。

「~~~~~~」

 顔を真っ赤にするルビィ。胸はどきどきで、頭はくるくるの混乱中。ルチルを止めるといっても具体的には何をすればいいのかわからない。扉のドアノブに手をかけずに出ようとして、そのまま勢いよく扉にぶつかった。

「――はぅんっ!」
「な、なんでこんなところに扉があるの!?」

 ドアノブに手をかけずに出ようとしたルビィ。扉には罪はない。だが、彼女は頬を膨らませプピーと怒りながらもドアノブに手をかけて廊下に出た。

「――あらら、ルビィ・スカーレット。顔を真っ赤にして。どうしたのぉ~?」

 ユーディはルビィが部屋から出るのを待っていた。その隣にシディア、ルチルの姿。ルチルは顔を真っ赤にしてイヤイヤしているが、シディアが励ましていた。

「お、お花を摘みに行くんだよっ! 言わせないでよね、恥ずかしいから!」

「……へー。でもなんで動けるようになったのお? 私の魔法は恋をしないと解けないはずなんだけどなあ~?」

「き、気合だよっ! 気合! ボクくらいになると、気合でなんでもできるんだからっ! じゃ、じゃあね!」

 ルビィはちらちらと3人を気にかけながら、トイレへ向かおうとする。

「――じゃあ、ルチル・ゾンネンゲルブ。ウサピィに告白しに行きましょうか!」

「だめえええええええ!!!」
 ルビィは全速力でルチルに抱きついた。
「きゃっ……。ルビィさん??」

「――あれれ? お花を摘みに行くんじゃないのぉ~?」
「う、うるさぁいっ!」

「ルビィちゃん! 一緒にルチルちゃんの応援をしようよ!」
 シディアはわりと真剣な顔でガッツポーズ。
「やだ! 絶対にやだあ!」
 しかし、ルビィは顔をブンブンと横に振り、ルチルに抱きつきながらも嫌がる。

 そこに。

「――おーい。ルチル~? 早く設備設計師に会いに行くぞ~?」

 ウサヒコは設計師に渡すシャンプー台、セット椅子、鏡のデザインをした書類を持って現れる。

「う、ウサピィおにいちゃん……!?」

挿絵(By みてみん)

 ルチルの瞳に脳内で200%美化されたウサヒコの姿が映る。きらきらしたオーラを放つイケメンウサヒコがルチルに近づいてきた。
 徐々に高鳴るルチルの心臓。胸に顔をうずめているルビィは彼女のどきどきしている心音に気がついて、はっとする。ルチルの表情を見た。それは恍惚(こうこつ)の表情。恋する乙女の謎の色気。はあはあと聞こえる息は、特に寒くはないのに白く見えるような気がした。
 近づくウサヒコにルチルの鼻腔(びくう)は耐え切れず、血をだらだらと流してしまい、ルビィの頬に血が付いた。

「ひっ……! はなぢ!」
 ウサヒコは鼻血を流すルチルに気がつき、気持ち悪いと思いつつも紳士的に対応する。
「……ったく。たまに鼻血を出すよな、ルチルは」

 彼はハンカチを取り出し、ルチルの鼻を優しく拭いてあげた。

「あぅ……。お、おにいちゃん……! じ、自分で出来ます……!」
「そうか、ほれ」
「……えっ、あっ……うそです。もっと拭いてほしいです……」
「どっちだよ」

 ルビィは仲の良いふたりの姿を見て、胸を締めつけられたように寂しく、切なくなり……。
「……うわあああん!」
 ハンカチを奪い取った。

「う、ウサピィのばかあーーーーー!」

 ――鼓膜(こまく)をキーンと鳴らすほどの鋭い破裂音が廊下に響き渡る。ルビィはウサヒコの頬に思いきりビンタをした!

「ぐはッ!? なんでっ?!」

 ルビィはハンカチをポケットに入れようとした。だが鼻血で湿っていたので、やめた。絞りながら廊下を駆ける。

「る、ルビィちゃん!? どうしたの!?」

 シディアはルビィの突然の行動に驚き、ルビィの逃げた方向を教えてくれている、ぽたぽたした血痕(けっこん)を見て。

「――わかったあ! 早く洗わないと、染みになっちゃうから、ルビィちゃんは急いで洗濯しに行ったんだよ!」
濁髪の魔法使い(クラウディウィッチ)。それは違うと思うわよ……?」

 天然シディアをツッコむユーディに、ぷるぷると震えるルチル。

「許せませんわ……。おにいちゃんに平手打ちを食らわすなんて……!」
「ルチル・ゾンネンゲルブ。私がいる前でよくそんな事を言えるわね……」

 ツッコむユーディに、頬をすりすりしているウサヒコ。
「…………痛ぇ」
「でも、今そんなことはどうでもいいです! わたくしは心に決めました! おにいちゃんに伝えたいことが……!」
「……お、おう?」

 顔を真っ赤にして、緊張しているルチルと、平手打ちされたことをどうでもいいことにされて、ちょっともの悲しく感じるウサヒコおにいちゃん。でもおにいちゃんは大人だから我慢した。何も言わなかった。切ないけれども何も言わなかった。というよりも、唐突すぎて何も言えなかった。

 ルチルの心のときめきは止まらない。彼女はただ、おにいちゃんと呼びかけるだけで満足だった。一緒に美容室の設計作業を手伝うだけでとてつもない幸せを感じていた。しかし、今のルチルはそれ以上の関係を望んでいる。告白して、失敗してもシディアの魔法のせいにすればいいとユーディのささやきに、魔法で肥大した愛は少しだけ変わってしまった。告白、告白が成功すれば、彼を永遠のおにいちゃんに、私だけのものにできる。少し黒く、ひん曲がって感じてしまうけれど、白くて、素直にも感じられる可愛らしい支配欲が少しだけ、強く見えるようになった。

 彼女の脳裏にはウサヒコと高級レストランでディナーを食べている姿。そして、婚約指輪を渡そうとするルチル。指輪のダイアモンドっぽい、永遠の愛を結んでくれそうな魔法結晶体が燭台の光できらりと輝いたが、それよりもウサヒコの笑顔の方が輝いていた。イケメンだ。カリスマだ。

 それはもう、幸せ一色のふたりの姿は美しい。ぽわわんと乙女の妄想に花が咲く。もし付き合うことが出来たとしても、おにいちゃんと愛を持って呼びたい、叫び続けたい。夫をおにいちゃんと呼ぶ、お嫁さんになることを目標にノーブラコン(ノー・ブラザー)のルチル(コンプレックス)は心に決めた。

 ――そしてシディア。彼女は大変なことに気がついた。これからルチルちゃんがウサピィさんに告白をする……! そんな大事な場面にルビィちゃんがいない! 汚れたハンカチを律儀に洗濯しに行ってしまった! 今はそんな事をしている場合ではないのに! 早く一緒に応援しなきゃ! シディアは大きな声で叫んだ!

「ルビィちゃああああん! ルチルちゃんが告白するよぉーーーー!」

「…………――――だめえええええ!」
 ルビィは急いで戻ってきた! ハンカチはトイレで洗っていたようで、ちょっと赤色が落ちて湿っていた。
 ルチルはぷるぷると震えながら、ウサヒコに想いを告げようとする!
「わたくしは、おにいちゃんのことが……!」
「うわあああああ!」
 ルビィはウサヒコの下っ腹を殴った。
「ぐふっ……!」
 ウサヒコはくの字になり、悶絶(もんぜつ)する。
「――ダメ! 恥ずかしいですっ!」
 悶絶するウサヒコに気がつかず、ルチルは足元へすがるように膝から崩れ落ち、床に何度も拳を叩きつけた。
「――ルチルちゃん、勇気を出して! ファイトだよっ!」「頑張れー」
 シディアは悶絶するウサヒコを見ていない。ルチルに注目し心からを応援。隣のユーディはニヤニヤしながら、ウサピィはまあ、大丈夫でしょ。と、軽視しながら応援する。ルチルは気合を入れ、立ち上がった。拳を握ったその姿は凛々しく、美しい。
「シディアさん……! ユーディさん……! ――わたくし、頑張ります!」
「ぐぉぉ……」
 ウサヒコは我慢する。なぜ腹を殴られたのかわからない、しかしこれは子供がやったこと。だから怒るのを我慢する。

「う~~~~~~」

 ルビィは目を瞑り、顔を真っ赤にしながら唾を飲み……大声で。

「ボクはウサピィのことが好き! 大好きなのーーーーーーッ!」

『!?』

 ――ぴきーん。一斉にルビィに注目する女性陣とウサヒコ。時が止まり、空気が変わった。一秒先の未来がわからない。何が起こるか想像もつかない、突然の告白……!

「――ばふうううううっ!」

 ユーディはルビィの突然の告白に耐え切れず、吹き出した。口から飛び出した飛沫は隣で突っ立っていたシディアの頬を濡らす。吹き出し音は、止まった時間をふたたび動かす。あわわと焦り出したシディアに滝のような汗を流しはじめたルチル。ルビィはふたたび叫んだ。

「――だから、ボクと付き合ってーーーーーーッ!」

 ルチルの頭に詠唱サークルと青筋が浮かび上がる。

「ルビィさん……」
「あわわわ……ルチルちゃん……。私、わかったよ。落ちついて聞いてね。これは三角関係だよ!」
「わかってますわよっ!」

「……えーと、なんだ。ルビィ?」
 まるで状況が掴めていないウサヒコ。
 ルビィは声をかけられて、びっくりした猫のようにぴょんと肩がはねる。

「――うにゃあああ! つ、突き合ってやるーーーー!」

 涙目で真っ赤な顔のルビィは拳に炎を纏わせ、ウサヒコの左頬に本気パンチ(ガチパン)の動作に入った! 振りかぶった拳。めらめらと燃え上がる炎はスローモーション。「――あ、死んだ」ウサヒコは心から思った。ああ、変な人生だった。こんな変な世界で美容室のオーナーになれることは何だかんだ言っても嬉しかった。嬉しかったのに、こんな人生あんまりだ。ひどいぜ神さま。ああ神さま、なんで俺はこの世界に来てしまったんだよ……。なあ、神さま。神さまがもしいるのならば、聞いてほしい。俺、殴られて死ぬの? ああ、なんでこの世界に来てしまったんだ。――ウサヒコの脳裏にある言葉がよぎった。それはこの世界に来てしまった時のきっかけ、「――利得(ゲイン)職業(・ジョブ)、見ぃ~っけ♪」と言う言葉。『ゲイン・ジョブ』ってなんだよ……。と、ウサヒコは思った。

「――おにいちゃーーーん!」

 ウサヒコをかばおうとするルチル。目に映るはスローモーションの世界。ルビィはルチルがウサヒコをかばいに来たことに気がついたが、拳は止まらない。炎を纏った拳はルチルの顔、防の魔力に当たる。

 ――飛び散る深紅(しんく)黄金(こがね)の火花、防の魔力が(かな)でた協和音(セブンスコード)は、ウサピィおにいちゃんを守ろうとするルチルの愛の旋律。シディアの魔法で愛情が強くなったルチルの防の魔力と、ルビィの攻の魔力が(つむ)ぎだした三重奏(トリオ)。演題は『ノー・ブラザーコンプレックスコンチェルト~桃色の悪戯を添えて~』。

「ぬおおおお!?」

 目の前の赤と黄の火花。魔力衝突音、協和音(セブンスコード)に焦るウサヒコ。

「うわあああん!」

 ルビィは泣きながら、両足に炎を纏わせ後ろ回し蹴りをルチルに向けるが、ルチルは冷静に受け止める。

「――恥ずかしいのならば、なんでおにいちゃんに告白をしたんですか!?」
「……っ! うるさぁいっ!」
 ルビィは一足で距離を取り、構えを取る。

「――永劫の聖剣(エクスキャリオス)
 ルチルは光の剣を作り出し、ルビィに向けて構えた。ウサヒコはどうすればいいかわからなかったので、シディアとユーディの元へささっと逃げた。

濁髪の魔法使い(クラウディウィッチ)。覚えておきなさい。これが女の戦い、修羅場よ」
「……はいっ! ユーディさん!」
「ふっ。いい返事ね」
「どうしよう……。ルビィちゃんとルチルちゃん、どっちを応援したらいいかわかりません!」
「ふっ。無理に止めないで、ふたりの思うままにさせた方がいいと思うわ。……『友達』ならね!」
 ユーディはシディアに向けて親指を立てた。
「わかりました! ふたりは友達です! 見守ります!」
 シディアもユーディの楽しそうな笑顔につられて、親指を立てた。
 ふたりのやりとりは友達というより、師匠と弟子のように見えた。
「ルビィちゃん、ルチルちゃん。どっちもがんばってー!」
 シディアはふたりを精いっぱい応援する。

「いや、怪我をするだろう。止めてくれ」
 ウサヒコは冷静にツッコむが、退屈しのぎでこんな楽しい茶番はなかなかお目にかかれない。止めてはダメだと、ユーディはウサヒコに迫った。

「あのねぇ……。ふたりの気持ちは本物なのよ? ケンカをした後の怪我の心配をする前にね、すでにふたりの気持ちは傷ついているのよ。だからふたりは傷ついた大事な気持ちを治すために、衝突しているの。――ウサピィは女の子の気持ちをどう思っているのよ。なに? 『私のために争わないで』とか言いたいの? うわあ、気持ちが悪い。私は絶対にふたりを止めない。止めてはダメ。止めたいのであれば、自分で止めてみせなさいよ。もちろん、どちらかひとりを選んでから止めてね。男でしょ?」

 このセリフを5秒で流暢(りゅうちょう)に言ったユーディ。ウサヒコは何も言えなかった。彼女はにやりと笑って、もっと言い負かそうと迫る。

「なに? 何か言いたい事があるなら、言いなさいよ。私は……」

 ――ズルッ。

 床の血だまりで彼女は足を滑らせてしまった。
 ウサヒコに向かってこけそうになるユーディ。ウサヒコは彼女をとっさに力強く抱きしめる。

 ――3000体の魔物(モンスター)とルビィにキスとしたことがあるユーディ。濁髪とはいえ人間の男の免疫はゼロに等しい。ウサヒコに抱きしめられた彼女は頬を真っ赤にして固まってしまった。ぐるぐると目は回る。声は「ひゃわわ」としか聞こえない。

 ルチル。かばったウサヒコのことがかなり気になってチラっと見る。
 ルビィ。告白をしたウサヒコがちょっと気になってチラッと見る。

 ふたりの視線はウサヒコの背中。彼の後頭部のすぐ真横から、桃色の人の顔が覗かせていた。すぐにわかった。抱き合っている。

「……っと、大丈夫か? ……ユーディ?」
「はぃ。……だ、だいじょうぶでしゅ、です……。しょれよりも、はなれれくりゃはい……」

 いつもなら長セリフをすらすらと言えるユーディ。でも、舌がもつれていた。

「なんだ? きちんと喋れよ」
「ふぇぇ……ちきんとしゃれれないよぉ……みみもとれしゃれれないれぇ、はにゃれれ、れれぇ……」
「え? なに? それより、きちんと立てよ」

『おにいちゃん(ウサピィ)のバカッーーーーー!』

 ルビィとルチルのシンクロした声。
 ぼーっとしていたシディアはびくっ! とびっくりしてふたりの視線の先、ウサヒコを見た!

「す、四角(スクエア)関係……!?(コミュニケーション)

 ウサヒコはユーディを抱いたまま、ルビィとルチルの方を向いた。ふたりは涙を溜めながら怒りの波動を皮一枚から絶え間なく、ほとばしっている。ユーディはふたりの殺気に気がついたが、身体が動かない! 汗がだらだらと流しながらも、一言。

「れつに、好きでらきあってるわけらなくて……あらしがこれたらけらの!」

「おまえは何を言っているんだ」
 ウサヒコ、ルビィ、ルチルには、ユーディの『別に、好きで抱き合ってるわけじゃなくて、私がこけただけなの!』という言葉が通じなかった。そしてシディア。

「わかったあ!」

 閃いたシディアに向く。全員。

「ユーディさんはウサピィさんの事が猛烈に好きで、付き合ってる! それはもう一言で例えるなら『嵐』! ベルモタカラントに愛の嵐が吹き荒れそうなんだよ!」

「嵐……。な、なるほど。ナイス通訳ですわ……。あぁ、おにいちゃんのバカ……」
 ――永劫の聖剣(エクスキャリオス)は音を立てて砕け散った。ルチルは床にくずおれ、涙をホロリ。そしてルビィは激怒した。

「じゃあなんなの!? 前からユーディとウサピィは付き合ってたの!?」
「え……。違っ……」「ちらいましゅっ……」

「――うん! そうみたいだよ!」
 シディアはウサピィとユーディのかわりに大声で答える。

「――ウサピィ、ボクの拳が見える?」
「真っ赤に燃えている……」
「これからウサピィの血でもっと真っ赤になるよ」

「え……?」

 ルビィは、ヘビーローテンションのルチルの肩に優しく触れた。
「――ねえ。ルチルも腹が立つよね? だからボクに力を貸してよ。一緒にウサピィを処刑しよう?」
「そんな……わたくしにおにいちゃんを傷つけるなんてこと、できません……」
「ルチル、心配しないで。ボクがついてる。傷つけるなんて事はしない……。本気で殴るだけだよ」
「それを『傷つける』というのでは……?」
「ううん、違うよ。『殴る』だよ……?」
「…………」
「…………」
「わかりましたわ! わたくしはおにいちゃんを『殴る』!」
 ルチルはすぐにヘビーローテンションをライトハイテンションに切り替えて、ウサヒコを『殴る』と決め、力強く立ちあがった!

 ウサヒコはユーディを抱きしめたまま、恐怖で声が出なかった。
 ルチルの属獣(ビースト)罪に気づかぬ、(クライテット)悲しき龍(ドラグーン)が脳裏に浮かぶ。しかし、ルチルは『殴る』と言った。きっと殴られるだけだ。あんな悪魔のような禍々しいものを具現化させるわけがない。しかし、なぜ俺は殴られなければならないんだ。一体俺が何をしたんだ。勘弁してくれよ。だが、これは子供のすること。俺は男だ、我慢してやる! さあこい!! 身体が我慢をするため強張り、ウサヒコはユーディを強く抱きしめた。

「ふぇぇ……。なんれ、つよくらきしめるのぉ……?」

 金の髪は輝きを増し、ルチルは頭上に複数の詠唱サークルを形成した。

「――短縮詠唱。罪に気づかぬ、(クライテット)悲しき龍(ドラグーン)

 響く咆哮、その振動は落雷と変わらない。『死』をモチーフとしたような骨龍(ボーンドラゴン)はルチルが纏う電の気の折線(せっせん)を紡ぎ、姿を(あらわ)した。

 ウサヒコは殺されると確信する。混乱した彼はユーディをお姫様抱っこに切り替えて、逃げ出した。
「――お、おろひにゃしゃいよぉ!」
 ユーディはお姫様抱っこされることにはじめは抵抗したが、素敵な男性にお姫様抱っこをされることを夢に見ていたので徐々にうつむいて、静かになった。
「……れ、れつに。嬉しくなんかにゃいんらから……」

 走り去るウサヒコの背中を見るルビィとルチル。

「ルチル、デヴァインネイションは出来る!? 光の速さでウサピィよりも先へ!」
「――くっ、さすがに最上位魔法の多重交差詠唱(ダブルクロッシン)は無理ですわ!」
「わかった! 接近戦はボクにまかせて! ルチルは遠距離から援護を!」

 ルビィとルチルはユーディの攻撃に対処しやすいよう、距離を取りつつウサヒコを追う。

 残されたシディアはひとりで興奮していた。
「――恋ってすごい!」 

 ウサヒコの手元から設計師に渡す予定だった書類が落ちていた。シディアはそれを拾い、更に目を輝かせる。

「これがウサピィさんの仕事場で、私たちの新しい家……!」

 シディアは品のあるアンティーク調にデザインされた設備と間取りを見て胸を(おど)らせる。
 すでに住所は美容室経営者になり、ニヤついていたウサヒコから聞いている。
 シディアは書類を大切に持って、指をパチンと鳴らし、星屑が一粒散らした。

「あっ……」

 シディアはほうきを出そうした。だが、ほうきは出てこない。コルサーンの森に捨ててしまった。
 悲しい顔したが、すぐに希望に満ちた笑顔に変え、廊下を()ける。シディアは自分の精神魔法のせいでドタバタ劇が始まったことに気がつかず、あまつさえも今、忘れてしまっていた。

 笑顔のシディアは目の前のことに一直線。私たちの新しい家。ウサピィさんとルビィちゃんと住む、大切な場所。それは3人の大切な夢の詰まった新しい秘密基地。わくわくする。どきどきする。

 ――シディアはメインストリートの空き家へ走った。

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