「おいおい。マジでオレと別れるつもりなのかい?」
「そうよ。マジよ」
とあるバーの一角。とある男女の、よくある別れ話である。
「ちきしょー!」
男はウォッカを一気のみした。
「そんな飲み方したら体に悪いわ」
「そんなこと言ったって。そんなこと言ったって」
男は鼻水と涙でもはや顔がぐちゃぐちゃである。
二人の向かいでグラスを拭きながらマスターは苦笑いをしている。
女は男の背中をさすりながら言った。
「だって、別れる原因はよっくんにあるのよ。わかってるの?」
「おえっ。わからないよ。うえっぷ」
男は戻しそうになりあわてて両手で口を押さえた。
「よっくんが浮気するからいけないのよ」
「そんなこと言ったって!」
げろげろげー!
男はついにゲロってしまった。
床にひざまずく男。背中をさする女。あわててぞうきんを持ってくるマスター。
「したかったんだもん。したかったんだもん。しょうがないじゃん!」
「わがままな男ねぇ・・・・」
「じゃーせっちゃんは浮気したくなったことないのかよ!」
「あるわよ。6回くらい」
「え?」
「でも我慢してたわ。よっくんを愛していたから・・・・」
6回て、リアルな数字である。てか、(せっちゃんのセリフみんな過去形だなぁ)と男は思った。
そして、バーの薄明かりの中、二人は、もうそろそろ帰りましょうか、という雰囲気になっている。
「じゃそろそろ帰ろうか」
「うん。でもいっしょに帰るのヘンだから別々に帰りましょ」
「どっちが先に帰る?」
「やっぱり別れを切り出したあたしからかなぁ」
「まぁそうだね」
酔いが醒めて、男もだいぶ落ち着いてきた。
「じゃあ、よっくん。元気でね」
「うん。せっちゃんも」
女はハンドバッグを手に取ると、席を立った。
一人残された男。
「マスター。ウォッカちょーだい」
「よした方がいいですよ。また吐きますよ」
「大丈夫だよ。今までのは演技でやってたんだ」
「演技???」
マスターは、グラスを拭きながら「どういう意味?」という顔をしている。
「つまりね」
男は語り始めた。
マスターは唾をごくりと飲んだ。
一通り語り終えると、マスターはひざがガクガクして、ついにはグラスを床に落としてしまった。
ガシャーーーーン。
「ま、まさかそんな・・・・」
「しかたないんだよ。事実なんだよ」
壁にかけてあった古時計がぼォんと鳴った。
もう十二時だ。
男は帰ることにした。
男が演技した理由。それは、そう、君もよく知ってるアレなのさ。
アレ。
アレって何?
ちきしょー! 思い浮かばねぇーーーー!!!! |