Ruby eyes ―進む道はあるから―(5/7)PDFで表示縦書き表示RDF


Ruby eyes ―進む道はあるから―
作:高田高



5.slave ―惚れ薬―



 高品に古くからある寂れた商店街。そこを横目に更に歩くと、眼下に田園が広がる公園にたどり着く。今現在は田園風景ではなく、都市開発による工事現場しか見えない。
 古くから親しんだ緑が、味気ない灰色に変わる姿はどこか哀しい。
 そんな年寄り臭い事を考えるのは、俺の趣味が散歩だからだろう。まるでセカンドライフを持て余す老人のようだ。

 しかし、今日の散歩は賑やか。賑やかと言うか、よく吠える犬の散歩のようで、軽く鬱になる。

「蒼真、ここの眺めサイコーだね! 空中公園とでも呼ぶのかな?」

 とくに物珍しいはずもないのに、リアはやたらとテンションが高い。
 ところで、なぜ二人で散歩しているのかと言うと、リアに町の案内を頼まれたため。春美も誘ったのだが、休みの日くらいゆっくり寝たいから、と拒否された。俺だって寝たい。

 緑色のベンチに腰を掛け、うなだれていると、リアは隣に座り心配そうに顔を覗き込んできた。

「どうしたの? そんなリストラされたサラリーマンみたいな、悲哀に満ちた表情浮かべて」

「お前に振り回されて疲れてんの。大部分は吸血によるところが大きい。
 吸血をもう少し抑えろ」

「無理!」

 しつけとしては、ここでガツンと言うべきなのだが、そんな事を言おうものなら、早速噛み付かれるだろう。
 なので、やんわり命の危険を伝える事にした。

「首筋はさぁ、大動脈やら静脈やらが通ってるわけだろ? ここはさ、出血したら本当に危険なわけ。わかるよな?」

 俺が首筋を見せてペシペシ叩いて説明すると、リアは俺の言う事など聞いていない様子で今にも噛み付きそう。
 と言うか押し倒された。

「コラ! 離せ! 話の途中だ!」

 両手を押さえ付けられ、馬乗りされているため、俺はただジタバタするだけ。更に、押さえる力は普段のそれと比較にならないほどの怪力。火事場でもないのに、火事場力が発動しているのか、とことん生命の神秘である。

「ちょっとだけだから! 痛くしないから!」

「だいぶちょっとだろ! とりあえず離れろ! 周りの視線が痛いから!」

 それはまあ、公園の、しかもベンチで見せる光景ではない。相手がルビーアイズで、吸血しようとしているにしても、随分いかがわしい体勢だ。

「大丈夫! 私は全然気にしないから!」

「俺は大丈夫じゃないから! 俺は気にするから!」

「目の前においしいものがチラチラしてるのに、我慢しろって言うのが無理なの!」

「わかった! 家でなら吸わせてやるから屋外はやめろ! 風紀的にマズイから!」

 その言葉に、リアはようやく俺を解放してくれたわけだが、当然ながら自分の発言に頭を抱えてうつむいた。

「そんなに嫌?」

「嫌って言うか、血は大事なものだから。無くなると当然死ぬから」

「それは怪我なんかの出血の話でしょ?
 私達の吸血は、血を吸うのと同時にそれに近い栄養素の分泌液、ヴィゴニアーゼってのを流し込むから死ぬような事はないよ?」

「ヴィゴニアーゼ……、って、それなら血を吸う必要無いだろ? 自分達で循環できるわけだし」

 リアはその意見を否定するように首を振ると、口の前に人差し指を立てて少し左右に振りながら、ちっちっと舌打ちした。

「わかってないなぁ。それは私達には栄養にならないの。ヴィゴニアーゼが栄養になるなら、そもそも何も食べる必要無いでしょ?」

「つまり、あれか。人間にのみ反応するって事?」

 リアは大袈裟に手を叩き、大正解ー! と言いながら、俺を押し倒した。
 まるで巻き戻し。

「だから、ここじゃダメだって!」

「正解したあなたに、私のヴィゴニアーゼをプレゼント!」

「それと同時に俺の血が取られるんだけどね!」

「ギブアンドテイク!」

「互いに了承してこそだ!」

 聞き届けられるはずもなく、俺の血液は今まで以上に大量に吸血された。
 我慢の限界だったのだろう、リアの吸引力はサイクロン方式の掃除機のパワーなど目じゃない。見えないホコリどころか、カーペットごと吸い取りそうなほど。
 お陰でいつも以上にぐったり。散歩コースがフルマラソンのように厳しい。


     ◆


「た、ただいまー」

 出掛けていて誰もいない我が家に、弱々しい俺の声だけが響き渡った。
 俺はほふく前進しながら、なんとかリビングにたどり着いた。
 ソファーに寝転がり、TVのリモコンを操作して適当なチャンネルに合わせると、番組の情報をBGMにして目を閉じた。
 流れてきたのは今更ながら、ルビーアイズの身体構造なんぞの特集。正確には再放送番組。

『ルビーアイズ。これは人間が付けた呼称。正確にはヴィゴニストと呼ぶ。女性はヴィゴニスレテ。
 ヴィゴニストは温厚な種族で、友好的。
 人間に近い、いや、人間とまるで変わらない身体構造でありながら唯一違うのは、吸血による栄養摂取が可能な事だ。
 吸血の際同時に流し込む分泌液、通称ヴィゴニアーゼは、人間にのみ反応する高エネルギー源。
 しかしながら、副作用はある。それは……』

 とそこで急に番組は中断され、高速道路で起きた大規模な玉突き事故の情報に切り替わった。

『番組を一時中断し、先程起きました玉突き事故の情報を中継していきたいと……』

「玉突き事故か、人事ながら大変だなぁ……」

 などとつぶやきながら、一時中断した番組のセリフの続きが気になってしかたがない。
 ヴィゴニアーゼに副作用がある。
 とりあえず落ち着いて考えると、父親は元気だから命に関わる事でない。頭も中から外から健康。脳障害も毛根へのダメージも皆無。とすると……。

「アキ、お昼出来たよー。今日サリーさん留守なんでしょー、ウチにおいでよ!」

 玄関から聞こえた春美ののう天気な声に、面倒な考えを止めると、腹ごしらえのため、春美宅へ向かう事にした。



「いらっしゃーい、蒼真」

 席に座るリアを見ると、俺は先程の疑問を思い浮かべずにはいられなかった。 ヴィゴニアーゼの副作用、もしかしたらリアは知っているかも。

 リアの隣に座り、聞くべきか悩んでいると、

「な、なにかなぁー? 無言で見つめられると、さすがに恥ずかしいんだけどなぁ」

 質問の事ばかり頭にあり、ついついリアを見つめてしまったようだ。
 向かいに座る春美がにやにやしている事から、相当な熱視線だったのだろう。

「リア、あの、」

「ん? なに?」

 リアは食卓に並ぶ料理をつまみながら、適当に聞き流している。

「ちゃんと聞け」

「え? うん……」

 俺の真剣な表情に、リアはフォークを置くと、体をこちらに向けた。
 春美からの視点で言えばお見合い状態?

「ヴィゴニアーゼってあれ、副作用あるんだろ? それってなに?」

「あぁー……。言わなきゃダメ?」

「ダメ」

「怒らないでよ?」

 リアの言葉にうなずくが、内心ビクビク。一体どんな恐ろしい副作用が……。

「あのぅ……、惚れ薬みたいな……。吸われた人は、相手に心酔しちゃうの」

 予想していた悲劇的結果ではないが、なんとも言えない。
 俺が心酔しているところでも想像したのか、春美は笑いを堪えるのに必死らしく、プルプル震えている。

「俺はお前に惚れるのか? 絶対なのか? 確実にか?」

「1000%惚れる。心酔しちゃう。奴隷みたいに」

 100%の10倍か。神様でもない限りどうしようもないな。
 一番気になるのは、最後の奴隷みたいにってところだけど。

「……と言いたいけど、ブリードの蒼真の場合は5、60%かな?」

「そうなのか? 脅かすなよ!」

「私に惚れるの、嫌?」

 リアの向ける瞳は小動物が見せる、反対意見を受け付けない反則的な輝くをしている。
 考えてもみれば、リアは吸血衝動をイマイチ抑制出来ない事に目をつぶれば、ルックスからなにから全てにおいて五つ星。ヴィゴニアーゼなどなくても……。

「嫌とじゃなくて……」

「無理しちゃって。実はもう効いてる?」

「っ!?」

 リアの見せる笑顔に、一瞬呼吸が止まった。
 何度も見た笑顔のはずなのに。今まで感じなかったはずなのに。胸を突くこの感覚。

「いや、これはヴィゴニアーゼのせいだから。惚れたとかじゃないからな?」

「なに言ってんの?」

 ヴィゴニアーゼのせいだとしたら、奴隷決定? 冗談じゃない。


《続く》


 ヴィゴニストやらヴィゴニアーゼやら専門用語チックなものが出てきましたが、要するに外人みたいな感じです。あまり深く考えちゃダメですよ。











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