Ruby eyes ―進む道はあるから―(2/7)PDFで表示縦書き表示RDF


Ruby eyes ―進む道はあるから―
作:高田高



2.hunger ―吸血―



 昼休み。リアの席の周りは人だかりが出来ている。その影響で、俺の居場所がない。
 とりあえず静寂を求めて教室を出ると、二階の端にある美術室に向かった。
 美術室は俺の憩いの場。昼休みに人が訪れない事も理由の一つだが、なにより、

「今日も来たのか。君は友人はいないのか?」

 言葉に温度さのない、ぶっきらぼうな物言いをしながら美術準備室から出て来たのは、白衣にボサボサ頭の美術教師、伏見りょう《ふしみ りょう》。
 名前や言動から男かと思われそうだが、れっきとした女性。
 りょうは煙草を口にくわえ、こちらに近付くと、紙コップを手渡してきた。
 ここに来るもう一つの理由は、お茶が飲める事。

「友人はいますよ。ただ、賑やかなのは苦手なんで、学校だけの付き合いですけどね」

「ドライなヤツだな、君は。そんな事だと……いや、説教は趣味じゃないから、いいか」

 りょうは、水を汲んだビーカーに煙草の吸いがらを浮かべると、背伸びし、俺に、にやけ顔を向けた。

「今日、ルビーアイズが来ただろ? 可愛い娘か?」

「……」

 しばしリアの事を思い浮かべる。髪はきめ細かく、綺麗。肌は透き通るほどに白く、誰もが触れるのをためらうほどだろう。
 外見だけで言えば、人間のアイドルなど目じゃない。

「なんだ? そうでもないレベルか?」

「見た目はかなりレベル高いですよ。って言ってもルビーアイズはみんな銀髪で肌は白いですけど」

「まあ、確かにな」

 りょうは上着の内ポケットから煙草のケースを取り出すと、一本だけつまみ上げ、火を付けた。
 生徒の前でこうも堂々と煙草を吸われると、注意するのもバカらしく感じる。

「君は女に興味ないのか? 同じクラスの島崎だったか? あれとも仲が良いだけで、特別な関係じゃないんだろ? それ以外の女子とも特に付き合ってるわけでもなし。
 ……ホモなのか?」

「違いますよ! 全力で違います!
 騒がしいのは、母親だけで足りてるんですよ」

「……マザコンか」

「違いますよ!」



 りょうのいらん気遣いを受けながら昼を食べ終えると、教室へと戻った。
 リアを取り囲んでいた連中はようやくいなくなっており、俺は自分の席に座る事が出来た。
 と同時にリアが俺の襟首を掴んだ。

「離せ! 苦しいだろ!」

 振り向くと、リアは少し表情を暗くしている。

「どうかしたのか?」

「お弁当、忘れた」

 異種族だろうと、体内構造が同じである以上お腹は空く。当然食物を接触するため、お弁当は人間同様必需品。教科書忘れても弁当忘れるな、と言う格言があるくらいだから、学生生活において弁当のしめる割合はかなりのものだ。

「空腹で頑張れ」

「鬼!」

「俺、弁当食っちまったし、金も無いから売店で買う事も出来ないし。
 そもそも弁当分けるつもりも、金を貸すつもりもないけど」

「悪魔!」

 リアの睨み付ける視線を無視して、次の授業の準備をはじめようと机の中を覗いた瞬間、襟から少し出ている首筋に、冷たい感触が伝わり、首筋を押さえて立ち上がった。
 リアがしようとした事に対し、俺があまりに過剰に反応したため、リアは驚いているのか微動だにしない。

「お腹、空いたからつい。あの、ごめん」

 子供が見せるような悲しげな表情に、ため息をつくと、リアの手を掴み教室を出た。

「一回だけだからな!」

「あ、ありがと」

 空腹のせいか、リアは先程のハイテンションが嘘のようにしおらしい。
 出会って間もないルビーアイズに、なぜここまでしてやるのか、俺自身理解出来ない。
 わけのわからない苛立ちを感じながら、再び美術室に向かうと、りょうがいない事を確認し、俺は上着を脱いだ。

「それじゃ、頂きまーす」

 リアはご馳走を前にしたように舌なめずりすると、俺の首筋に噛み付いた。
 先程教室で首筋に触れた冷たい感触は、リアの牙。 ルビーアイズは食物接触以外にも、体液、つまり血液からも栄養を吸収出来る。それがルビーアイズが苦手なもう一つの理由。

 首筋に触れるリアの柔らかい唇の感触と、僅かに肌を刺す牙の冷たい感触が体中に伝わり、少しばかり意識が遮断される。
 ゆっくり、優しく血液を吸い上げられる感覚は、痛感や快感などでは言い表し難い。

 数分ほどの吸血を終え、ようやくリアは首筋から牙を離すと、唇や手についた血液を丹念に舌で舐め取った。

「あのさぁ……その舐めるのどうにかならないのか?」

「どうにか?」

 手にこぼれたり、首筋から流れ出た血液も丹念に舐め取るのが、ルビーアイズの習性のようだが、俺は正直恥ずかしくて直視出来ない。両親の吸血行為はノロケのようで腹が立つが。

「うーん、無意識だからどうにも。なんで? 変?」

「なんか、こう……」

 とその時、五時限目開始のチャイムが美術室内に響き渡り、二人は教室へ走った。

「ねぇ、蒼真!」

「なんだよ! ……あぁ、お前吸い過ぎだろ、頭クラクラする……」

「あのさ、明日も吸わせてよ」

「一回だけだって!」

「ケチ」

「ケチで結構」

 毎日のように吸われたらこちらの血液補給が間に合わず、いつかすっからかんにされてしまう。冗談じゃない。
 けど、リアの笑顔を見ていると、なぜかそれも悪くない、などと思ってしまう。会って間もないのにそんな事を思うなんて、今日の俺はどうかしている。


     ◆


 本日の授業が全て終了し、帰宅部に所属する俺は帰宅部員らしく、さっさと家に帰ろうと席を立った瞬間、リアに手首を掴まれた。
 嫌な予感がしながらも、リアに目を向けると、

「お腹空いた」

「他のヤツに頼め!」

「ブリードの血は一番おいしいの! それにみんな初対面で頼みずらいの!」

「俺も初対面だけどな!  いいから離せ! 俺の血が無くなる!」

 二人のやり取りに辺りからくすくす笑う声が聞こえ、俺はそれに耐えられず、リアの手を払い教室から出た。
 すると、リアも後を追い掛け教室を出て来た。

「付いて来るなよ」

「私も帰るだけですぅ!」

 二人はまるで軍隊の集団移動のように、一指乱れぬ動きで階段を下り、下駄箱で靴に履き替えていると、そこへ春美が現れた。
 どうやら一部始終を見ていたらしく、薄ら笑いを浮かべている。

「もぅなにぃ〜? いつの間にそんな面白い仲になったわけぇ? 思わず吹き出しそうになったじゃない」

「吹き出した後だろ」

「えーと、同じクラスの人ですよね。ごめんなさい、まだ名前覚えてなくて」

 リアの申し訳なさそうな表情に、春美は笑顔で両手を振った。

「いいよ、いいよ。
 改めて自己紹介するね。私は、島崎春美。こっちは、」

「俺はいいだろ?」

「ごめんなさい、どちら様でしたっけ?」

 リアと春美の連携に、いい加減ツッコむのも面倒になった俺は、さっさと歩き出した。

「いいよ、もう。いっそ覚えないでくれ! もう俺帰るから! じゃあな!」

 立ち去る俺を見送ると、残ったリアと春美はくすくす笑い合った。

「スネてやんの! カワイイー」

「あんまりイジメると、蒼真が可哀相だよ」

 二人は笑いながら、遠くに見える背中を追い掛け走り出した。


《続く》


 高校って土曜日は昼まででしたっけ? なにぶん学生だったのは昔の話なもので。まあ、高品高校は5時限目まであるって事で。  ちなみに作者はバリバリ男なんで、当然言動から行動から男視点です。つまり、幻想入ってます。    ここでこんな事言う女いない、とかあると思いますが、そこは大目に見て下さい。











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