1.girl ―出会い―
あちらこちらで都市開発が進行する町、高品町。
ほんの数年前までは田園風景がパノラマで広がる、これでもか、と言うくらいの田舎町だったのだが、今では農家を生業にする者も少なくなり、果樹園や水田は無機質なコンクリートへと姿を変えていた。
そんな町に住む俺こと、蒼真明人は、高品の片田舎にある、オンボロ高校に通う平凡な学生だ。
照り付ける朝の陽射しに、俺は左手を差し出し、それを防ぐ。
「太陽が眩しい。眩し過ぎる。徹夜した後の太陽は憎らしいだけだな」
容姿、学力、運動、性格。どれを取っても並レベル。しかし、そんな俺がなぜか、女子には多少なり人気がある。その理由と言うのが、
「やほー! 今日もキレイな銀髪だねぇ!」
「惚れた?」
「ばぁーか」
短く切り揃えた銀髪。これが女子に多少なり人気がある理由。
ちなみに、俺の後頭部を打楽器でも叩くようにして、いつもの挨拶をしてきたのは、中学からの腐れ縁、島崎春美。
栗色のショートヘアー、小柄な体格。これと言って特徴は無いが、俺の隠すほどでもない秘密を知る一人だ。
秘密と言うのは――いや、秘密なんだから教えるわけがない。
「何ぶつぶつ言ってんの? 念仏? お経? 白昼夢?」
「なんでもない。お前はホント、うるさいな。子犬だな」
「子犬? 何犬?
ダックスは胴長短足だからヤだし、チワワは目が大きすぎかな? パピヨンはフサフサで可愛いよね」
「あぁー! うるさい! お前はあれだ! パグ!」
「うわっ! こんなベリキュートなレディーに対してヒドくない!?」
ベタな漫才をしながら登校するのが、俺と春美の毎日の日課。
春美のボケを無視すると、それはそれで、ツッコミが甘い! だの、やる気あるんですか? だの、ダメ出しを受けて結局うるさい。そのため、いやいやながら毎日こうして相手している。
◆
俺達は、校舎二階廊下を進み自分達のクラスへ向かっていた。
2−Bが俺と春美のクラス。
「今日さ、転校……転入? とにかく、ウチのクラスに来るみたいよ?」
「転校な。知ってるよ。
にしても、なんだって土曜に来るんだ? 来週でいいだろうに」
ちなみに、春美とは中一でクラスが一緒になってから、高校どころかクラスも一緒。運命の糸と言うより、妙なエネルギーに繋がれているようで、時折本気で不安になる。
教室に入り、俺は窓際の前から五番目の席に腰を下ろした。
どうでもいい話だが、一列六席なので、ほぼ最後尾。ただ、真後は空席。恐らく転校生の席だろう。更にどうでもいい話だが、春美は四列目のニ番目。
しばらくしてホームルーム開始のチャイムが教室に響いた。
ホームルームとは、戦争時代、軍が行ったものらしいと聞いた事がある。まったく、日本人は面倒なものばかり残したがる。
教室の戸が開くと、担任教師と、その後に女子生徒が入って来た。
両側で束ねた長い銀髪、透き通るように白い肌、そして、
「今日は転校生を紹介する。リア、自己紹介して」
女子生徒はぺこりと頭を下げると、にこやかに微笑んだ。
「シヴァーディア・リアリーデです。気軽にリアと呼んで下さい」
微笑み掛けるリアの瞳は、真っ赤。充血によるものではなく、黒目が血のように真紅。
ただ、珍しいわけではない。そんなヤツは世界中に何億といる。
「リアは見てわかる通り、ルビーアイズだが、まあ、今では珍しくないし、仲良くしてやってくれ。
リア、席は蒼真の後、って蒼真はあいつな。あいつの後だ」
「はい」
リアは長い髪を揺らし、俺の後の席につくと、背中をつんつん、と突いてきた。
「なに?」
少し驚いた表情の俺に、リアは微笑んでいる。ただ、口もとは先程と違い好印象なものではなく、悪寒を感じるほど不気味ににやけている。
「そんなに警戒しないでよ。あなた、ブリードでしょ?」
「……お仲間の匂いには敏感、ってわけか」
「私はピュアヴァーンだけどね」
俺の秘密。それはブリードである事。
ブリードとは、人間と異種族との混血種の事。
ピュアヴァーンは、混じり気のない、純粋種。
数十年前、ある研究所で起きた事故により、超異常力場が発生。それが原因で、いわゆる別次元とこちらの世界が融合してしまった。
別次元にも当然ながら生物が存在し、それが異種族、ルビーアイズ。最初の頃は互いに警戒していたが、ルビーアイズ側の和平交渉により、今では平和的な付き合いをしており、あちこちで見掛ける。
とは言え、こんな片田舎ではルビーアイズの存在は珍しいもの。当然ブリードも珍しい。
騒がしいのが苦手な俺は、それをネタに騒がれるのを嫌い、髪を染めていると言う事にしている。
ちなみに俺は、ルビーアイズが苦手だ。
「よろしくね、蒼真」
「よろしく、シヴァさん」
「なんでシヴァさんなのよ? 普通リアさんでしょ。第一、シヴァさんて男みたいでヤなんだけど」
「もう授業はじまるぞ、シヴァさん」
「……ムカツクなぁ」
むくれるリアを無視して、俺は姿勢を正面に戻し、授業の準備をはじめたわけだが、何かが頭に当たる。 頭にいくつも乗っかっている、恐らく消しゴムのカスだろうそれを払うと、再びリアの方に体を捻った。
「何してんの?」
「あのさぁ、ペン、貸して? 朝慌ててたから、忘れてきたみたい」
「……」
「ちょっ!? 無視しないでよ!」
「ほれ」
俺は渋々ながら、安物のレザー仕様の筆入れからペンを取り出し、リアに渡した。それを手渡されたリアの表情は、あまりうれしそうではない。
「赤ペン? 普通シャーペンでしょ?」
「赤が嫌か? 黄色もあるぞ?」
リアはため息をつくと、体を伸ばして俺の筆入れを取り上げ、シャーペンを奪い取った。
「えぇー!? くれるの? 蒼真はやさし〜なぁ〜」
「……勝手にしろ」
ルビーアイズの苦手なところ、その一。基本的に誰もが異様にテンションが高い事。かくゆう、ルビーアイズの俺の母親も底抜けに明るい。
落ち込むのは、買い置きしてあったプリンを食べられた時くらいのものだ。
俺は再び黒板に向かうと、またまたリアは背中を突いてきた。
それに対し、深くため息をつくと、またまた体を捻った。
「今度はなんだよ? 消しゴムか?」
俺の少し怒りのこもった言葉に、リアは首を横に振ると、にかっと、歯を見せて笑顔を浮かべた。
「ありがと!」
まるで悪戯っ子の見せる笑顔に、俺もつられて笑顔になっていた。
「歯、青のり付いてるぞ」
「嘘っ!?」
「嘘だよ」
「……ムカツクなぁ」
ルビーアイズは、どうしてこうも騒がしいのか。
俺は苦手だ。
《続く》 |