いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?
わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前は謎の救世主でございます。
ごゆっくりどうぞ。
私は病弱な女。
小さい頃から喘息持ちで、両親にはかなりの心配を掛けてきた。
成長するに連れて、喘息は少しずつ治まっていったが、次々といろいろな病気を起こし、あまり外で遊んだ記憶はない。だから極端な運動オンチである。
しかし人生、生きていればいいこともある。
あまりに紫外線を浴びていない白い肌は、それなりの得意体質みたいに扱われ、化粧品メーカーからの誘いで、モデルなんかになることができたりした。
綺麗な服を着て、沢山の人に見られ、いっぱい写真を撮られたりして、悪い仕事ではなかった。
そうして私にも、彼ができた。
仕事で知り合った人で優しい人。私にはもったいないと思っていたが、彼曰く私の白い肌を見ていると守りたくなると言って、しばらく付き合うと、プロポーズされた。
その頃の私は、あまりに忙しいスケジュールのおかげで体はボロボロ。
それでなくてもひ弱なのに、限界に来ているのがわかっていても、ありがたい仕事なのにと、断れなくて続けていたので、その言葉に思わずより掛かってしまった。
それからほどなくして二人は式を挙げ、結婚した。
しばらくは幸せな新婚生活が続いたが、仕事辞めて家事に専念するようになってからは、今までの緊張が切れたからか、私は床に着くことが多くなった。
やがて夫は仕事の忙しさから、帰りが遅くなることが増え、私は一人になることが多くなった。
そして今日も一人。でもいつもよりも気分がいい。この頃の私ときたら、かなりの疲労感が一日中続いていて、たまに胸が締め付けられるように辛い時もあった。病院へは行ってみたが、診断結果はまだ怖くて聞いていなかった。
私は体を起こしてベッドに腰掛け、暗い部屋に漂う重い空気を少し手でどけてため息をもらした。
こんなに暗くちゃ気分が落ち込む一方だ。
私は立ち上がり明かりをつけようとした。しかし、ナゼか不思議なことに、天井から、青白くまあるい円柱状の光が現れたのだった。
私は何だろうと、それをじっと見ていると、その光はやがて円錐状へと変化していった。そしてその円錐の下の丸の部分は人程の直径になると止まり、その中に黒いものが浮かび上がってきたのだった。
それは人の形、に近い形へと段々姿を変えて、次第に大きくなっていった。そしてそれは、まるで、まるで落花生に手と足が生えたような物なのだとわかってきた。そのうえ、それは円錐の光の中でまるでスポットライトを浴びるかのように立ち、私に頭を下げた。
普通こんな状況に遭遇したら悲鳴をあげるのだろうが、私はその訳がわからない物があまりに愉快なカッコをしているので、クスクスと笑い出してしまった。
これは誰の何の冗談なのかと思ったが、それよりもなかなかよくできたジョークだった。
だが、何か様子が違っていた。
その訳のわからないものは、下げた頭をゆっくり上げると、こんばんわとしゃべった。
なんてよくできた、人形?いや、突然現れたのだから映像?でもリアル過ぎる。なんだろう。
私は興味深くそれをまじまじと見た。
得体の知れないそれの目は瞳がなく、ツリあがっていてその中が七色に光り、まるでネオンのように走り輝いている。
私はどんな仕掛けがあるのかと、不思議そうに光の出どころを見ていると、その訳のわからない物は、続けて話し、あなたはどうして、いきなり出てきた私に驚かないのかと聞いてきた。
機械のようなその表情がない喋り方に、私はまた首を傾げ、いえ、十分驚いてるけど、あなたこそ何者?と聞き返すと、私のその冷静な態度に何か調子を崩したらしく、口調が慌てているようにそれは続けた。
わ、わ、私は宇宙人です。
そのおかしな物は、そんな事を言うので、えっ?そんなオチのジョークなの?
なんか期待はずれだとガッカリしてため息をつくように、はぁと気のない返事を返した。
宇宙人君は私の態度に完全に調子を狂わされようだったが、まさにとりあえずといった感じで続けて喋りつないできた。
その内容がまた随分なもので、
我々はこの星を奪いにわざわざ遠いピーナツ星からやってきたのだ。まずは手始めにやって来て一番最初に目に入った、この建物の一番上に住んでいる人間を襲ってみることにした。それがこの私だったと告げた。
私は、何を宇宙人君が言っているのかがわかるが、あまりに唐突なセンスのないジョークを続けるので、とりあえず誰の仕業か突き止めることにした。そして、宇宙人君に向かって怒り始めた。
凄い罵声をいきなり大声で言い出したので、宇宙人君は怯んだ。しかし何とか気を持ち直して、私の迫力に負けないようにと、偽物よばわりする私に、失礼なっと、いきなり銃のようなものをどこからか出してくると、私に向かって構えて、これが本物の証拠だっ、食らえっと打ち放ってきた。
さずがの私も、その行為に反射的に体をこわばらせて、きゃぁと声を出して体を丸くした。
宇宙人君は続けて何発もの銃声を響かせた。
私は頭を恐る恐る上げ宇宙人君の顔を見た。するとそれは、どうだと自信と満足の顔をしてこちらを見ていた。
しかし私は、私はなぜか痛みがないことに気が付いた。体をゆっくり起こしてあちこち手で確かめてみたが、これといって変化はなかった。
私は、少し笑いながら、
もうっ、ひどい冗談よ。誰の仕業なのか言ってみなさいよ。もう、呆れて怒る気力もないから。さぁ。と言うと、宇宙人君は、あのツリ上がった不気味な目をもっとツリ上げて、なぜ倒れないんだっと、後退りし、しまいに化物だっ、この星の人間とやらは化物だと、震え初めたのだった。
その言葉にさすがの私もカチンときた。
こんなか弱い女をつかまえて化物とはなんだっ!今度こそ正体暴いてやると立ち上がった瞬間、宇宙人君は小さい悲鳴をあげて、光ごと消えたのだった。
私は部屋に一人取り残されて、キョトンとしていた。
なんなのだ。すると、今度は自分の上に光が降りてきた。
私はさっきのイタズラの続きかと思い、いい加減になさいと、上を向いて叫ぶと、私は体が軽くなるのを覚えた。
えっ、私透けてきた。そう、私の体は透けはじめ、キラキラと綺麗な光になり始めた。
私はその時、なぜかベッドにもう一人の私が寝ているのに気付いた。
私は理解したくなかったが、理解してしまった。
今日起きて気分が急によくなった訳。
宇宙人君に銃を撃たれても何ともなかった訳。
そう私は幽霊だったのだ。
私の姿はもう微かにしか残ってなかったが、私は思った。
もし、宇宙人君の言っていたことが本当なら私ったら。うふふ。
その笑い声は霧が晴れたのように消えていった。
やがて、旦那の彼が家に帰ってきて驚いた。なにしろ、家の中はめちゃめちゃで、奥さんである彼女は亡くなっていたのだから。
彼は彼女を抱きあげて、涙に伏せった。
なんて悲惨な亡くなり方だ。誰がこんなひどいことを。
せっかく、忙しい今の仕事の引き継ぎが終わって、二人がもっと一緒にいられるように、転職をしてやり直そうと思っていたところだったのに。なぜっ。
彼は彼女に謝った。
ごめんよ。守ってやれなくて。君が癌を患っていたのは知っていて隠していたんだ。
ある日、病院から電話で呼ばれ、もう手遅れだって言われた。
ごめんよ。言い出せなかったんだ。
でもこんな無茶苦茶なこと、一体誰が。
酷すぎる。せめて最後は二人でいてやりたかった。
彼は無念さでまた泣き崩れた。
確かに彼は、最後に彼女を守れなかったかもしれない。しかし彼女は彼を、いや世界を守った。
それが出来ただけでも彼女は幸せだったはず。
でも誰にも彼女のした、最後にして最高の活躍を知るものはなかったのであった。
おしまい。
いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。 |