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気の会う二人
作者:海松房千尋
ケータイ文です。


 ……突然誰かが隣りに座って、僕は現実に引き戻された。

 もちろん誰かはわかってる。
 だって、待ち合わせだからね?
 この時間の新宿はまだ人も少なく(平日なら鬱陶しい程だが)て、気怠い日曜の朝の気配がしっとりと漂っている。

「ね? 水族館いきたいんだけど?」

 ……挨拶したっけ?

「良いけど?」

 水族館も悪くないな。
 来週あたり八景島か湘南でも――。

「決まり! 池袋と品川どっちにする?」

「え? 今から?」

 慌てて横を見れば、手にした雑誌を、瞳を輝かせて舐めるように見ている彼女の横顔。

 ……上の空?

「もちろん」

 振り向きもせず答える彼女。
 猫科の集中力ってやつだな。
 ……5分しか持たないけど。

「じゃあ……」

 品川かな――あ、いや、待て待て。
 とりあえず彼女が見ているページの地名を上げる事にする。

「「品川!/池袋?(同時に)」」

 笑った。
 初めから品川にすれば良かった。

「……全然合わないじゃん」

「ね?」

「でも合わせてくれるんでしょ?」

 片目だけを半眼にして、ちょっぴり流し目気味に聞いてくる。

 否やはなかろう?

「……品川で良いです」

「よし、行こう!」

 丸めた雑誌を、僕の、バッグに捻り込み、立ち上がって歩きだそうとするのを、右手を掴んで引き戻す。

「ちょっと! でもさ、今からって、お昼はどうする? エキナカ(品川)?」

 ストンっと、擬音を発したくなるくらいの勢いと潔さで元の位置に座る。

「ん―ー……」

 彼女の脳内の血流が活性化され大量の酸素と糖が消費されるのが見える様だ。
 明らかに熱量が増えている。

 恐らく無数の候補がリスト化され、その店のメニューや平均価格帯、味にカロリー、話題性、更にはここ数日間の運動量とカロリー摂取量までが、凄まじい勢いで彼女の脳裏を旋回しているのだろう。

 僕の精神安定上、非常に都合の悪い展開だ。

 彼女の負担を軽くするため、選択肢を局限してみる。

「食べてから行く?」

 リセット。

「うん」

「じゃあ何処が良いかな。とりあえず東口行こうか?」

 せっかくだし何か新しい水草か、あ、シクリット入ってないかな――。

「やだ」

 ……なんで?

「東口行くと絶対地下のアクアナントカ行くもん」

 鋭い! しかしナントカではなくフォレストというのだよ!

「……でも、アルタの裏に美味しい――」

「「あ、あそこのイタリアン美味しいよね!/……トンカツ屋が……(同時に)」」

 …………おそらくこの沈黙を人は絶望と呼ぶのだろう。

「お寿司とか無かった?」

「あったね。お寿司食べようか」

 ……まあ、良いよね?

「水族館の前にお寿司か――」

 ……うん。気持ちは良くわかるけど、口にすべきじゃない事もあるよ?

「まぁ良いか? 奢りでしょ?」

 もちろん。

「……水族館は出さないぞ?」

「OK!」

 なら夕食はまた僕だな、何にしようか?

「そしたら夕食は? アウトバックか――」

「「レッドロブスター(同時に)!」」

 顔を見合わせて笑う。

「レッドロブスターだね?」

「うん!」

 少しの間笑顔で見つめ合い、僕は手を握って立ち上がった。

「行こう!」

 先ずはアクアナントカにね?



おしまい
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