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初心者でも世界を創れますか?  作者: 陽菜
第二章  ローシェンナ 編
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エクルの村と碧海の森 その2

 

 ターナからお説教をもらっていると、二日酔いで少々辛そうなアランと、何事もなかったかのように下りてくるゴードンに見つかる。

 私は早起きして散策(村の外も含めてだけど・・・)してただけで、危ない事もしてないし、時間も破ってないのにどうして叱られるんだろう?

 理不尽な思いを抱きつつも、心配からくるお節介発動なので黙って謝る。口答えしたら、さらに長引きそうだしね・・・。


「今度から一人であまりウロウロしちゃダメだよ?」

「はい、ターナさん(アンバーやスピネルと一緒に行くから、ひとりじゃないよね?)」

「うー・・・、どうしたんだ、ジーナ。朝からターナにお説教くらうだなんて、イタズラか?」


 頭を振りつつ、それでもアランが声をかけてくる。すこしにやりとした表情が、アランらしい。問い詰めるつもりはなかったのか、そのまま手近な椅子にどかりと座る。


「おはよう、アラン。おはよう、ゴードン」

「・・・おはよう・・・。俺、今日はスープだけでいい・・・」

「おはよう、ジーナ。おや、今度はアランがターナに叱られるよ?」


 具合の悪そうなアランに、ゴードンが苦笑いを浮かべて冗談を言う。ターナを見て冗談では済まなさそうな睨みを効かされたアランは、小さくため息をついた。


「おはようございま~す♪」


 そこへ目覚めたのか身繕いをしたヴィオラが下りてきた。

 まだ鏡を見ていないらしく、顔は傷だらけだ。気づいていないけれども傷は痛むのか、頬に手を当てて摩りながらあくびを噛み殺している。それを見てアランが思いっきり笑った。


「ぷっ・・・・くくく、・・・あーっははははっ!!」

「な、なんでいきなり笑うのよ?!」

「お、お前、くくく・・・か、顔ちゃんと洗って来い、ぷっ!」


 アランの言葉にむくれながら中庭にヴィオラが向かう。しばらくして顔を洗ったのか、ヴィオラの叫び声が聞こえた。洗顔時の水が傷に染みたのかもしれない。その後すぐに「なにこれ~~??!!!」という絶叫が聞こえる。

 まぁ、そうだろうね・・・。膝の上のアンバーは知らん顔で自分の顔を洗っていた。

 戻ってきたヴィオラはフードをすっぽり頭から被り、布で目から下を隠していた。

 涙目で席に着くヴィオラに、私がこっそりゴードンに使った軟膏を渡すと、キラキラした目で受け取って、再び中庭にすっ飛んでいく。

 ゴードンが目で「うちのメンバーが迷惑をかける、申し訳ない」といったふうに謝っていた。大雑把なアランと天然なヴィオラに挟まれて、ゴードンは苦労してるのね。

 私はなんでもないというように笑ってみせると、ゴードンも弱々しく笑う。でも、二人を扱えるゴードンもなかなかだと思うよ?



 顔の傷はすっかり消え、満面の笑みでヴィオラが戻ってくると、ターナが目の前にボリュームたっぷりのポトフ、目玉焼きとボイルしたソーセージが3本、小さなフランスパンぽいパンの籠もり(山盛り)を四人分、どんと置いていく。残したらタダでは済まなさそうな視線をアランに向けて、去っていった。

 ベイクさんのご飯は美味しいと思う。でも、量が半端ない。

 そう言えばここの宿代っていくらなんだろう? お金ができたら何気に立て替えてくれていたアランたちに返さないと。現在の私はエンデワースのお金持ってないからね・・・。


 アラン達は飲み物が入ったマグカップを口にしながら、食事をはじめる。飲んでいるものはコーヒーとも紅茶ともつかない香りをしていた。なんだろう? やっぱりお茶なのかな? 

 今朝私の前にあるのは温かくないミルク。でもすごく冷たいわけでもない。冷蔵庫なんておそらくないと思うので、仕方がない。一口飲んでその生温かさに眉をひそめた後、生活魔法で冷たくする。それを見ていたヴィオラが目を見開いた。


「ジーナちゃん、生活魔法使えるのね。しかもそんな風に使うなんて」

「うん、ヴィオラも使えるでしょ?」

「使えるけど、火をつけたり洗浄(クリーニング)で身体を綺麗にするくらいよ? そっか、そんな感じで使えば飲み物や料理に応用できるのね」


 半ば感心したように、ヴィオラが自分の分のカップを見つめる。

 そんな変なことした? ミルクを冷やしただけなんだけど。

 冷たいミルクで喉を潤しながら、パンに手を伸ばす。私が知ってるフランスパンよりも黒くてしっかりしてる、硬いのかな?

 手にとったパンをしばし見つめた後、あんぐりと口を開けてかぶりついた。


「あ、ジーナちゃんそのままじゃ・・・?!」


 ガチッ!!!


 想像を超えるパンの硬さに、思いっきり涙目になる。ヴィオラやゴードンが同情するように見つめた。

 アランはそれに気づかず、あーとかうーとか唸りながらポトフを口にしている。

 パンを咥えたまま涙目の私に、ヴィオラは自分もパンを手に取った。


「パンは硬いから、こうしてスープや飲み物に浸して食べるのよ。ジーナちゃんみたいに食べたら、子どもなら噛み切ることも飲み込むことも出来ないわ」

「ほんはにははいらんへ(こんなに硬いなんて)・・・」


 口の中からパンを取り出した私は、しげしげとそれを見つめる。

 手でちぎって(サイクロプス並の力がなせる技)中を見てみると、中身がぎゅっと詰まっている。私が知っているパンは、イースト菌や酵母菌のチカラで発酵し膨らんで、フワフワの食感だった。フランスパンも多少硬いは硬かったが、歯が立たないほどではない。これは小麦粉を捏ねて焼いた、パンというより大きな塊の堅焼き煎餅(味なしバージョン)みたいなものだ。どうしてここまで硬いものにしちゃうんだろう?


「これが普通の食べ方なの?」

「ええ、ジーナちゃんのところは違うの? まぁ元々保存が効くように作られているから、こんなに固くなっちゃうのかもしれないわね。おかげで冒険時の携帯食にもなってるわ」


 ふむ・・・。現代社会で柔らかいパンに慣れ、神域でも自分で焼いたりしていたので、ローシェンナのパンがずっとこれでは気が滅入る。これはこれなりに味わいがあるんだけど、毎日だとね・・・。

 ポトフに半分入れ、ミルクに半分浸し、しばらく待ってデロデロになったパンを食べる。

 うーん・・・。イースト菌や酵母菌をここで伝授したら、問題になるよね? って言うか、5歳児の私がどうして知ってるのかっていう話にもなるか・・・。でもなー。


 スピネルやアンバーにもちぎって渡すと、噛み切れない硬さに辟易していたが、そのうちスピネルはガジガジと噛み始め、唾液で柔らかくしつつ食べているようだった。

 アンバーはあまりの硬さに、眉根を寄せた情けない顔で私を見つめる。あぁそうね、アンバーは私が焼いたフワフワのパン大好きだもんね。ごめん、とりあえず今はそれで我慢して。


 卵とソーセージもそれなりに美味しかったが、やはり調味料の種類が限られてるのが痛い。現代では当時の胡椒は金にも値した貴重なスパイスだった気がする。何にでも合うもんね、実際美味しいし。そういう事を言えば、お砂糖とかも貴重なんじゃ? やっぱり栽培と精製技術の問題だよね・・・。一時的に渡してもいいけど、それじゃ何も変わらないし、私が広めて発展させちゃう?


「母さーん、ワイルダのおっちゃんからジャバイモ(じゃがいも)もらってきたよ」


 ぐるぐると考えつつ朝食を食べていると、厨房からひょっこり少年が顔を出した。

 柔らかそうな栗色の髪の、10歳ぐらいの少年。他の客に給仕していたターナが振り向いて「おかえりガイ。いつものように倉庫に入れておきなー」と声をかけると、少年が引っ込む。ターナとベイクの息子らしい。

 暫くして倉庫にしまい終えたのか、少年が手に朝食を持ちながら厨房から出てきて、テーブルについて食べ始める。ポトフやソーセージは美味しそうに食べているが、やはり硬いパンは苦手のようだ、ほとんど手をつけていない。

 私が穴があくほど見つめていたせいか、ガイと呼ばれた少年が私の視線に気づき、カッと頬を染めてスプーンを持ったまま立ち上がっていた。


「な、なんだお前?!」


 ガイがそう発した途端、ターナの拳骨が飛んでくる。ガイは殴られた頭を抱え込んで涙目になった。


「いってー?!!」

「お客様に向かって、お前とは何だい?! その口の利き方を直しなと、何度言ったら分かる?」


 お客と聞いて不審な表情をしながらも、涙目のままガイが私を見つめる。目が合うと再びカッと顔を真っ赤に染めた。

 白人系? 肌の色が白いから、そばかすとか高揚すると分かりやすいな。

 軽く会釈すると、目をパチクリしながら私から無理やり視線を外して食事を続けようとする。しかし私が気になるのか、チラチラ見ていた。

 小さい子が珍しいんだろうか? 常連らしいアラン達と一緒にくっついてる事が、不信の原因?


「よぉガイ、今朝はまた派手に殴られたな」

「アランこそ、昨夜飲みすぎたんだろう? ちゃんと食わねぇと、アランの方が母さんにお目玉喰らうぞ」


 気軽に憎まれ口を交わす二人を見ると、知り合い以上に仲は良いらしい。そうだと立ち上がって、アランが私の所までやってきた。


「ジーナ、こいつはこの宿の一人息子でガイってんだ。歳は確か・・・10歳だったか? ガイ、こいつはジーナハース。【碧海の森】で迷子になってるのを見つけて連れてきたんだ。しばらく一緒に滞在することになるから、二人共仲良くしてくれよな」

「ジーナハース・・・」


 ガイが口の中で私の(仮の)名前を繰り返したので、改めてぺこりと頭を下げて笑ってみる。と、やっぱりガイにビビられた。

 そんなに驚くような顔をしてるんだろうか?

 それを見たヴィオラがクスクスと楽しそうに笑う。


「ガイ君もお年頃なのねー、ジーナちゃんがあんまり可愛いから挙動不審になってるわよ?」

「なっ、バッ、そ、そんなんじゃねぇよ!!!」


 パニックになったガイ少年は、無理やり残っていた朝食を口の中に押し込むと、食器を乱暴にかき集めて厨房の方へ走って行ってしまった。

 確かに、ジーナの外見は可愛いよね、中身は可愛らしい幼児じゃないんだけどね・・・。それにしても、ちょっと残念。子ども目線のエクルの村の感想を聞いてみたかったんだけど。ガイとも話す機会があればいいな。


 しかし、ガイとの再会は思いがけなく速かったのだった。







最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


個人的趣味ですが、ガイくんのような少年は微笑ましいですね。ジーナハース(新菜)の目線が大人なので、お互いの思いが微妙にずれてます・・・。

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