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41:交わらない気持ち



 失敗したのだろう。

 あれからヴィンセントはまたアリシアを避けるようになってしまった。食事も一緒に取ってくれない。

 でもヴィンセントのために残した食事はきちんと食べてくれている。

 昔、食事を残すのはいけないことだとアリシアが教えたからか、もしくは、今のアリシアに対して何か思ってくれているのだろうか。

 後者ならいいなと思いながら、アリシアはまた一緒に食べられない食事を作る。


「何ここすごい暗い」


 しっかりと口に肉を頬張りながらアダムが言った。


「その……ちょっと失敗したみたいで……」

「何、喧嘩したの?」

「喧嘩というか……喧嘩なのでしょうか……」


 どうだろう。アリシアには喧嘩というものをした記憶があまりない。しかし、あれは喧嘩というより、意思疎通の不一致と言える気がする。


 アリシアはヴィンセントに幸せになってほしい。ヴィンセントは幸せになりたくない。


 まったくもって交わらない思いに、どうしたらいいのだろう。

 ヴィンセントの気持ちを知ったとしても、アリシアはやはりヴィンセントには幸せに生きてほしいのだ。

 昔のように、笑ってほしいのだ。


「賢者様に怒られたの?」

「ええ、まあ、そうなのでしょうか……」


 曖昧に言うアリシアに、アダムはご馳走様、と言い、立ち上がる。

 そのまま帰るのかと思ったら、ヴィンセントの部屋に入って行った。


「え、ええええ?」


 しかもノックもなしに入って行った。扉を開ける前に、少し扉をグイグイしていたので、もしかしたら鍵がかかっていたのかもしれない。

 ということは、鍵を壊して入ったのだろうか。

 アリシアが恐る恐るヴィンセントの部屋に寄っていくと、小さな話声が聞こえる。

 そしてアダムが部屋から放り出された。

 ベタリと地面に伏せていたアダムはむくりと上半身を起こし、アリシアを見てにこりと笑った。


「うん、ダメだったわ」

「え、えええええええ?」


 そんな笑顔で言われても!

 アダムに何と言ったらいいのかわからずアリシアはオロオロする。おそらく、自分のためにヴィンセントに部屋から出てくるように言ってくれたのだろう。

 アダムは立ち上がると、再び笑った。


「アリシアちゃんは、賢者様に怒られたんだっけ?」

「え、ええ、まあ」

「俺は、怒られもしなかったよ」


 ただ静かに部屋から追い出されたとアダムが言う。

 アダムがアリシアの頭を撫でた。


「賢者様が感情を出すのは、アリシアちゃんだけだ。だから、大丈夫だよ」


 アリシアは少し泣きそうになりながら、コクリと頷いた。



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