25:あの子の話
「私、弟がいたんです」
アリシアの、小さな弟。
アリシアと同じ髪色に、同じ瞳の色。
誰から見ても姉弟とわかる、自分によく似た、可愛い弟。
「とても仲がよくて」
よく一緒に遊んでいた。とても、自分を慕ってくれていた大切な弟。
「幼い頃は、いつも一緒にいたんです」
姉上、と呼ぶ声を、今もよく覚えている。
「一緒によく遊んで」
小さな頃は、何をするにも一緒だった。
「守ってあげようと」
そう、思っただけだった。
「守りたいと思ったんです」
だけど、結局。
「そのせいで、弟を苦しめることになってしまいました」
とても支離滅裂だ。
こんなことを話しても、何にもならない。
きっと訳のわからないことを話す人間だとあきれられるだろう。
でも、どうしても、今吐き出してしまいたかった。
全部悪夢のせい。全部熱のせい。
知らずこぼれていた涙を、ヴィンセントの指が拭った。
「……よく、わからないが」
そうだろう。誰だってこんなことを言われても困るに決まっている。
アリシアは、ヴィンセントが涙を拭ってくれるのをじっと見ていた。
「君の弟は、笑っていなかったか?」
「……え?」
呆然と拭われる自分の涙を見ていたアリシアは、言われた言葉の意味が理解できなかった。
「そんなに姉に思われているんだ。どんな結果であれ、きっと内心から嫌な思いをする人間はいない。君の弟は、きっと、君の前でよく笑っていたのではないか?」
ヴィンセントの言葉が頭に入ると、アリシアの脳裏には弟が浮かぶ。
浮かぶ表情は笑顔ばかりだ。いや、あの子は、自分の前ではいつも――
「笑って、いました」
あの子は、いつも笑っていた。
くしゃりと顔を歪めて泣き出すアリシアを、ヴィンセントはただただ見守っていた。