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25/61

25:あの子の話



「私、弟がいたんです」


 アリシアの、小さな弟。

 アリシアと同じ髪色に、同じ瞳の色。

 誰から見ても姉弟とわかる、自分によく似た、可愛い弟。


「とても仲がよくて」


 よく一緒に遊んでいた。とても、自分を慕ってくれていた大切な弟。


「幼い頃は、いつも一緒にいたんです」


 姉上、と呼ぶ声を、今もよく覚えている。


「一緒によく遊んで」


 小さな頃は、何をするにも一緒だった。


「守ってあげようと」


 そう、思っただけだった。


「守りたいと思ったんです」


 だけど、結局。


「そのせいで、弟を苦しめることになってしまいました」


 とても支離滅裂だ。

 こんなことを話しても、何にもならない。

 きっと訳のわからないことを話す人間だとあきれられるだろう。

 でも、どうしても、今吐き出してしまいたかった。

 全部悪夢のせい。全部熱のせい。

 知らずこぼれていた涙を、ヴィンセントの指が拭った。


「……よく、わからないが」


 そうだろう。誰だってこんなことを言われても困るに決まっている。

 アリシアは、ヴィンセントが涙を拭ってくれるのをじっと見ていた。


「君の弟は、笑っていなかったか?」

「……え?」


 呆然と拭われる自分の涙を見ていたアリシアは、言われた言葉の意味が理解できなかった。


「そんなに姉に思われているんだ。どんな結果であれ、きっと内心から嫌な思いをする人間はいない。君の弟は、きっと、君の前でよく笑っていたのではないか?」


 ヴィンセントの言葉が頭に入ると、アリシアの脳裏には弟が浮かぶ。

 浮かぶ表情は笑顔ばかりだ。いや、あの子は、自分の前ではいつも――


「笑って、いました」


 あの子は、いつも笑っていた。


 くしゃりと顔を歪めて泣き出すアリシアを、ヴィンセントはただただ見守っていた。



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