21:懐かしいおまじない
「この祭りは、まだ戦争の痛手が消えないときに、民のために考えたものだ」
ヴィンセントはアリシアにこの祭りの歴史を語ってくれている。元々アリシアは歴史学者として来ているのだからそれは正しい。さしずめ、これは野外学習だろうか。
「経済効果も起こり、国の復興に貢献できた」
ヴィンセントの過去の一つを知れるのは嬉しい。アリシアは黙って話を聞いた。
歩いていると、川に出る。小屋があり、そこで葉っぱを配っているようだ。葉っぱを受け取るだけだからだろう。並んだが、すぐに順番がきた。
受け取った葉っぱに願い事を書く。懐かしい。
これは、元々、弟が教えてくれたおまじないだ。
願いを託して川に流すのだと、笑った、あの子の。
「書けたか?」
ヴィンセントの声にはっとして顔を上げる。
「あ、は、はい。書けました」
「では流そう」
川にそっと葉っぱを置く。そうすると、すぐに水流で流されていった。
流れて行った葉っぱをしばし眺める。
「願いが、叶うといいな」
ヴィンセントが言った。
「そうですね」
今度こそ。
二人で一緒に流したのだから、きっと大丈夫。
きっと。きっと。
アリシアはヴィンセントを見て笑った。
「帰りましょうか」
「そうだな」
人の波を避けながら帰ろうとするも、川にせめぎ合う人たちの数がすごい。アリシアは、ヴィンセントから離れないように懸命についていく。
そんなアリシアの様子に気付いたのだろう、ヴィンセントが振り返った。
「ほら」
手を差し伸べられる。
アリシアはヴィンセントの顔を見ながら、恐る恐る手に触れた。
温かく、大きな手だ。
手を握られ、歩き出す。
ヴィンセント。ヴィンセント。
アリシアは心の中で、ヴィンセントを呼んだ。
「また」
勇気を振り絞って声を出す。
「また、来られると、いいですね」
一緒に、という言葉は、続けられなかった。
「そうだな」
ヴィンセントに包み込まれた手が、ぎゅっと握られた気がした。