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魔法と科学と月の詩《更新停止中》 作者:和瀬きの

SPELL 2 【1】

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シュバム大森林へ


 ズユーは他に比べると影の薄い国だ。司法の要である一方、法に関わることの少ない人々にとっては、エーアデに存在する南の国という認識しかない。

 しかし、それは当然のことであった。伝説の時代から、彼らは傍観者として遠くから見ているだけ。戦に関わることはなく、だからこそ中立の立場で法を動かした。

 法を操る真面目な姿を見せる一方、そこに集まる猛者たちは海賊や山賊。
 自由の国として有名で、独自の掟によって成り立つそこは、荒くれ者の聖地である。

 最後の砦と、助けを求める人々は言う。他国で犯罪を犯し、行き着く場所が処刑台しかない者は必ずズユー国に来る。ここでは助けられるのだ。ただし、一度だけ。

 助けを求める者には慈悲をという考えは、ズユー国で信じられている神の教えだ。
 神を信じる猛者というのもまた滑稽ではあるが、それがズユー国である。

 神を信じる宗教という観点から、他国は手を出せない。それは神を冒涜することであり、争いの火種になるとわかっているからだ。

 罪人にとっての逃げ場ではあるが、再び罪を犯せばズユー国から追い出される。罪を犯した国へ引き渡し、二度と戻れない。

 ズユーは自然の監獄とも言われていた。よって鎖国をしている訳ではないが、好んで旅行する者は少ない。

 そんな神と同等に信じられているものがある。それが人魚伝説であった。

 ヴェス国の勇者。ノルデ国の姫巫女。オステ国の魔王。そしてズユー国の人魚。
 それぞれの地で伝説となり、言い伝えられている。

 伝説の大戦で主役となった三人は誰もが知る物語。しかし、人魚の話は今やズユー国にしか残っていない。

 かつてこの地に人魚がいた。
 彼らは伝説の大戦で大きな役目を果たし、姿を消した。
 そのような話を聞かされて成長してきたが、どこの国でも同じくおとぎ話程度にしか伝わっていない。

 シエルはベティスカとの会話を思い出し、自分がおとぎ話の登場人物になってしまったような感覚に陥った。

「こんな朝早くに、どこへ行く気?」

 アルボルの声に、現実に引き戻されたシエルは振り返った。

「どこだと思う?」
「知るかよ」

 ベティスカと大事な話をしてから三日目の早朝。

 海賊の朝は早い。天気の良い今日は、早めに出かけて漁に出る。まだ薄暗く太陽の姿も見えない。
 その時間、まだ仕事を与えられていないシエルはアルボルを連れて出かけていた。

 みんなが出かけていった東側の海とは逆方向に進むと、シエルの知っているズユー国とはまた違う顔を見せる。

 屋敷の裏手にある抜け道を使い、先にある階段を下りていくと、砂地に石がごろごろ転がった荒地に出る。そこを突き進むと、やっと緑豊かな森が見えてくる。

「ここ、不思議なところね」
「なにが?」
「だって、砂は粗いし石もゴツゴツしてる」

 この辺りも大事な場所で、しっかりと整備されている。屋敷のある場所は非常に高い。森に入る前にも階段を上らなければならない。

「ここはため池みたいなもんだよ。雨季になれば、ここは水で溢れる」
「雨季?」
「もうそろそろ、雨季になるよ。こうやって出られるのも今のうち」
「ふーん」
「聞いといてそれかよ!」

 シエルは構わず砂地を歩く。今日は森に入るので、肌を見せないように長袖シャツとショートパンツ。もちろんレギンスを履いている。アルボルも上下は長いものだ。
 二人ともフード付きのポンチョを着ていた。ベージュ色のそれは、ズユー国の旅衣装の定番だ。

「で、どこに行く気? 一週間分の用意させてさ!」

 拗ねるように言うアルボルの背には大きなリュック。同じくらいの量をシエルも持っていた。

「聞いてる?」

 ようやく上り階段が見えてきた。そこを上れば森が目の前。いよいよ旅が始まる雰囲気に、シエルは気持ちが落ち着かない。

「アル、言ってたでしょ? 森の先には滝があるって」

 アルボルは驚いた顔をした。

「まさか」
「行くよ」
「は?」
「最初の目的地はそこ。案内して」
「ああん?」
「ベティさんには許可もらってるから」

 アルボルは立ち止まって口をぱくぱくさせていた。背中の荷物が重くなる感覚に膝を付きそうになる。

「ごめんね、アル」

 笑顔で謝ると、アルボルは諦めたようにため息をついた。

「で? この先の森が危険って知ってんの?」
「まあ」
「シエル、魔法はなにを――」
「ごめん。わたし、後遺症みたいなやつかな。魔法使えない」
「はあ!?」
「守ってくれる?」

 さすがのアルボルも膝をついて項垂れた。シエルは苦笑いをしながら、アルボルの手を引っ張って立たせる。

「出来る限り頑張るからさ。アル、すごい雷魔法の使い手なんでしょ?」
「知るか!」

 手を振り払って歩き出す。しかし、その足は真っ直ぐ森の方へ向いていた。

「素直じゃないんだから。守るとか言ってくれたら恰好いいのに」
「なんか言ったか!?」
「言ってませーん」


――――


 森の中は思ったよりも暗い。

 森の入り口に着く頃にやっと日が昇ってきた。しばらく休む時間もないだろうと、二人は森の前で朝食を摂ってから出発した。

 シュバム大森林。この辺りに住む者は迷いの森と呼んでいた。鬱蒼と生い茂る木々や草花。道を阻むように蔦が蔓延はびこっていた。
 道も繋がっているし、地図も存在している。しかし、この蔦は景色を変えてしまう。それほど成長が早い。それに、シュバム大森林を通る者は少ない。道がなくなって当然だった。

 だがシエルの目的地は森を行かなければ辿り着けない。厄介な場所である。

「とにかく西に進む。あんまり蔦が多い場所は避ける」
「わかった」

 ズユー国に詳しくないシエルは、アルボルの意見に反対することはない。前を行くアルボルの手にはなたがある。

 行く手を阻む蔦を切るためだ。中には絡み合って人の腕ほどの太さの蔦もある。新しいものは細く柔らかいが、時間が経てばなたではどうにもならない。

「アル、魔法は使わないの?」
「馬鹿だろ。この先、なにがあるかわからないんだぞ。蔦なんかに魔法を使えるか!」
「ごめん」

 素直にシエルは謝った。
 確かに森を抜けるまで一日。早くても夜になる。それを考えると、魔力温存するのは当たり前だとシエルは考え直した。

 アルボルはため息混じりに言葉を続ける。

「しかも、魔法使えないとか言う――」
「はあぁぁぁ!!」

 しかし、シエルはアルボルの話を聞いていなかった。

「え」

 シエルの奇声に驚いたアルボルが振り向く。いつの間に装備したのか、なたを両手にシエルが笑う。

「シエル……」

 右手に持ったなたは"それ"をしっかり捉え、幹を伝って滴り落ちる液にアルボルは青ざめた。

「ずいぶん、大きい鳥ね。カラフルで目立っていたわよ」
「それ殺し――」
鎌鼬かまいたち。風魔法ね。アル、危なかったよ?」
「なにが、どうなって……る?」
「大切な案内人が怪我されたら困るじゃない」

 にっこり笑うシエルは、アルボルを狙って鳥が襲ってきていたことを話す。
 途中、翼を使って魔法を繰り出したので、腰に装備していたなたで急降下してきたそれを叩き斬ったというわけだ。

「少しは役に立つ?」
「戦えるんなら、初めから言えよ!」

 シエルはヴェス国グリューン魔法学校で、戦うための魔法を教わってきた。しかしそれは魔法だけではなく、様々な武器の使い方も訓練した。
 なたを使ったことはなかったが、大きさや形状、特性などを判断。シエルは簡単に扱うことが出来ていた。

なた、持ってたんだな」
「ベティさんに借りてきた」

 シエルは丁寧に血を拭き取ってから、なたをしまった。

「この鳥。ズユー国にはいない種類でしょ? 殺人魔獣(キル・ビースト)ね」
「その呼び名を知ってる? じゃあ、シエルはオステ国のことを?」
「……ズユー国に来る前、わたしオステ国にいたの。旅の途中だったわ」

 全ての始まりは殺人魔獣キル・ビーストだ。それを恨んでいるかと言われれば、恨んでいる。
 シエルはそれをベティスカにも話した。

 ヴェス国やノルデ国では見かけなかったものが、あの日に突然現れた。
 ベティスカに聞いた話では、オステ国に殺人魔獣キル・ビーストは溢れていて、どういう経緯かわからないがズユー国にも多くの種類がいる。

 山賊の多くはその討伐に明け暮れているという話だ。海賊は殺人魔獣キル・ビーストの侵入経路の調査のため、外交をしながら他国を調べている。

 特にオステ国のことを調べる方法を模索しているという。
 ズユー国に恨みを持つオステ国の調査は非常に難しい。だが、殺人魔獣キル・ビーストの数は増える一方。早く解決する必要がある。

 ベティスカは難しい顔をしながら、そうシエルに言っていた。

 殺人魔獣キル・ビーストという名を知っているのは、オステ国とズユー国だけだ。
 だからアルボルはシエルが殺人魔獣キル・ビーストを知っていたことに驚いたのだ。

「オステ国でなにがあったわけ?」
「……とても悲しいこと」

 あの日に逃げ出した理由は、今となってはよくわからなかった。強いて言うならば、一人になってしまった気がしたからだ。

 守るためとは言え、一人で戦いの場に残ったアキ。いつの間にか協力していたジュビアたち四人。敵となって現れたロフロール。

 いつの間にか一人になっていて、急に怖くなったのだ。最後まで信用することの出来なかった自分自身の未熟さを思い知った。

「辛い話なんだろ。言わなくていいよ」
「大切な話。アルにも聞いてほしいの」


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