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魔法と科学と月の詩《更新停止中》 作者:和瀬きの

SPELL 1 【3】

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裏切り




 夢の中にいるようだ。頭の中はもやがかかったようにうまく働かない。どこにいるのかさえ迷ったほどだ。

 はっきりしているのは、怪我をしていると言うこと。魔法銃によって攻撃された魔法の傷。しかし、シエルの知っているそれとは少し違う。抉るような痛みはあるが、傷自体は浅い。
 はっきり言って恐ろしい。魔法銃は痛みで動けなくなるような仕組みなのだ。心臓に近ければショック死することもあり得る。

 ロフロールは中には増幅装置が組み込まれていると言っていた。
 つまり、出力を上げるとパワーが凝縮されるために傷口が小さくなる。シエルは自分の左足を眺めながら、そんな結論を出す。

 学校で習った魔法の授業では、力を中心の一点に集めろと言われた。攻撃する対象を一回で倒すことを目指し、集中力を高めろと教えられていたことを思い出す。
 その時にはわからなかったが、魔法銃の精密さが教えてくれた。魔法の範囲が狭まるほど一撃必殺の技となるのだ。生身の人間では難しい。

 最大出力を一発。しかも足首に当てた。それだけでシエルは気絶した。神経を鷲掴みされたかのような痛みと衝撃。
 どの程度、気絶していたかはわからないが未だに足に力が入らない。雷魔法だったのか、痺れのせいで震えている。

「行かなきゃ」

 シエルは無理やり立ち上がって、正面を見る。そこは遊園地内の広場だった場所だ。
 明かりはないのに、薄く光っているのは魔法の影響。ドーム状に凍りつき、中の様子もわからない。近づくと、中で人が動いているのが微かにわかる程度だ。

「アキ!!」

 聞こえるはずがない。氷の厚さは尋常ではないのだから。

 シエルはそれまであったことを思い返す。
 争いが起こる前。静寂に包まれた広場でのこと。アキと遊園地の広場で話をしていたその時に、彼らは現れた。


――――


『さっき見ましたよね? オレは呪文がなくても魔法が使えます。それに、今は雷魔法。さっきの金髪は水魔法。赤髪は火魔法を使います。人格によって変わるみたいで』
『人格で魔法が変わる?』

 そんなアキの秘密を本人から聞き、更にルウやヴァンが魔法を使えないと聞いた。あまりにも驚いて、シエルはその気配に気づかなかったのだ。

 迷いや焦りはアキの声も届かないほどだ。だが、その低い声だけはシエルの背筋を凍らせるほどだった。

『なるほど。素晴らしい力を持った少年だ』

 アキの秘密を聞いていた時。二人、ロフロールとアグラードは木の横から現れた。二人が一緒にいるという事実が、頭を真っ白にさせる。

『後ろにいるのはアキですね?』

 ロフロールはアキに目線をずらす。シエルは咄嗟にアキを隠していた。ロフロールは手に銃を構えていた。

『気になりますか? これが魔法銃です』

 シエルは初めて見たものであったが、女性にも扱いやすそうな大きさだ。

『一般の銃と違うのは充電式という部分でしょうか。グリップ部分が透明に見えるでしょう? ここに魔法を放って充電するんです』

 仲間だと思っていたロフロールは、無表情で説明する。シエルの知っている優しい笑顔は見られない。

『この魔法銃には雷魔法が充電してあります。ワタシでも雷魔法が使えるんです。すごいと思いませんか?』

 ロフロールは明らかに違う。シエルの知っているロフロールはもっと穏やかで心があったのだ。淡々とした口調は機械のようで恐ろしい。
 反応のないシエルを見兼ねて、仕方なく本題に入る。

『シエルさんもわかっているはずです。プルプの大火の原因。彼を捕まえることが、その原因究明になる。そう思いませんか?』

 ロフロールの言う通りだ。普通に考えれば彼は犯罪者。アキが捕まれば事件は進展するかもしれない。謎が解け、シエルが追われることはないかもしれない。気兼ねなくヴェス国に行けるのだ。
 シエルもそれを望んでいた。アキを犠牲に自由になれるのなら、と。
 だからさっきもアキの話を必死に聞いていた。

『知りたいですよね。プルプの大火の真実』
『知りたいわ。でも――』

 シエルはロフロールを睨む。

『アグラードと手を組んだと言うのなら、話は別。わたしは言いなりにならないわ』

 ロフロールは彼を一瞥してから答える。

『彼は魔法研究所に雇われた人間ですから。手を組んだわけではありません』

 魔法研究所という言葉にシエルは驚く。先程、アキが魔法研究所を悪だと話していたのを思い出したからだ。

 騙されていたのだ。ロフロールは魔法研究所と何か関わりがある。仲間ではなかったのだ。
 少し寂しい気持ちになるシエルだが、悲しむ余裕はない。月明かりに光る魔法銃がこちらに向いたままだったからだ。

 会話での探り合いが続く中で、アグラードは気持ち悪いくらいに無言だ。

『アキを調べます。そしてシエルさん。あなたのことも調べれば、自ずと答えは見えてくるでしょう。だから、魔法研究所に来てください』

 真実を知りたいと思っている。それはロフロールと同じだ。アキを突き出して、自分が助かろうとも思っていた。赤髪のアキはきっと何かを隠している。全てを見て知っている。

 アキのことは信じられない。これまで仲間としてやってきたロフロールは信じられるのか。
 自問自答を繰り返し、後ろで震えるアキの体温を感じながら、わかり切ったことだと自嘲する。

 決め手はアグラードの嘲笑だ。それでシエルの考えは纏まった。

『一緒に来てください』
『嫌よ』
『――残念です』

 それが最後の記憶だ。
 魔法銃が音を出したと思った瞬間に、シエルは意識を手放していた。


――――


 思い返せば、もっと上手くやれたのではないかと思う。気を失ったせいで、アキを一人にしてしまい、氷壁の向こうで何が起こっているのかわからない。

 シエルは自分を責める。責めたところで何も解決はしないのだが。

 アキは、無事なのか。彼らに捕まってしまったのか。その逆なのか。

 まだ痛む足を引き摺りながら、氷壁が薄い場所がないかとドーム状に広がるそこを歩く。

 氷。つまり水魔法を使っているということは、アキは金髪。
 それに、やはり魔法の使い方が特殊だ。こんなドーム状に展開する魔法など見たことがない。
 だが、まだ無事である証拠でもある。

『シエル!! オイ、ふざけるな!!』

 気を失う直前。入ってきたアキの声を思い出す。後半はロフロールに向けた言葉だ。あの瞬間にアキは金髪の彼へと変わった。

 ――わたしを守ろうとして?

 まさか、と。シエルはその考えを打ち消す。

「どうしたらいい?」

 入る場所がないなら探すしかない。せめて声の届く場所に行けたら、状況がわかるかもしれない。そう思い、足を引き摺りながらも歩く。

「みんな、バラバラね」

 ぽつりとシエルは零す。
 様々なことを思い出しては消えていく。その中で際立っていたのは、マールの存在だ。

 どうやって出会ったのかを思い出すのが難しい。そのくらい一緒にいて、当たり前に過ごしていた。違和感など一つもなく、魔力が低いこと以外はみんなと変わらない学生。
 そんなマールに支えられながら、旅に出た。

『ぼくはシエル先輩を守ると決めたから』

 その言葉を信じていたのだ。やめろ、着いてくるなと言いながらも、彼に期待していた。学校を辞めてまで着いてきたマールを本当に頼りにしていた。
 大事な約束。

 気づけば、何も言わずにそばを離れていた。姿は見えず、見つけようと手を伸ばせばいなくなる。
 マールが闇魔法を使ったなど、魔王だったなど信じるものかと、ただ旅を続けてきた。意地でしかなくなっていたのだ。

 マールの口から、本当のことを聞きたい。闇魔法などありえない。間違いだと言って欲しいのだ。冗談だと笑って欲しかったから、彼を追いかけた。
 ジュビアやエストレジャも、そんなシエルの隣にいた。シエルの意見を聞いて道を示してくれたし、弱さを見せても文句を言わずに支えてくれた。

『大丈夫。私は信じている』
『泣きたい時は、泣けばいい』

 頼れる仲間たち。無知なシエルを笑わず、丁寧に教えてくれる優しさが何よりも嬉しい。途中、出会ったロフロールも、何だかんだ言いながら気遣ってくれたし、ガラも頼りになる男性だ。
 みんなを信じていた。裏切りなど考えたこともなかった。

 ――信じたら裏切られる。もう、なにも信じない方がいいってこと?

 誰もが裏切るわけではない。ジュビアやエストレジャがいる。アキを助けるために力になってくれるだろう、と。

 しかし――。

 それを見た時、シエルの中で何かが崩れ落ちる。硬直した体はしばらく動かず、耳だけが音を拾っていた。

「どういうことだ!」
「エスにわかるわけがない。私の気持ちなどっ!」

 言い争いだ。それはシエルの知っている声。ミュッケ・フェスティバル会場からいなくなったシエルを追ってきたことは、何となく想像がつく。
 しかし、それは見たことがない二人の姿だ。ジュビアとエストレジャは、今にも殴り合いをしそうなほどに睨み合っている。

 広場を半周歩いたところ。人が動く気配がしたことで、シエルは大木の陰に身を隠していた。

「あの子が犯人かもしれない」
「だが、シエルは魔法を使えないんだぞ!」
「本当に使えないのかい? 私は疑っているよ」
「治療したジュビアが一番わかっているはずだ!」

 わざと怪我をするはずがない。ナンバーワンの地位を簡単に渡すはずがない。落ち込むシエルを見たはずだ、と。

 エストレジャがジュビアを説得する。声を張り上げ、肩を揺する。それでもジュビアの表情は変わらない。

「たった一人の肉親だったんだ」
「だってそれは、プルプのことはアキじゃないかって――」
呪紋じゅもんがある。シエルだって可能性がある」

 一つのことを最後まで信じる。それがどんなに難しいか、シエルは思い知ることになった。
 早く解決しなければ、シエルはジュビアに疑われる。そうなることはわかっていたのだ。ただ、本当に疑われると辛い。ただ辛くて、胸を抉られたような気持ちだ。

 ――信じられるわけ、なかったのよ。わたしなんか。

 普通の精神状態であったなら、ジュビアに違うと言えたかもしれない。だがシエルは混乱して、それどころではなかった。

 ――わたしは敵なんだ。わたしは、仲間じゃなかった……。

 その瞬間。
 広場を覆っていた氷が突然、消え失せる。同時に竜のような炎が夜空を照らし、また儚く消える。

「アキ!」

 それは魔力の限界だったのかもしれない。走り出す二人を見送り、シエルは手を握りしめる。

「ごめんなさい……もう、わかんないよ」

 二人に見つかることが怖かった。

 魔法研究所の言いなりになることが嫌で、出来ればアキを助けたいと思っていた。だから氷壁の中に入りたいと歩いていた。
 しかしそれを拒否し、訳のわからない恐怖に自身を抱きしめる。

 一人でいたい。誰も信じられない。
 シエルの心は悲鳴をあげていた。

 だから、シエルは走り出す。激しく魔法がぶつかり合う音が余計にシエルを傷つけていく。
 痛みが激しくなる足を無理やり動かし、闇雲に駆ける。一刻も早く広場から離れるために。

 仲間だった彼らから逃げ出した――。


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