挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
魔法と科学と月の詩《更新停止中》 作者:和瀬きの

SPELL 1 【3】

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

40/62

旅の目的



 ルウとヴァンに初めて会ったのは三年前。ズユー国の緑豊かな場所だった。
 どういう経緯で出会い、彼らが保護者になったかは知らず、気づいたら一緒に旅をしていたとアキは話す。

 不思議なのはそれだけではない。アキは、ルウに会う前の記憶がなかったのだ。
 記憶がないというのは恐怖でしかなく、自分の存在が酷く中途半端で、宙ぶらりんで、不安ばかりが付き纏うのだとアキは言う。

 ルウやヴァンは良くしてくれたし、お金が無い時でも食事は優先的にアキに与えてくれた。本当の家族のようだと思い始めていた。

 そんな矢先、ルウが行方不明になる。今から一年半前のことだ。

 今回と同じようにオステ国を旅していた。食料の買い出しに行ったはずのルウが半日しても帰らない。遅すぎるということで、ヴァンとともに人に聞いて回った。

 有力な情報はなかったが、気になることを聞いた。
 魔法研究所の人間を街中で見かけたという話だ。普段、研究所から出てくることのない人間が街にいたという話に不安を抱いた。

「オレたち、普通じゃないんですよ。あいつらにしたらいい研究材料。秘密がバレたんだって思いました」

 そうアキは言うが、まさか魔法研究所が悪どいことをするはずかないとシエルは思う。そんなシエルをアキは困った表情で返す。

 ルウが行方不明になった原因は魔法研究所。きっとルウは魔法研究所にいる。
 そう思ったアキは行くことを提案した。しかし、ヴァンは魔法研究所に行くことに反対。初めてケンカをした。

 それがきっかけだったのか、また別の何かだったのかはわからない。
 それまで現れることのなかった赤髪がアキを支配した。そして、気づいた時には全てが終わっていたのだ。

 魔法研究所からルウを救い出して、知らない場所にいた。服はボロボロで傷だらけ。謝るルウを見て、悪いことをしたのだとアキは思った。

 後で聞いたことだが、アキのせいで魔法研究所が半壊したと言う。

 半壊したなど聞いたことがないと言えば、
「隠したんだと思います。人をさらうような施設なんですよ。一般人が入り込んで壊したと言えば、セキュリティ面に問題があると思われるし、事故だと言えば、有名な魔法研究所の名前に傷がつくし」
 アキは表情を変えることなく答える。

 シエルの中で魔法研究所のイメージがどんどん崩れていく。しかし、そんなことはお構いなしにアキは話を続ける。

「これを聞いたら、やっぱりプルプの大火はオレが原因だと思いますか?」
「申し訳ないけど、そう考えるのが普通よ」
「そう、ですよね」
「でもはっきりしないのよ。なんで半壊したり、大火を起こしたりしたのかしら」
「ルウが原因だと思います」

 依存のようなものだとアキが話す。
 アキにとってルウは保護者であり、友人であり、切り離せない絆で結ばれた存在。大袈裟な言い方かもしれないが、彼の死はアキの死をも意味すると話す。

「あの時はルウがいなくなって、プルプではルウが捕まって……オレの精神状態は普通じゃなかったんだと思います」

 魔法研究所のこと、中央都市プルプのこと、そこで起こった事件は聞いた限りでは似通っている。
 アキが犯人と考えるのが妥当だ。しかし証拠はない。悔しいが今は諦めるしかなさそうだ。

「ところで、そのルウは? 依存していると聞いたけど、そばにいないのはなぜ?」
「逃げてきただけ」

 アキが表情を曇らせる。
 三人で旅をすることは苦ではなく、楽しいとさえ感じていた。ルウとヴァンが楽しそうに話すから、アキも話をするようになっていった。とてもいい関係だったと、アキが楽しそうに笑う。

「じゃあ、どうしてルウから逃げたの?」

 ルウのそばから離れられないほどに、アキは依存している。それが逃げてきたのだ。何か大きな事件があったとシエルは考える。

「聞いたから……オレ、みんなと違うって多分わかっていました。でも、はっきりと聞いたのはあれが初めてで。だから混乱して、急にルウのことを信じられなくなって……」

 何を聞いたのかを質問すると、アキは俯く。余程、デリケートな部分と判断し、無理に聞くことをやめて別の質問に切り替える。

「"オレたち、普通じゃない"って言ったよね? どういうこと?」

 アキは何の前触れもなく魔法について話し始める。
 呪文がなければ魔法は出せないこと。魔力というものが存在すること。生まれつきに持った属性しか使えないこと。
 アキは魔法の基本情報をシエルに確認する。シエルはその度に頷いた。

「さっき見ましたよね? オレは呪文がなくても魔法が使えます」

 ジュビアにも聞いていたし、さっき倒された時にも魔法を使ったのを見た。呪文もなかったし、自由自在に魔法を操っているようだった。

「それに、今は雷魔法。さっきの金髪は水魔法。赤髪は火魔法を使います。人格によって変わるみたいで」
「人格で魔法が変わる?」

 そんなこと有り得ないと言いかけて確かに先程、水魔法をその身に受けたことを思い出す。嘘ではない。

「信じられない……」

 改めて聞くと恐ろしい少年だ。三つの魔法を使いこなし、呪文も必要としない。それに火魔法は特に、町を一つ消してしまうほどの威力だ。

「でも、ルウとヴァンは魔法が使えない。魔力がないって言っていました」
「なんですって?」
「オレは呪文なしで人格ごとに魔法が違います。ルウとヴァンは魔法が使えません。だから、普通じゃないんです」

 息を吸い込んだまま次の言葉が出てこない。そんなシエルの様子を見て、アキは首を傾げた。
 シエルは深く呼吸する。幾分、落ち着きを取り戻すが、思考がついていかない。何がどうなっているのか、さっぱりわからない。

「大丈夫ですか?」
「本当なの? 魔法が使えないって」

 嘘をついていると思われたのか、アキは真剣な目でシエルを見る。

「直接、二人に聞いたわけじゃないんですけど」

 前置きをしてから彼は言う。

「二人とも魔法が使えないから、龍を捜してるんじゃないかと思うんです。黒龍にこだわってるみたいでしたけど」

 伝説の黒龍。魔王の下僕しもべとなった龍を探している。
 それが彼らの旅の目的。龍を蘇らせようとしている。
 その先にあるものは、言い伝えによれば世界の終わりだ。

 目の前が真っ暗になっていく気分だ。

 まさか旅の目的が同じだったとは知らなかった。同じように魔法が使えない二人の人間。
 何のためかはわからないが、龍を捜している。

 きっとどこかで彼らにぶつかる。いたずらに復活させていいものではない。

 ――わたしはどうしたいの?

 龍を復活させるつもりなのか。力が欲しいのか。ただ、魔力喪失の謎が知りたいだけなのか。

 シエルは震える手を必死に押さえていた。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ