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魔法と科学と月の詩《更新停止中》 作者:和瀬きの

SPELL 1 【3】

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回想―ジュビア―




『お待ちしておりました』

 劣化してきた医療器具を買い替えようと、中央都市プルプへ来た時のことだ。
 もう五年ほど前になる。

 ジュビアが街に着いた途端に、魔法騎士団の二人に声をかけられた。

 ――やってくれたな。

 魔法騎士団が来たということは、兄のロシオが呼んでいるのだ。ジュビアが来るのを待っていた様子。
 情報源はエストレジャだ。即座にそう思ったジュビアは舌打ちした。

 中央都市プルプに行くことをロシオには隠していた。
 いくら兄が魔法騎士団に所属し、中央都市プルプにいるからと言って、その職務を邪魔してはならない。
 ましてやロシオは次期団長として期待されている。
 だからこそ堂々と会いにいくのは控えていた。

 しかし、そんなジュビアの気遣いなどお構いなしに、情報を聞きつけると職務そっちのけで会おうとする。

 そのせいか、ロシオの代わりに職務をこなす真面目なトルエノに睨まれることもあった。

 ――彼のことも考えて行動してほしいものだ。

 しかし、その日はいつもと違った。
 魔法騎士に連れられてきたのは、騎士団寮ではなくプルプ城だ。
 応接室らしき場所で待たされる。

 足元の絨毯。壁の細工。高い天井の中央にはシャンデリア。大理石らしきもので作られた置物や彫刻類。綺麗に磨きあげられたテーブル。

 埃一つないソファに座らされて、ジュビアは顔を顰める。整いすぎていて居心地が悪い。

『待たせたな、ジュビア』

 その時、ノックとともに姿を現したロシオをジュビアは睨みつけた。

『どういうことか、説明してくれないか。兄さ――』

 しかし、後ろから顔を出した人物にジュビアは言葉を失った。

『紹介する。ネブリーナ姫だ』
『見ればわかる……』

 思わず立ち上がったジュビア。
 珍しく目を見開き、ブルーを基調とした美しいドレスに身を包んだネブリーナ姫を見つめていた。

 色白の肌。オレンジの髪色は中央都市プルプ周辺でしか見られないものだ。巻き髪をしていて、丁寧に結っていた。

 豪華なドレスや華美な顔立ちとは対照的で、美しく気品のある雰囲気を漂わせていた。
 どこからどう見てもネブリーナ姫に間違いなかった。

『初めまして、ジュビアさん。ネブリーナです』
『……ネブリーナ姫様に名を呼ばれる日が来るとは思いませんでした』

 一通りの挨拶を交わし、ロシオとネブリーナ姫はジュビアの前に座った。
 ジュビアも座り直し、ロシオを睨みつける。

『それで? 婚約発表はいつなんだい?』

 いきなり城に連れてこられた仕返しだと言わんばかりに、ジュビアはニヤリと笑った。

『ジュビア!』
『違うのかい?』
『いや、違うこともない……』

 途端に顔を赤くするロシオ。

『なぜ、わかったのですか?』

 ネブリーナ姫は素直に驚いていた。

『普通に考えただけのこと。だいたい、王族に会うには謁見の間があるだろう。それがこんな応接室。立場が逆だ』
『まあ』
『謁見ではなく、こうして姫様から訪ねてくるということ。応接室に入った後も兄さんを先頭。ネブリーナ姫様は後ろを歩いていた。つまり、ここでの会話は兄さんを目上の存在として見ていることになる』

 思ったことを躊躇せずにズケズケと喋るジュビア。黙って見ていたロシオだが、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。

『婚約以外に考えられない』
『ロシオ様の言う通りですわ。ジュビア様は聡明でいらっしゃいますね』

 ネブリーナ姫が喜々としてロシオの腕を引っ張った。

『褒めすぎだ、ネブリーナ姫』
『あら。ここへ来る前に褒めていたのはロシオ様の方ですわ。本人を前にしてその言葉を覆すなど、信じられません』
『参ったな……』

 この日、初めてネブリーナ姫と話をした。

 いつの間にかネブリーナ姫との距離を縮め、王にも認められたロシオ。
 魔法騎士団としてやってきた彼が、いずれ王族の仲間入りをするのかと思うと誇らしく思っていた。

『二人の仲はわかったよ。ますます兄さんに会いにくくなるね』
『いや、お前には会うぞ。なんせ、たった一人の肉親だ』
『今日みたいに連行されるのは勘弁願いたいね』
『だったら、プルプに来る時は知らせろ!』
『気が向いたらね』

 ジュビアとロシオの両親は幼い頃に流行り病で亡くなった。医師をしていた両親は病が流行っていると承知でズユー国に入った。そして病に倒れた。

 最期を看取ることも出来なかった。
 帰ってきたのはすでに灰となった両親だった。病を感染させないための処置だが、当時の兄弟は怒りに近い感情を抱いていた。

 まだ五歳だったジュビアを守ろうと強さを求めたロシオ。だからこそ魔法騎士団への道を選んだ。

 病気は魔法では治せないことを知り、悔しい思いをしたジュビアは両親と同じ医師への道を選んだ。いつか特効薬を作りたいと思ったからだ。

 互いに目指す方向は違ったが、想いは同じだった。

 ――大切な人を守りたい。

 だから、ロシオが悩んでいたことも知っていた。ネブリーナ姫を紹介するまで、どれだけの月日を要したのか。考えるだけでため息が出る。

『どうした? なにか不満か?』

 その表情に気づき、ロシオが眉を顰めた。

『いや、不満はないよ。ただ、ネブリーナ姫様が美人すぎる』
『あら、ジュビア様。嬉しいことを仰られます。でもロシオ様も素敵な男性ですわ。綺麗な顔立ちをしていらっしゃいますし――』
『ネブリーナ姫!』

 包み隠さず褒めるネブリーナ姫。すかさずロシオは止めた。

『ふふっ。ネブリーナ姫様は随分と素直でいらっしゃいますね』
『……よく、言われますわ』

 ジュビアはロシオに向き直る。

『あまりにも素直すぎて危険とも言えるね』
『全くだ。少しは考えて欲しいものだ』

 ぽかんと口を開けてしまうネブリーナ姫。
 ロシオとジュビアは小さく笑った。訳が分らないネブリーナ姫は、頬をふくらませる。

『……兄さん』
『ん?』

 意を決して、ジュビアはロシオに伝えた。

『私はもう五歳の子供じゃない』
『……ジュビア』
『ネブリーナ姫様を守って欲しい。私よりも、姫様を』

 ジュビアの言わんとしていることがわかったのか、ロシオは目を細めた。

『今日はネブリーナ姫を紹介したくて来てもらった。婚約を発表するのは、魔法騎士団長になった時だ。内密に頼む』
『……それはもちろん……』
『オレは姫とともにこの国を守る。つまり、ジュビア。お前を守るってことだ』

 ロシオの目指すものは変わらなかった。
 その強さと立場で、国をまるごと守ろうとするロシオ。
 眩しすぎて見ていられない。正義感が強すぎて心配になるほどだ。

『ネブリーナ姫様』
『はい、ジュビア様』
『兄さんを頼みます』

 そしてロシオは国を守るという夢を持ち、ネブリーナ姫と歩んできた。

 ――でも、兄さんは……。

 ジュビアも特効薬を作るために日々努力した。
 病気を治せない世界を変えるために。あんな悲しみが少しでもなくなるのなら、と。

『最期に、肉親に看取られること……これほど幸せなことは、ない』

 しかし、今度は魔法の傷が癒せぬせいで兄を失った。
 どんなに勉強をしても、研究をしても、医者は無力だった。大事な時に力を発揮できない。

 ――大切な人を守りたい。

 儚く消えていった願い。守りたいと思った人のいなくなった世界。

 ――私は、生きている意味はあるのか?

 そんなことばかり考えていた。

 生きろとシエルに言っておきながら、自分が生きている意味を探して、もう死しか残っていないことに気づく。

 何でもないかのようにジュビアは笑い、大丈夫だと思わせて一人中央都市プルプに残った。
 本当の理由は復讐だった。犯人を見つけて殺してやりたいと思っていた。

 ――コロス! コロシテシマイタイ!!

 どんな顔をしていたのか考えただけで狂いそうになる。そんな姿は誰にも見せられない。

 それでも、復讐がジュビアの生きる糧となっていた。そうすることでしか、存在意義を見い出せなかった。

『ジュビアさんの気になること。やらなければならないこと。ワタシでは……力になれませんか?』

 しかし、そんなジュビアを優しく包んでくれた存在がいた。何もかも忘れてしまいそうなくらい、温かい微笑み。

 ――私は、君に伝えようと思う。一人で悩むのは終わりにしよう。

 ジュビアは久しぶりに、太陽を見た気がしていた。


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