挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
魔法と科学と月の詩《更新停止中》 作者:和瀬きの

SPELL 1 【3】

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

30/62

◆アキ◆



 意識ははっきりしている。ふわふわと身体が浮くような感覚は、病気や怪我のせいではない。頭がおかしくなった訳でもない。

 そんな風に自分の状態を分析しながら、アキはただ周りの景色を眺めていた。

 雑木林の中。目の前で話す二人をただぼんやりと眺める。
 深刻な顔をして木の根元に座るルウ。相変わらずの癖毛と緊張感のない顔だ。

 少し離れた大木にもたれ掛かるのはヴァンだ。女性を虜にする容姿。特に特徴的な切れ長の瞳はルウを見つめていた。

 アキは丸太に座っていた。心ここにあらずという感じで、乱れた金髪も直さない。
 自分の手を見つめたまま動かない。

 ――何も覚えていない。二人は信じてくれる?

 手のひら越しに二人を見つめる。月明かりだけが彼らを照らしていた。

「ところでルウ。怪我は?」

 ヴァンが木にもたれたままで問いかけた。

「背中を強打しただけだから。そんなに気にしなくて大丈夫だよ、ヴァン」
「我はもう、怪我人を背負っての旅は遠慮願いたい」

 不満をもらすヴァンをルウは笑った。

「悪かったって。出来るだけ早くあの国を離れたかったからね」
「……無茶をしたんだ。もう少し入院していればよかったものを」
「追っ手が迫っている。グズグズしていられないよ」

 彼らはヴェス国を何とか脱出。ノルデ国を経由してオステ国に渡った。

 中央都市プルプで傷を負ったルウはしばらく治療のために、アーマイゼ港町の診療所にいた。

「治療費は置いてきたし、大丈夫」

 今日、日が落ちると同時に勝手に退院してしまったルウ。動けるのだから大丈夫だという自分判断だ。
 そして隠れるように雑木林に入り、今後のことを話していた。

「オステ国か。あまりにも危険すぎると思うが?」
「ヴァン。もう逃げるわけにはいかないよ」
「目的のため、か」

 ヴァンは煙草を取り出した。マッチで火をつけると、真っ直ぐに煙が上空へ伸びる。
 全く風のない夜であった。

「ルウ。わかっているだろうが、そろそろ金が尽きる」
「うん。とにかく都会に出よう。ミュッケ大都市なら、仕事があると思うんだ」

 ルウの提案にヴァンは渋った。

「我々は追われている身だ。難しいのではないか?」
「なんとかなるよ」

 ルウは楽観的だ。
 呆れた顔をすると、ルウは困ったように頭を掻いた。ヴァンは考えるかのように腕を組む。

「まあ、我が言える立場ではない。ルウに任せよう」
「……ヴァン。たまには一緒に働かない?」
「我はアキを見ていなくてはならないのでな」
「そうやってまた逃げる」

 ヴァンはこれまで働いたことがない。
 人一倍金遣いが荒いのだが、性に合わないと言い張り稼ぐのはいつもルウだ。

「一応、怪我人なんだけど」
「もう治ったのだろう?」
「さっきと言ってることが逆」
「ここまでルウを背負ったのだ。我はすでに働いた」

 ああ言えばこう言う、といったやり取りが続きルウは折れた。
 結局、働くのはいつでもルウである。

 そんな二人を眺めるアキは先程から何も喋らない。虚空を見つめたままだ。

 ルウはため息をした。

 アキの様子がおかしいとわかったのは、ヴェス国を離れた頃だった。

 中央都市プルプで合流出来ただけで奇跡だった。それを無駄にしないようにと、必死で国を離れた。

 普段からあまり話をする方ではないアキだったから、喋らなくても特に気にならなかった。
 特にルウは怪我を負っていて、気遣うことが出来なかった。

 しかし、彼は変わろうとしていた。どんなきっかけがあったかは二人にはわからない。わかっていることは、本来の"アキ"に変わろうとしていることだけだ。

「……ヴァン。やっぱり、アキは……」
「さあ、我にはわからぬ。ただ、少なからずあの事件に関わっていたと考えるのが普通であろう」

 亜麻色の髪を掻き上げ、ヴァンはため息と一緒に煙を吐き出した。

「信じたくない気持ちはわかるが――」
「わかってるよ!」

 ルウは怒りをぶつけるように地面を叩いた。

「……わかってる」

 ルウはルウで葛藤していた。
 聞かなくても答えはわかっている。ただ、怖くてたまらなかったのだ。

 ルウは乱れる髪もそのままに、拳を握りしめる。

 アキの保護者となった時に決めたはずだ。
 アキが真っ直ぐ、真面目に、良い方向に向かうと信じたから。どんなことも背負い、共に歩き、彼を守るのだと誓ったはずだった。

 恐怖に動けなくなってどうするのか。保護者として失格だ。
 ルウはかつて誓った時のように、気持ちを奮い立たせる。

「アキ。ずっとその調子だけど、僕のことわかる?」
「……わかるよ、ルウ」

 アキに歩み寄ったルウは、心配そうにその顔を覗き込む。

 彼の髪は金色だ。しかし、時々それが変わるのを何度かルウは見ていた。
 ぼんやりした表情。まるで微睡まどろみの中にいるかのように、目は閉じかけている。

 質問されたことに答えた後、アキはクスリと笑った。

「アキ?」
「ルウは疑ってるんでしょ? オレが、中央都市プルプを破壊したんじゃないかって」

 二人の会話を聞いているだけのヴァン。
 話に介入するつもりがないのか、ふぅっと煙を吐き出した。

「……いや。本当に知らないんだろう?」
「あの日のことは、わからない」
「僕が疑ってるのは君じゃない。出てきて欲しい。話がしたいんだ、アキ」

 ルウは話がしたいと、アキの体を揺する。
 知らない者が見れば、頭がおかしいと馬鹿にされるところだ。

 しかしルウの言いたいことがわかっているのか、アキはまた笑いながら答える。

「無理だよ、ルウ。今はオレがアキなんだから」
「……そうか……」

 ルウはアキの頭に銃を押し当てた。

「どういう……つもり?」

 さすがにアキはルウを驚愕の表情で見る。
 しかし動じることはなく、引き金に指をかけた。

「ルウ」
「止めないでよ、ヴァン。大事なことだから」

 ヴァンはため息をついた。
 八歳の少年に銃を向ける光景に目を細める。

 ルウの横顔から何かを読み取ったのか、ヴァンは慌てることをやめて煙草をくわえ直した。
 助けることも、加勢することもせず、傍観者でいるヴァンに、アキは冷めた目を向ける。
 だが、すぐ視線を戻し、ルウを上目遣いに睨む。

「本気?」
「僕はいつでも本気だよ」

 即答したルウは驚くほど冷たい目をしていた。そんな目をするルウをアキは知らない。

「殺すつもり?」
「あの日、中央都市プルプにいたアキと話がしたいだけだよ」

 直感で、殺されると思ったアキは諦めたかのように目を閉じた。
 しかし、すぐに目を開ける。銃を向けられていることを忘れ、ヴァンの後ろの茂みに目を向けた。

「アキ、僕は……」
「ねえ、待ってよ。ルウ」
「え?」
「お客さんがいる」

 心臓が跳ね上がった。
 誰かが会話を聞いていたと、アキは言う。

「いつから……っ」

 焦ったルウはそちらに銃を向けた。ヴァンは素早く守るようにアキの前に立った。

「誰?」

 ルウの低い声が闇に溶けるように響く。同時に草を踏みしめる音が近づいてくる。

 ほとんど明かりのない雑木林に潜んでいた目的を考える。いや、考えずとも答えは出ていた。

「取り込み中、すまない」

 茂みを掻き分けて顔を出した人物。
 銀髪の青年だ。

 ゆっくりと銃をおろして、彼の言葉に耳を傾ける。

「聞きたいことがある」

 立ち聞きしていたことを弁解することなく、ストレートに聞いてきた青年を不審に思う。
 表情にも出ていたのか、彼も警戒した。

「こんな夜更けに散歩ですか? 目的は?」

 ルウも彼に合わせてストレートに質問した。
 遠慮なんてものはなくなった。

 銀髪の青年が睨みつける。その目線の先にいたのはアキだった。

「君たちの罪は盗みだけかい?」

 青年の鋭い問いかけに、周りの空気がピンと張り詰めたものに変化した。

 彼は知っている。グリューン町での盗み。
 中央都市プルプでの大火。
 そのどちらにも居たのが、彼ら三人であることを知っている。

 お互いの感情を探ろうと、目を逸らさず、動かない。

 沈黙が続いた。

「もう、いいよ」

 そんな沈黙を破ったのはアキだった。

「どうして邪魔するの?」
「君はなにか知っているのかい?」

 強い口調で問いかける青年。

「消えてしまえばいい」
「え?」

 次の瞬間。

 アキを中心に風が巻き起こる。
 金だった髪が赤くなっていくのを見て、青年は目を見開いた。

「君は……!!」
「死ねよ」
「駄目だ! アキ!!」

 冷たいアキの声と眩しい光が同時だった。

 間に合わない。そう思いながら、アキを止めようと二人は動いていた。

 ルウは銃を捨てて、炎を纏うアキを後ろから抱きしめていた。
 ヴァンは青年を守ろうと一歩を踏み出した。

 しかし、物凄い力に身体が浮いた。

「な……っ」
「伏せて!!」

 ルウの叫び。
 別の力がアキの炎に激しくぶつかった。

 何が起こったのかわからないまま、それぞれが爆発に巻き込まれた。


――――


 林の一角で大爆発が起こった。

 炎と煙が上空に舞い上がり、アーマイゼ港町では時が止まったように静かになった。

 もう夜も更け、大半が家の中にいた。
 しかし、その振動に誰からともなく窓を開けた。ドアを壊すかのように開けて外に飛び出した者もいる。

「ありゃ、なんだ?」
「火事!」
「大変だっ!!」

 恐ろしい炎に震え、叫び、慌てる。

 誰かが大変だと言い走り出したのをきっかけに、町は混乱と共に動き出した。


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ