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魔法と科学と月の詩《更新停止中》 作者:和瀬きの

SPELL 1 【1】

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ライバルは気難しい風魔法使い。


 無遠慮に開け放たれた講堂の扉。そこにいた全員が振り向く。
 気分がいい。シエルは不敵な笑みで歩き出した。

「やっと来たか」

 すでに卒業式は始まっていて、校長は壇上にいた。ちょうど校長の長い挨拶が終わったところらしい。

 ふと見ればマールは下を向いている。

「どうかした?」
「も、もう在校生の席に行きますね」
「もしかして、恥ずかしい?」
「い、言わないでください!」

 注目されているのが本当に恥ずかしいらしく、耳まで真っ赤にしている。その姿が可笑しくて笑うシエル。

「卒業生代表挨拶!」

 なかなか来ないシエルにしびれを切らして、校長がマイクに向かって叫ぶ。

「挨拶……」

 シエルは目を泳がせる。

「先輩?」
「あー。よし、これでいこう」
「文章、もちろん考えてきて――」
「――るわけがないでしょ?」

 シエルは焦るマールにニコっと笑ってみせる。

「適当にやれば大丈夫だって!」
「……大丈夫かな」

 マールは不安そうに在校生の席に走っていく。残されたシエルは壇上を目指して歩き出す。

「……チッ」

 壇上近くまで来たところで、舌打ちに気づく。横目で見れば、事あるごとに何度も顔を合わせている同級生。風魔法使いの女だ。

 ――名前、なんだっけ。

 シエルは月に一度くらいのペースで決闘を申し込まれている。だが、その全てに勝ち、負けることはなかった。

 グリューン魔法学校には決闘というものがある。実力が全ての弱肉強食の世界。自分の実力を知るため、実践で腕を磨くため、ランクを上げて成績を残すため。様々な理由で決闘をする。

 彼女はシエルに次いで二番目の実力者。ついに勝てないまま卒業で悔しいのだろうと思い、シエルは勝気に笑う。

「……馬鹿みたい」

 講堂は正面の舞台から、扇形に広がった形をしている。外から見ると円形の塔のような建物だ。
 卒業生が約五十人。在校生はその倍程度。全員が集まると講堂は狭くて暑く感じられる。

 卒業式とはいえ、家族が校内に入ることは許されない。それも伝統である。

「卒業生代表、シエル」

 改めて名前を呼ばれ、シエルは返事もせずに舞台に上がる。風魔法使いと目が合い、悪戯な笑みを浮かべるシエルだ。

「わたしたち卒業生は本日、この学校を卒業します」

 目の前にあるマイクに向かって喋ると声が講堂に響き渡る。
 このマイクも魔法研究所が造った科学の道具なんだな、と喋りながら違うことを考える。これから待っているのは研究や事務の仕事になるのだろう。そう思うと卒業は辛いものだ。

「思い出の校舎や講堂、校庭ともお別れです」

 シエルはニヤリと笑う。それを見た風魔法使いが睨みつけてきたが気にも止めない。

「わたしはオステ国の魔法研究所に行きます。ぜひ来て欲しいと頼まれたので。本当は嫌だったけど、あのオステ国の魔法研究所の所長が直々に!」

 シエルの言葉に風魔法使いが顔を引き攣らせているのがわかる。いい気味だと思うとシエルは饒舌になっていく。

「魔法研究所所長がわたしのところに来て頼み込んだのです。その気はなかったけれど、人生とは不思議なものですね」

 魔法研究所で働くことを夢見ていたのは風魔法使いの方だ。彼女は上手くいかず、魔法研究所で働くという夢は叶わなかった。
 だからわざとシエルは挑発している。もちろん風魔法使いもわかっていて、表情が引き攣っていく。

「わたしは来週からオステ国に行きます。こうして別れや出会いがあるのは、寂しくもあり嬉しくもあります」

 校長を含め何人かの先生はシエルの嫌がらせに気づく。止めようとする姿が目に入り、慌ててシエルは真面目な表情を生徒たちに向ける。

「これまで優しく、時には厳しく指導してくださった先生方に感謝します。これからはその教えを胸に、わたしたちは自分の道を歩いていきます」

 まともな挨拶に切り替わったことで、先生たちの動きが止まる。シエルはぺろっと舌を出す。

「卒業生代表、シエル」

 シエルは一礼して壇上から降りる。途中、風魔法使いを見下ろす。身体を震わせて拳を握りしめる姿に、いい気味だと嘲笑った。

 シエルが席に座ると、それまで凍りついたように静かだった講堂内が再び動き出す。淡々と卒業式が進められていく。

 卒業式が終わったといっても、それで終わりではない。明日から三日間は"祈りの儀式"がある。
 講堂に集まり、これからの自分たちの成功を祈る。時間にして約一時間。それを三日続けることが"祈りの儀式"だ。
 グリューン魔法学校で必ず行われる伝統だ。

 ――伝統、伝統って。本当に窮屈だわ。

 無駄な時間だ。成功するかどうかなど実力と運次第。祈ったら成功出来る保証などどこにもない。

 ――休んじゃおうかな。

 卒業式を終えれば後は本人の自由。早めにオステ国に行くのも有りだ。
 そんなことを考えながらシエルは目を閉じる。

 別れを惜しんで泣き始める生徒がいる中で、シエルはうとうとしている。それを咎める者はいない。


――――


 卒業式は午前中に終わって解散となった。ただシエルだけは呼び出されて、まだ学校だ。

 卒業生代表挨拶で風魔法使いを挑発。式の途中で眠る。
 目に余る行動をしたシエルを放置する校長ではない。

 だが、マールに急かされるまま校長室に来てみるも不在。呼び出しておいていないとは失礼だと、乱暴にドアを閉めて出てきた。

 マールは別の用があるからといなくなり、からかう相手もいなくて途端に暇になる。暇を潰そうと、一度中庭に行ってみることにしたシエルだ。

 西にある校長室や教師たちの部屋がある指導者棟を出ると、すぐ右に先程いた講堂。左には図書館がある。
 その中央が中庭になっている。手入れされた花壇の中には創設者の像。東側を見れば使い慣れた校舎が目に入る。

「疲れたな」

 穏やかな陽気にまた眠気が襲ってくる。シエルは欠伸を噛み殺し、校舎のもっと先にある魔法訓練施設で体を動かそうと考える。

 一歩を踏み出したところ、
「待ちなさい!」
 鋭い声に呼び止められる。

 知った声。シエルはいい暇潰し相手が見つかった、と笑顔で振り向く。

「なにか用? 風魔法使い」

 卒業式でシエルが馬鹿にした風魔法使い。両隣にいつもの取り巻きが二人。

「わかってるはずよ」
「さあ、わからないわ」
「あなた……!」
「ところでさ、名前なんだっけ?」

 綺麗な肌に青筋を立てる彼女。何度も戦った相手にも関わらず、名前さえ覚えない。そんなシエルが許せない。

「……アイレよ」
「名前、アイレだったっけ?」

 アイレは腕を組んで息を吐き出す。黒髪をアップにした髪型は六年間変わらない。まるでアイレの性格を表したようで、シエルは気に入らない。真面目すぎてつまらないからだ。

「あなた、今日の代表挨拶なんなの? あたしを馬鹿にしてるの?」
「してるよ」

 言った途端、アイレの深緑色の瞳が揺れる。表情がどんどん変わっていく。
 美人なのに怒った顔ばかりをして勿体ないとシエルは思う。

 ――ま、わたしの方が可愛いと思うけど。

 シエルは笑う。それが余計にアイレを刺激していることに気づいていない。

「最後の決闘を申し込むわ!」
「いいわ。相手になってあげる」

 この決闘でアイレが勝てばナンバーワンの座に立てる。在学中、残り三日のチャンスだ。アイレは全力でぶつかってくる。

「勝負は魔法のみ。場所は魔法訓練施設前」

 勝敗は申し込んだ生徒の担任が見届けることになっている。

「決闘は二日後の正午よ! いいわね?」
「恥をかくだけよ」
「あたしは勝つわ!」

 言い終わるとアイレは取り巻きを連れて指導者棟へ向かう。決闘の日時を担任に知らせに行ったのだろう。
 シエルはそれに冷たい視線を送った。

「懲りないんだから」

 シエルがアイレに出会ったのは入学式。
 まだ知り合い程度だった二人がライバルになったのは、能力テストでたまたま戦ってからだ。

 シエルはノルデ国からグリューン町に来たので知らなかったが、アイレは町で評判の実力派魔法使い。それをシエルは簡単に打ち負かして、
『そんなもんか。あーあ、つまんない!』
 などと言ってアイレのプライドを傷つけた。
 負けたことも町の噂になって、当時は相当恥ずかしい思いをしたと聞いている。

 そしてアイレは変わった。シエルだけに敵対心を持ち、お洒落や恋に夢中になる年頃に、アイレはひたすら腕を磨いた。シエルを倒すことだけを考えて。
 シエルはそんな気持ちなど知りもしない。

「あ。決闘のせいでオステ国行きが遅くなるじゃない」

 シエルは項垂れ、アイレのいなくなった方を睨む。

「面倒なことになったな」


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