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魔法と科学と月の詩《更新停止中》 作者:和瀬きの

SPELL 1 【1】

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深夜の話――召喚幻獣




「そもそも、召喚幻獣ってなに?」

 シエルが最もな質問をぶつける。召喚幻獣という言葉の意味はわかっても、それが一体何であるかはわからない。
『勇者の日記』を幾らか読んだであろう二人の喋り方からも、正体がそこに書かれているわけではなさそうだ。

 二人が答えるより先に音を立てたのは、先ほど三人が入ってきた扉の錆びた音。僅かに入ってきた月明かりが、訪問者を知らせる。

「召喚幻獣。エーアデ最大の魔力を持ち、その力は契約した者だけが使える。正体は龍です」

 ランタンの灯りが届かない場所にいた彼は、更に続ける。月明かりが逆光になり顔は見えない。

「龍は属性の数だけ存在しています」

 全員が立ち上がり、警戒してその人物が歩いてくるのを待つ。
 こんな所で『勇者の日記』のコピーを前に密会をしていることが知れればただでは済まない。
 二人の緊張がシエルにも伝わる。

「警戒しなくても大丈夫です」

 ランタンの明かりが届くと同時に、シエルは驚きで目を見張る。
 長身。学生服。柔らかい表情。昼間に会ったばかりの彼はマールだ。

「どうしてここに?」

 姿が見え、警戒を解いてすぐにジュビアが質問をぶつける。

「ジュビア先生、わざとじゃないんですか?」
「なにがだい?」
「昼間にシエル先輩に意味深な言伝を頼んで、気にならない方がおかしいです」
「だとしても、一人でここまで来るなんて。余程、シエルのことが気になるんだね」

 マールの言う通りであった。ジュビアがシエルに言伝を頼んだのは、マールにも来て欲しいと願ってのことだ。
 あれだけシエルを心配していた彼のことだ。シエルを必ず良い方向へ導いてくれるだろうと考えていた。

「しばらく立ち聞きでもしていたのかい?」
「ごめんなさい」

 申し訳なさそうにマールは答える。

「魔法訓練施設に入るのが見えました。それで、なんだか出るタイミングが……」

 エストレジャはため息をつく。ジュビアの行動にも、マールの登場にも。特にこの話し合いの場を提案したエストレジャ自身が、知らなかったことに腹を立てる。

「後戻り出来なくなるぞ」
「わかっています。でもぼくもシエル先輩の役に立ちたいんです」

 エストレジャの強い言葉にも、マールは動じない。睨み合う二人の間にジュビアが立つ。

「まあ、いいじゃないかエス」

 ジュビアが助け船を出し、エストレジャを止める。不本意ではあるが、彼は息を吐き出しながら座る。申し訳なさそうにマールも隣に腰かける。

「勝手に話、進めないでくれる?」

 蚊帳の外。いつの間にか三人で話を進めていたことに、シエルは頬をふくらませる。

「すみません」
「いきなりマールくんが来るから」
「わかってたんだろうが!」
「だから、わたしの話じゃなかったの?」

 一瞬黙った後、全員が頭を下げる。しかも声を揃えて謝罪。心がこもっているのか、いないのか呆れ顔のシエル。

「いいから話、続けて」

 シエルが静かに座ったのを見届けてから、ジュビアが切り出す。

「さっきの話。詳しく聞かせてくれないかい? マールくん」

 ジュビアは先を促す。全員がマールの言葉を待つ。どことなく照れた様子の彼は、一度シエルの横顔を見てから話し始めた。

「今、必要な情報は召喚幻獣の正体やいる場所。召喚する方法ですよね」
「ああ」
「さっきも言った通り、召喚幻獣の正体は龍だとはわかったのですが――」
「待ってくれ。その話、なぜマールくんが知っているんだい?」

 伝説の大戦。勇者、魔王、巫女のことはもちろん、召喚幻獣のことを知る方法は滅多にない。
 多くは隠されて、表に出されることはない。エストレジャが手に入れた『勇者の日記』のコピーでさえ、禁書の棚に隠されていたのだ。

「君はどこから知ることが出来たんだい?」
「校長室です」
「校長室だあ!?」

 誰よりも早くエストレジャが叫ぶ。慌てたジュビアが彼の口を塞ぐ。

「静かにしてくれないか」
「いや、でもな」
「とにかく、詳しく聞こう」
「は、はい」

 再びマールに注目が集まる。

「校長室って秘密が多いんですよ。校長は隠してるつもりみたいですけど、いくつか知ってるんです」

 マールは校長室を思い浮かべているのか、嬉しそうに答える。

「校長室の隣に通じる扉。あそこは禁書と同じようなものがあるんです」
「校長室の隣? そんな扉があったの?」

 シエルは何度も校長室に出入りしたことはあるが、廊下へ出る扉以外のものを知らない。

「隠し扉です。そこにあった本に書いてあったんです。召喚幻獣は龍だって」

 みんな黙り込む。笑顔でさらっととんでもないことをマールは言ったのだ。思わずシエルはマールの頭を思い切り殴っていた。

「痛いですっ」
「なに校長室に忍び込んでるの!」
「しかしよく見つけたね」
「信じられん」

 口々にマールの話の感想を言い合う。その間も、マールは涙目になりながら頭をさする。

「忍び込むなんてしてないです。あれも勝手に入って読みはしましたけど、校長室への出入りはいつものことです」
「いつものこと?」

 シエルの問いに、マールはこくりと頷く。

「隠すつもりはなかったんですけど。校長が出来るだけ言うなって」
「なにを?」
「ぼく、校長に引き取られたんです。幼い頃に両親を亡くして孤児になって」

 シエルはもちろんのこと、ずっと教師をしているエストレジャも、病院で何人もの町人を診てきたジュビアも、マールのことは何も知らない。校長に引き取られた話は初耳だ。

「……マールくんが」
「マールがっ?」
「校長の息子?」

 唖然として次の言葉が出てこない。

「たまたまさっき召喚幻獣の話を聞いて。校長室にあった本を思い出したんです」

 みんなが黙り込んだままで不安になったのか、マールの声が小さくなる。
 マールが退学にならない訳が何となくわかったシエルだったが、あえて口に出さなかった。

 ――召喚幻獣。

 召喚幻獣は龍。属性の数存在し、契約した者だけが使えるエーアデ最大の存在。
 まさかそんなものを捜すことになるとは思わなくて、情報を持ってきたマールをまじまじと見つめる。

 ――本当に行くの?

 見つかるはずがない。いくら昔の本が出てきて、存在が認められたとしても、すぐに腰を上げることは難しい。

「マールくん。それは本当に本物なのかい?」

 やっと返ってきた声に、マールはぱっと目を輝かせる。

「印がありました。あの書類は大図書館のものです」

 そこでやっとエストレジャが喋り出す。

「大図書館というと中央都市プルプだな。今も校長室にあるのか?」
「いえ、すでに返却されています」

 ヴェス国のちょうど中央にある都市・プルプ。
 特徴は大図書館という、国最大の図書館があること。国王がいて、それを守る魔法騎士団がいる街だ。
 この間も、グリューン町であった騒ぎの時に来ていたのを見かけたばかりだ。

「ということは、中央都市プルプか。調べる価値はあるな」
「なんとか方向だけは決まったようだね」

 ジュビアは立ち上がり、シエルを見下ろす。

「後はシエル次第だ」
「わたし?」
「まず治療に専念すること。回復したら、行くのか行かないのか。自分で決めなさい」

 ジュビアの言葉にシエルは緊張する。

 ――本当に行くの?

 再び自問自答する。

 ――違う。勇気がないだけなんだ。

 魔力喪失のままグリューン町にいても何をすればいいのか、考えれば考えるほど気持ちは外に向かう。
 何か見えない手が背中を押し、旅立てと言っているようにシエルは感じた。

 悩んでいる暇はない。何よりも頼りないと思っていたマールでさえ、シエルを心配して旅立ちの手伝いをしてくれた。彼の心が本当に温かくて、シエルはただ嬉しかった。それだけで勇気が湧き出るようだった。

 行くのかと問うような問題ではない。行かなければ、何も変わらないのだ。


「考える時間はたっぷりある。決断は焦らずにするんだ」

 エストレジャの言葉は聞こえていない。シエルの気持ちはほとんど決まっていたのだから。
 どうしても魔法を取り戻さなくてはならない。何が何でもやるしかない。シエルには他に道がないのだ。

 シエルの瞳に強い光が宿る。久しぶりに生気を取り戻した瞬間だった。

2016/05/30
修正、ここまで終わっています
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