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魔法と科学と月の詩《更新停止中》 作者:和瀬きの

SPELL 1 【1】

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深夜の話――呼び出されて


『話がある。でも、ここでは出来ない』
『出来ないって?』
『とにかく迎えに来るから。もう診療所を抜け出さないように』

 夕方に診療所に戻ったシエルはジュビアにそう言われる。何の話だと聞く間もなく行ってしまったので、もやもやしたまま過ごすことになってしまった。

 そして日付けが変わる頃。
 明かりもつけずに現れたジュビアに驚いたのは言うまでもないが、耐えきれず眠りかけていたシエルには迷惑な訪問者だ。

 そんな驚きの訪問が終わり、二人が向かったのはグリューン魔法学校。深夜の魔法学校の門は閉じられていて、中に入ることは出来ない。

「閉まってるじゃない」
「まあ、待ちなさい」

 黙るように言われて仕方なく待つことになる。さすがに深夜になると人とすれ違うこともない。

 グリューン魔法学校であった騒ぎも犯人が捕まったということで終息。今はもう魔法騎士団の姿はない。
 犯人は中央都市プルプにいるという話をマールから聞いていた。興味がなかったので、はっきりと覚えていないが。

 物思いにふけっていると、門の横にある通用口がガチャリと軽い音をたてた。扉が開いて、中から背の高い男性が現れる。

「待たせたな」

 月明かりが彫りの深い顔を映し出す。エストレジャだ。

「話は後だ。早くしろ」
「行くよ、シエル」
「うん」

 辺りを気にしているところを見ると、緊張する。シエル、ジュビアと順番に中に入り、エストレジャはまた鍵をかける。

「行くぞ」

 明かりが届かない場所を選びながら歩き、向かったのは魔法訓練施設。急ぎ足で地下の測定室に着き、ようやくエストレジャが話し出す。

「遅れてすまなかったな」
「全くだよ。人に見つかったら終わりなんだ。勘弁してほしいね」

 測定室の適当な椅子にシエルが腰かけるとジュビアは隣に、エストレジャは正面に座る。
 部屋の明かりはランタンに布を被せて薄暗くしてある。三人がいる机の周りにしか橙の明かりはない。

「魔法訓練施設は修理したんだね」

 ジュビアが話を振ると、エストレジャは嬉しそうに答える。

「校長からの許しが出たんでな。なんとか元通りだ」
「エス、また校長に無理を言ったんじゃないのかい?」
「まさか。本当のことを言えば、直すついでに新しくしたかったんだがな」
「無理を言ってるじゃないか」
「生徒が使う施設なんだ。そろそろ新しくしたいと思わないか? 俺たちの時代から変わらないんだぞ」

 その会話に疑問を持ったシエルが二人の顔を交互に見る。

「二人、どういう関係?」

 聞かれて楽しそうに笑ったのはジュビアだ。一方のエストレジャは照れているのか頭を掻く。

「私とエスはシエルと同じ、グリューン魔法学校で学んだ同学年のライバルだよ」
「よく言うぜ。ライバルだって言ってる俺をバカにしてたのは誰だよ」
「それはエスが筋肉にしか興味がなかったからだよ。魔法に専念していれば、かなりの成績だったと思うけどね」

 シエルはエストレジャの顔をまじまじと見る。そしてジュビアの横顔に目を向ける。

「ジュビア先生は何歳?」
「三十四歳だけど」
「施設長は?」
「三十四に決まってるだろ!」

 銀髪に青い瞳を持ち、整った容姿のジュビアは男性であるにも関わらず、美人と言ってもいいほどに綺麗だ。
 一方のエストレジャは男の中の男。彫りの深い顔は日に焼け、身体は筋肉隆々。髭面が特徴の老け顔である。

 あまりにも差がありすぎる三十四歳に、シエルは開いた口が塞がらない。

「あのさ……」
「シエル、それ以上は言うな。言いたいことはだいたいわかってる」

 エストレジャは怒ったような顔をして言葉を止める。気にはしているらしいと、シエルもそれ以上は言わないでおくことにした。しかし、隣に座るジュビアが噴き出す。

「エスは老け顔だからね」

 あっさりと言葉にしたジュビアを睨みつける。

「お前が言うな!」
「本当のことを言ったまでだよ」
「もうこの話は終わりだ。本題に入るぞ」

 咳払いを一つ。和やかな雰囲気が一変。静かな測定室に緊張が走る。
 シエルはエストレジャの言葉に集中する。

「今日、来てもらったのはお前のことだ。シエル」
「わたし?」
「これからのこと、考えてるのか?」

 いつかは聞かれる。覚悟はしていたものの、これだという計画は何一つない。
 魔力がなく、魔法が使えないことは致命的だ。あの日に道は完全に塞がれてしまい、動きようがなかった。
 生きている意味すら失いかけていて、このままではいけないとわかってはいても先のことを考える余裕がない。

 考えていることが表情でわかったのか、エストレジャはシエルの頭を軽く叩く。

「痛っ」
「らしくない顔をするな」
「そんなこと言われても、どうしようもないじゃない」
「いつからお前はマイナス思考になっちまったんだよ」

 ぶすっとむくれたシエルは会話を聞き流すかのように、顔を背ける。

「シエルにも、ちゃんと道はある」

 エストレジャの言葉に期待を寄せてしまい、振り返った自分が恥ずかしくなってまた顔を背ける。
 しかし縋るような気持ちでエストレジャの話を聞いていた。

「オステ国に住む者のほとんどは魔力が低いって知っているか?」

 シエルはやっとエストレジャの顔を見る。ジュビアは話をエストレジャに任せて黙ったままだ。

「聞いたことある」

 それは呪いだと言われていた。
 東のオステ国では科学が発展している。機器類の開発が盛んで、見たこともない物が溢れ返っている。魔法をエネルギーへ変換する研究が成功してから、機器開発はより活発になった。
 魔法は科学のためのエネルギーでしかない。オステ国民は魔法に対して、そういう考えしか持っていないと言う。

 だから呪いで魔力が低い者ばかりが生まれるのだと、噂が流れている。

 魔法学校の実力者を魔法研究所が欲しがるのも、噂通りであるならわからなくもない。研究するにしても、魔力の低い者ばかりではどうにもならないのだから。

「そのオステ国がなによ?」

 シエルが先を促すとエストレジャは一度ジュビアに目を向けてから話し始める。

「あの国は科学に頼っている。つまり、知識さえあれば何かしら働き口はあるし、シエルのことも快く迎えてくれるだろう」
「そんな……」

 まるで見捨てるような言い草に、シエルは下を向く。

 ――そう、だよね。魔力がないんじゃ、普通の生活なんて無理なんだよね。

 納得しようとすればする程、胸が苦しくなる。

「嫌かい? シエル」

 それまで黙っていたジュビアが声をかける。

 二人が必死に考えてくれた提案を無下に断ることが悪いような気がして、シエルは何も言えない。
 しかし、自分の将来のことだ。人の顔色を窺いながら決めるべきことではない。

 シエルは手を握り締めて、真っ直ぐに正面を見据える。エストレジャがシエルの言葉を待ち、ジュビアも聞く体勢でいた。

「そんな働き方したくない。わたしには魔法が必要なの。どうしてもっ!」
「なぜ、そこまで魔法にこだわるんだい?」

 ジュビアの問いに、一瞬黙り込んだシエル。

「わたしの家はとても厳しくて。魔力を失ったなんて知れたら、もしかしたら命がないかも」
「命がない? そりゃ、ちょっと大袈裟――」
「大袈裟じゃないわ!」

 大声に驚いたエストレジャは言葉を止める。再び声をかけようとして、シエルの身体が震えていることに気づく。

「命がないって、本当本当のことなのか?」
「そうよ」
「嘘でも大袈裟でもない。一体、君の家はどうなっているんだい?」
「ごめんなさい。それは言えない」

 我がままだ。これからのことを考えてくれていたのに、どうしても必要だと魔法を求める。
 もしかしたら見捨てられるかもしれないと、シエルは二人の様子を窺う。

「それならば残った道は一つしかないね。エス」

 ジュビアは笑顔を向けてきた。きょとんとした顔をするシエルをエストレジャは笑った。

「心配するな。絶対に見捨てない」
「まだ死なせるわけにはいかないからね」

 とても頼りになる二人。今になって初めて、恵まれていると気づく。
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