阿蓮との約束
林の手は切り落とされ、バケツの中に放り投げられていた。徐が林の顔をハンマーで潰す。鼻が潰れ、眼球が今にも取れそうになる。その眼球を鋏で切り取り、袋に詰め込む。
後ろで見張りしていた若い男が雨で濡れたコンクリートに吐瀉物を撒き散らす。隣にいた黄の肩を叩く。
「煙草ないか?」
黄は黙ってセブンスターの箱を差し出してきた。そこから一本抜き取り、ジッポで火をつける。肺に煙を送り込む。落ち着きが戻ってきた。
徐はてきぱきと動き、阿蓮に取り掛かろうとしていた。大きな肉切り包丁で綺麗な手を切断する。血が吹き出す。それを見て徐がにやけていた。いかれてる。
俺は煙草を吹かしながらそれを見守った。阿蓮の顔が潰されていく。この世で一番愛した阿蓮の顔が潰れていく。
頭の中で阿蓮との短い一時が映画の様に映り出す。家に迎えに行った事、セックスをした事、食事をした事、短い間だったが、お互いを愛し合うには十分な時間だった。
阿蓮の顔が完全に潰された。もう綺麗な顔をした阿蓮ではなかった。只の肉の塊。煙を吸い込み、ゆっくりと吐く。白い煙が雨の中を漂う。
「おい」
血塗れなった徐に呼ばれた。
「蹴り落とせ」
俺は黙って従う。林の体に足を置き、押す。水飛沫が飛んでくる。阿蓮の体に足を置く。阿蓮の最後の言葉が蘇った。
“みんな殺して”
「殺してやる。必ずな」
聞こえない様に小さく言った。膝を伸ばし、阿蓮を押す。真っ暗な海へと姿を消した。水飛沫が飛び散る。
「引き上げるぞ」
徐がそう言って去っていく。雨の降りが弱まる。見ると、真っ黒な雲の間から真ん丸と太った満月が姿を現す。俺は短くなった煙草を海に捨て、芝浦ふ頭を去った。 |