最後の…
どのくらい眠っていたのだろう。声が聞こえてきたが、何を言ってるかは分からなかった。
突然冷たい何かを被った。目をゆっくり開けた。水が辺りに散らばっている。目の前に誰かが立っている。吉田だった。その周りには数人の男がいた。
「よく眠ったか?」
吉田は笑っていた。俺は逃げようと体を動かすが、無駄だった。すぐ後ろには体格の良い巨漢の男が仁王立ちしていた。それに、手は何かで縛れている。諦めて、吉田に向き直る。
「歓迎ありがとよ」
周りは灰色の壁で、天井には電気玉が一個あった。そして、巨漢もいれて四、五人が俺を囲んでいる。
吉田が寄ってきた。
「もう一度聞こう。ブツは何処だ?」
「知らん」
横にいた男が腹に拳を叩き込まれた。息が漏れ、膝をつく。吉田は首を左右に振っていた。
「お前が答えれば街は静かになるんだ。血は沢山だ」
苦しかったが何とか言葉にできた。
「一つ聞く。……俺が何をした? あんた達に何をした?」
俺は吉田を睨みながら更に続ける。
「いいか? 劉に何を言われたか知らんが、いずれ殺されるぞ。良いように使われて……」
拳が飛んできた。あっと言う間に鼻を潰された。どうやら吉田は本当に空手の達人らしい。
俺は鼻を押さえようとしたが、腕が動かせないの思い出し、目を固く閉じて我慢した。どうやら折られてはいないようだ。だが、大量の鼻血が流れてきた。
吉田は胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「何をしたかだと? 組員殺しといて暢気な事を言ってんじゃねぇ!」
そういえば、店で撃ち殺したのを思い出した。
「……それが理由なのか………本当に」
「さぁな」
大体は検討はついている。どうせ、街を乗っ取る気だ。馬鹿な奴め。
「それはどうでもいい。ブツは何処だ」
首を振った。吉田が目で合図する。横にいた男二人が、奧に消えた。程なくして、男二人が何かを引きずりながら戻ってくる。
目の前にそれが置かれた。萩原だった。顔は痣だらけで、両目は開けられそうにない。
「言え」
吉田を見ると、手には俺が持っていたベレッタが握られていた。その銃口は、萩原を狙っている。
「本当に知らない! いいか? 俺の話を……」
言い終わる前に喧しい銃声が木霊した。萩原の顔の真ん中に銃弾が撃ち込まれ、肉片と真っ赤な血が飛び出す。
「……あ、悪いな。思わず撃っちまった」
吉田が笑い、周りの奴も一緒になって笑い出す。
「豚野郎」
吉田は一歩さがり、首筋に見事な蹴りを入れられた。それを何とか耐えたが、次の一撃が来た。左足を軸にして体を捻り、右足が頬に当たった。吹き飛び、壁にぶつかる。
「いつまでタフを気取ってるつもりだ?」
吉田に髪を掴まれ、顔を上げさせられた。頬に軽く張り手をする。俺は壁を蹴って吉田の顔に頭突きをお見舞いした。不意をつかれた吉田は鼻血を出しながら吹き飛ぶ。
「手前!」
すぐ横にいた男に脇腹を蹴られた。そのまま袋叩き。俺は転がりながら逃れようとするが、すぐに拳が飛んでくる。
「おい! 立て!」
無理矢理立たされる。体のあたこちが痛む。目の前が霞んでよく見えないが、誰かが立っていた。痛みが走る。
顎を殴られ体が宙に、浮き真後ろな吹き飛んだ。
「そのくそったれを立たせろ! ぶっ殺してやる!」
吉田が叫ぶ。奥のドアから男が入ってきた。手には電話の子機を持っていた。
「お電話です」
吉田に差し出した。吉田は苛立ちながら取り、耳に当てる。
「誰だ? ……あんたか。何の用だ? ……俺に任せろ。奴はもう知ってるぞ。…………分かったよ。計画通りにな」
電話を男に返す。俺の勘だと相手は劉の様だな。殺せって電話だろう。
吉田は木製のバットを持った男に耳打ちをした。男が頷く。吉田は黙って部屋を出ていった。
「立たせろ」
端にいた男に無理矢理起こされた。
「何すんだ?」
男はバットをスイングした。バットは肋に直撃。尋常じゃない痛みが体に走る。中で鈍く折れる音がした。叫んだ。
「くそ野郎!」
横にいた男にミドルキックを入れられた。どす黒い血を吐く。バットを持った男の服に血が飛び散った。
「手前!」
男はまたスイングした。今度は顔面だった。意識が吹っ飛んだ。また真っ暗な闇の世界にのめり込んでいく。
夢を見ていた。いつもの夢だ。真っ暗な闇の中に女が立っている。女が目の前で真っ赤な血をぶち撒けながら倒れていく。ゆっくりと。すべてがスローモーションだった。
俺は正面で震えながらコルトパイソンを握りながら呆然と立ち尽くしている。突然足を引っ張られる。見ると撃ち殺した筈の女が眉間に大きな穴を開けて、夥しい血を出しなし、虚ろな目で足を掴んでいる。恐怖の余り銃を撃つ。何回も。だが、当たらない。それもその筈。死人なのだから。
弾が無くなり、銃を放り投げた。また足を引っ張られる。体制を崩し、倒れる。足を大きく振る。それでも女は足を握り続けていた。泣きながら足を振る続ける。急に暖かい温もりを感じた。後ろから誰かが抱きしめている気分だ。顔を覗き込む。
いつもはここで夢から覚める。だが、今日は覚めない。
急に顔を上げる。驚く事に、満面の笑顔の阿蓮が抱きしめていた。俺は泣きながら笑う。
俺はこの夢をずっと見続けた。何年も。長い暗闇から光が射し込んでくるような感じだった。
叫びながら阿蓮を抱きしめる。この時俺は心に誓った。世界中の誰よりもお前を愛している。突然光が包み込んでいく。
目をゆっくり開けた。灰色の床が映った。引きずられている様だ。ドアが開けられ、放り投げられた。宙を舞い、ゴミ袋の山にダイブする。生臭い匂いが鼻をつく。
男達がにやにやした顔でゆっくり近づいてきた。
「くそ野郎が。運が良かったな」
腹を蹴られた。よく見るとバットを持っていた男だった。最早、痛みも感じない。
「二度と面見せるな!」
また蹴られた。男達が戻っていく。再び真っ暗になった。
ゆっくり起きあがった。辺りを見渡すと、遠くで歌舞伎町の光が見える。どうやらまだ生きてる様だ。
街に向かって歩き始めた。脇腹が痛かったが、ここにいてもしょうがない。俺にはやる事がある。守らないといけない人がいる。
通りに出るとそこは花道通りだった。腕時計を見た。六時十七分。携帯電話が震え出す。見ると、菅原からメールが来ていた。“九時”と文字が並んでいるだけ。
脇腹の痛みを堪えながら、駐車場へ急ぐ。一心不乱に走った。途中、痛みで壁に手をつきながら走った。
ようやく駐車場に着き、ランサーに乗り込んだ。エンジンを掛け、アクセルを踏み込む。駐車場にタイヤが空回りする音が響き渡る。
車を追い抜く度にクラクションが聞こえた。気にせず速度を上げていく。何度もぶつかりそうになりながらも、ホテルに着いた時には六時五十七分だった。
車のエンジンをかけたまま、エレベーターに乗り込んだ。中には中年の夫婦が乗っていた。どちらも真っ青になりながら俺を見ていた。かなり酷い怪我の様だ。
エレベーターを降り、部屋に向かう。部屋のドアを開けると、阿蓮は青白い顔で駆け寄ってきた。思わず笑いそうになった。
「大丈夫?」
阿蓮は必死に辺りを見渡し、何処かへ行ってしまった。
「なんとかな」
独り言を言いながらベッドに座り、バックをベッドの上に置いた。阿蓮が救急箱を持ってきた。
「手当しないと」
「大した事はない」
「いいから」
そう言って血を綺麗に拭き取っていった。次に右目の辺りを消毒して、そこにガーゼを貼った。次に頭の傷口にガーゼを貼り、包帯を巻いていく。
「ありがとう」
今の時間は俺にとって心も癒された時間だった。同時に自分の救世主と感じた。
「気にしないで」
救急箱を閉まっていた。
「急いで身支度しろ」
バックからスパス12と12ゲージのショットシェルの箱を取り出した。
「ここはもう危険だ」
ショットシェルを七発詰め込んだ。
「分かった」
阿蓮が振り返り、真剣な眼差しで答えた。
バックからもう一挺のステンレスのベレッタM92Fを取り出し、弾倉を差し込む。三個の弾倉をコートの左ポケットに突っ込んだ。
ベレッタをズボンとシャツの間に差し込む。M629ESも取り出し、それも差し込む。阿蓮が戻ってきた。バックを背負いスパスの被筒をスライドした。
「行くぞ」
阿蓮に待つ様に指示して部屋を出た。薄暗い廊下は不気味な程静まっていた。まるで嵐の前の静けさの様に。阿蓮に合図して部屋から出てきた。阿蓮が背中に回る。
階段の方に向かって歩いた。刹那、十メートルぐらい離れた先にあるエレベーターのドアがゆっくり開いたのが見えた。中からあいつが出てきた。あの赤い丸サングラスに頬の傷のある男――ゴースト――が、四人連れて出てきた。
時間が止まった様な気分だった。ゴーストがバックから銃を取り出す。出てきたのはシグSG551だ。
この銃はスイスのシグ社が作った突撃銃の一つだ。カービンモデルで、室内戦でも扱いやすくなっている。要するに今みたいな時だ。この銃の特徴は銃口の近くに過熱すると色が変わるリングが取り付けられてる事だ。
阿蓮を連れて角に隠れた。銃撃が始まった。コンクリートの壁の破片が無数に飛び散る。
「こっちだ」
スパスを構えたまま移動した。
「後ろ!」
阿蓮が後ろから叫ぶ。見ると黒いベレッタを持った男が腕を上げていた。
「伏せろ!」
振り返りながら阿蓮がしゃがむのが見えた。そのまま撃つ。炸裂音と共に男が吹き飛ぶ。続け様にトカレフを持った男が二人が走ってくる。何発か撃ってくるが、走っているせいで銃弾は見当違いの方向に飛んでいく。
被筒を動かし、排莢口から赤いショットシェルが勢いよく飛び出す。
撃つ。
ポンプする。
再び撃つ。
二人男の体に八粒程度の小さい弾を浴びせた。素早くポンプした。
「来い」
阿蓮を連れて走り出す。正面の窓ガラスに反射して後ろが見えた。後ろからAK47を持った男が現れた。
阿蓮を押して角に隠れた。窓ガラスに銃弾が撃ち込まれ、穴が開き、窓に皺ができた。体だけ通路に出し、スパスを放った。男が吹き飛ぶ。
続いて赤い丸サングラスが登場した。銃撃。薄暗いので発光がやけに眩しかった。壁にナトー弾が何十発も抉り込んだ。再び阿蓮を連れて走り出す。走りながらポンプして次の弾を送り込んだ。
前にトカレフを持った男が現れた。走りながらスパスを撃つ。男が吹き飛び壁にぶつかった。
今度はイングラムを持った男が前に現れた。今度は隠れた。壁に雨が降り注いだ。壁が穴だらけになる。壁に隠れながら撃った。男は細長い弾倉を握りながら後ろに飛んでいく。
後ろを見た。ベレッタM92Fを握った男が撃ってきた。だが、撃った銃弾は壁に被弾。透かさず撃った。男は天井に一発撃って倒れていく。蛍光灯に当たり火花を散らしながら派手に割れた。
スパスは弾切れになったのでシャツとズボンの間に入れたベレッタを抜き出した。長い通路の奥に緑色に点灯した非常口が見えた。薄暗いのではっきり見える。
「怖いか?」
阿蓮が首を横に振った。俺は微笑んだ。阿蓮も微笑んだ。阿蓮の手を握って走った。映画のワンシーンの様に。
それも束の間だった。奧から三人がトカレフを持って飛び出してきた。銃撃。壁に銃弾がめり込んだ。走りながらベレッタをがむしゃらに撃つ。男達が慌てて隠れた。
角からウージーを構えながら男が現れた。阿蓮を壁に寄せながらベレッタを撃った。男の腹に当たる。だが、またウージーを構え、撃ってきた。銃弾は窓ガラスや壁に当たった。俺は容赦なく何十発も撃った。男が倒れながらもウージー撃ち続ける。通路の三分の二の蛍光灯を派手に破裂させながら。
真っ暗になった通路を阿蓮の手を握りながら走った。
非常口の鍵をベレッタで壊し、外に出た。雨が降っていた。頭の中に文字が浮かんだ。“終わり”と言う文字が浮かんで消える。
阿蓮が不安気な顔をしていた。“大丈夫だ”と言おうとしたが言葉に出来なかった。どうやら俺は怖じ気付いた様だ。
「行こ」
阿蓮が手を引く。だが下からベレッタを持った男が現れた。差し込んでいたM629ESを抜き、ベレッタと交互に撃った。男が撃たれながら非常階段の柵を越えて地面に落ちていく。
振り返った。非常口から男が現れた。ベレッタを向けて撃った。同時に遊底が固まる。眉間に当たり頭を仰け反って倒れていく。
続いて、ゴーストがシグを撃ってきた。眩しい発光だった。M629ESを撃ちながら階段下りる。すぐに弾切れになったので、その場で捨てた。
弾倉止めを押して、新しい弾倉を差し込みながら急いで階段を下りた。前を見ると先回りをした連中が待っていた。手に持っているのは86Sだ。
この銃は中国北方工業公司、通称ノリンコが作った銃で、キャリングハンドルとファアグリップが取り付けられている。だが、性能はそれほど良くない。
銃撃が始まり、眩しい発光が暗い路地を明るくした。
すぐ左に路地があったのでそこに突っ込む様に入っていた。走りながら振り返ってベレッタを向ける。雨で視界が悪かったが、黒い影が現れたので何回も引き金を引く。何発かは壁に当たったが、影が倒れたのが見えた。
発光が見えた。耳元に風を切るソニックウェーブが聞こえた。すぐ横にある壁が爆発する。破片が飛んできたが、気にせず走った。
駐車場に入り、急いでランサー乗り込んだ。フロントガラスに穴が出来た。
「キャ!」
阿蓮が身を屈めた。エンジンを掛け、アクセルを踏み込む。目の前を見ると池上がグロック19を撃っていた。更に速度を上げ、池上に突っ込む。
衝撃が伝わり、フロントガラスの上を池上が転がっていく。
「ざまぁみろ! くそったれ!」
外苑東通りに出ると車の行列が出来ていた。その車の間にゴーストがシグを構えて撃ってきた。
阿蓮の頭をダッシュボードの下に押し込んだ。銃弾がフロントガラスを貫き、シートに当たり中の綿が飛び出す。
右手をウィンドウの外に出し、ベレッタを撃った。当たろうが当たらなかろうがとにかく撃ち続けた。車を追い越しながら外苑東通りを直進し、六本木通りを突っ切った。
穴だらけになったフロントガラスに雨が降り注ぐ。ポケットに入った携帯電話が震えた。画面には菅原の番号が表示されている。
「何だ?」
『今何処にいるのよ。これ以上雨が酷くなったら中止よ』
「分かってるよ。今……」
左のウィンドウに穴が出来た。銃撃だ。今度は後ろのガラスに穴が六つ出来た。阿蓮が悲鳴をあげながら頭を伏せる。
「くそ!」
アクセルを今まで以上に踏み込んだ。白い棒が百二十の上を過ぎていく。
『ちょっと。追われてるの?』
「あぁ!」
前の車を追い越した。サイドミラーを見た。二台のBMWが追ってきている。
「必ず行く。じゃあな」
『ちょっ……』
菅原が何か話そうとしたが切った。両手でハンドルを握りしめる。右のサイドミラーが吹き飛ぶ。
左手でベレッタを握った。ベレッタを後ろの割れたガラスに向け、撃った。車内が光に包まれる。
後ろを走っていた車のフロントガラスが真っ赤に染まった。急に曲がり、そのままガードレールに突き刺さる様に突っ込んだ。
また銃撃が始まった。ガラスが穴だらけになっていく。
「バックから銃を出してくれ!」
關はバックの手を入れ、箱型の化け物銃を取り出した。MACM11だ。
「これでいい?」
怯えた顔をして、差し出した。俺はそれを受け取ると阿蓮に微笑んだ。
「上出来だ」
半分無くなったバックミラーを覗き込んだ。車は丁度斜め右を走ってるのが見える。
「合図したらここ押しながら引くんだ」
サイドブレーキのレバーを触りながら言った。阿蓮は頷きながらサイドブレーキを握った。
俺はバックミラーと睨むようにみていた。突然車がスピードを上げ始めた時だった。阿蓮に合図を送った。
アスファルトを擦る音が、雨の降りしきる世界を凍てつかせた。スピードが一気に落ち、あっと言う間に車と並んだ。その瞬間、右手に持ったイングラムを窓の外に出し、車めがけて、一分間に千六百発の化け物が火を吹いた。
眩しい発光。飛び散る薬莢。血の海と化す車。全てが一瞬の内の出来事だった。
気づかなかったが、あのゴーストは後部座席で顔の四カ所に穴を開けて、死んでいた。
車のスピードを上げ、その場を去った。海岸通りを走り、ゆりかもめが走る下を潜り、静まり返った港に着いた。
バックにイングラムを入れ、右手で持ちながらぼろぼろになったランサーから降りる。雨は大分小降りになっていた。どうやら無事、街を出る事ができそうだ。
「こっちだ」
阿蓮の肩に腕を回し、体を密着させた。阿蓮は腰に腕を回してそれに答える。その状態で芝浦ふ頭の一番奥へと進む。
突然ライトに照らされた。眩しくて前が見えない。ライトの中から一つの影が現れた。劉偉だ。「久しぶりだな、木村」
黒い傘を差しながら近づいてきた。とっさにベレッタを向けた。銃声。だが撃ったのは俺ではない。劉の手下の徐虎だった。
肩を撃たれ、ベレッタを地面に落とす。左手で傷口を押さえる。痛みが波打っていた。
ライトから影が、一つ、二つ、三つ、と徐々に増えていった。その中には黄來と林迎明の姿も。
「残念だよ、木村」
林がぶつりと呟く。
「お前は日本人だが、家族の一員として見ていた。なのにお前は俺を裏切り、俺の家族を殺した。これは断じて許す訳にはいかない」
阿蓮がバックに手を伸ばす。
「女。下手な真似はよせ」
徐が阿蓮にコルト・ガバメントを向けながら言った。
「お前もだ關。いや、趙英蓮だったかな」
林が哀れむ様な目で見てきた。林が合図を送る。横にいた男の銃口が上げた。
「停手呀!」
叫んだが銃口が光り、静かな港に銃声が響く。阿蓮が地面に倒れていった。ゆっくり、スローモーションの様に。夢に出てくる女の様に。
俺は阿蓮を腕で倒れるのを防いだ。硝煙がふわふわと宙を舞っている。胸の部分から真っ赤な血が流れてきた。手で傷口を強く押さえる。
「祐一……寒いよ。……温かくして」
阿蓮が遠く見るかの様な目で俺を見ながらそう言った。黙って阿蓮を抱きしめる。その時、阿蓮が耳元で囁く。
「…………」
阿蓮の体から力が失っていく。俺はそれでも阿蓮を抱きしめた。
「走(帰るぞ)」
林がそう告げた。だが、水を弾く音が聞こえてこなかった。見ると、何人かの男が黒星を抜き、林に向けている。
「劉。これはどういう事だ?」
劉が不気味な笑みを浮かべる。
「見ての通りさ」
徐が林を羽交い締めにした。林は逃げようともがくがびくともしない。流石は元SDUだ。
「あんたとお前は……俺の母さんを殺した」
大林の言葉が蘇る。黄が俺に黒星を向けた。
「知らん! 俺はお前の母親なんざ知らん!」
林が吠えたが、横にいた男が鳩尾に拳を叩き込む。林は前屈みになり、痛みに耐える。俺はそれを黙って見ていた。
「知らない訳ないだろ? お前はどうなんだ? まさかお前も知らないとほざくのか?」
劉が怒りに満ちた表情で振り返った。今にも発狂し、殺す様なオーラが体が煙の様にあがっている。
「いや……認める」
あれが本当に劉の母親なのかは知らないが、今の所はそういう事にしておいた方が良さそうだ。
「豚野郎め。日本人の癖にふざけた事しやがって」
劉は俺から林に視線を移した。俺は阿蓮の目を優しく閉じさせた。本当に眠っている様だ。もしかしたら本当に眠っているのかもしれない。そんな錯覚に陥った。
「二人共ここに並べ!」
黄に黒星をつつかれ、立ち上がる。阿蓮、俺もすぐに行くよ。
目の前には真っ暗な海。そのぎりぎりの所に立たされた。右横に完全に怯えた林が立たされる。
「俺を殺したらどうなるか分かってるのか? 王や陳が黙ってないぞ」
「それぐらい分かってるさ。手は打ってる」
遊底が引く金属音が聞こえた。俺は覚悟を決めて目を閉じる。林が叫ぶ。銃声。叫び声が途切れた。俺はゆっくりと目を開ける。生きてる。
「お前は生かしてやる。だが二度と俺の前に現れるな」
「一つ聞きたい」
そう言いながら振り返ると劉は既にベンツに乗り込もうとしていた。
「何故俺を巻き込んだ」
劉が笑う。まるで俺が冗談を言ったかの様だ。
「決まってるだろ? トップに立つにはお前が邪魔だったからさ。何故だが分かるか?」
俺は首を横に振った。
「お前が次のトップに推薦されたからさ。日本人のお前がだ」
劉が続けて口を開く。
「だからさ。それにお前が母さんを殺したのも入るがな」
劉がベンツに乗り込んだ
「これからどうするんだ? まさか王や陳と喧嘩する気じゃないよな?」
「あいつらならとっくに死んでるさ」
そう言ってベンツのドアが閉められた。そのままベンツが雨の中をゆっくりと海岸通りの方角に進んでいく。
「おい」
振り返ると徐と何人かが林と阿蓮を運ぼうとしていた。
「手伝え」
徐がそう言うと、体が勝手に動き阿蓮を運んでいた。 |