欲望の街(10/12)PDFで表示縦書き表示RDF


また性描写が含まれております。予めご了承下さい。
欲望の街
作:李仁古



平和な一時


 ホテルに着いたのは一時十一分だった。部屋に入ると阿蓮はベッドにくるまっていた。コートを脱ぎ、椅子にかける。靴を脱いで阿蓮の横に行く。
「お帰り」
 阿蓮が抱きついてきた。俺は阿蓮の額にキスをする。阿蓮が微笑み、両目を閉じる。今度は唇にした。
 息を吐きながら、仰向けになる。
「疲れた?」
「かなりな」
 阿蓮は俺の頭を優しく()でた。睡魔が一気に襲ってくる。だがここで寝たら阿蓮が裏切る様に感じた。
「大丈夫。あたしは祐一の事裏切ったりしないよ」
 俺の心を読んだのか、阿蓮がそう言った。俺はゆっくりと瞼を閉じる。すぐに暗い闇へと飲み込まれた。


 暗い闇に俺は一人。他には何もない。草も。木も。見慣れたビルも。車も。あるのは、果てしなく続く闇だけだった。
 俺は歩き出す。特に意味はない。闇が幾久(いくひさ)しく続くだけだ。突然真っ白な玉が遠くにあるのが見えた。俺は取り合えずそこに向かう。
 だが同時に足下が沈みだした。足が無くなっていく錯覚を感じた。急いで足を動かして、沈むのを防ぐ。徐々にではあるが玉には近づいていった。
 そして玉にようやく近づく事ができた。玉は近づくにつれて大きくなり、やがて玉ではなくドアなのが分かった。ドアノブに手を置く。だけど回らない。足が沈んでいく。もう腰まできている。
 必死にもがくが、時すでに遅し。黒いのは胸の位置にまで達していた。その時、光の扉が開き、人影が映った。
 助けを求めるが、影は何もしてくれない。遂に顔の半分が沈んだ。影が動き、顔がはっきりと分かった。そこにいたのは……自分だった。
 もう一人の俺は哀れむ様な目で俺を見下ろしていた。そして、踵を返して光に包み込まれていく。やがてドアが閉まり、真っ暗になった。その時、既に俺は闇に飲み込まれ這い上がる事はできなかった。


 目を開けた。白い天井が目に飛び込んでくる。額に乗った汗を拭い、視線を横に移す。阿蓮が静かな寝息を立てながら眠っている。俺はベッドから抜き出し、隅に置かれた冷蔵庫を開けた。
 中には缶ビールとスポーツ飲料のペットボトルが入っていた。ペットボトルを取り、プラスチックのキャップを開けて一口飲む。乾いていた喉が(うるお)う。キャップを閉め、冷蔵庫に戻す。
 腕時計に視線を落とす。午後一時二十九分。約十二時間寝た事になる。窓の外を見ると、真っ赤な太陽は真上に昇っていた。
「あ、お早う」
 振り返ると阿蓮が目を擦りながら体を起こしていた。柔らかそうな乳房が丸見えだ。何故か無性に性欲が湧いてくる。俺は阿蓮に近づき唇を重ねた。舌を絡ませ、乳房を揉む。
 そのまま再びベッドに倒れ、唇を離す。
「祐一のここ、もう固いね」
 阿蓮が嬉しそうに言った。俺は膣の中に指を入れる。阿蓮の表情が快楽に浸っていく。
「お前のここはすっかり濡れてるな」
 阿蓮は頬を(うっす)ら赤くしながらも嬉しそうにしていた。指を激しく動かす度にぐちゅぐちゅと音が立つ。阿蓮の喘ぎ声が部屋に響く。俺は指を抜き、M629ESを床に置いてズボンをおろす。
 パンツから陰茎を出し、膣に突き刺す。そのまま激しく腰を動かし奥へ奥へと突き刺した。
「祐一……好き」
 阿蓮の細い腕が首に巻き付いてきた。
「あたし……絶対……裏切らないよ」
 阿蓮の甘い声が耳元に届く。
「だから……」
「一緒に逃げよう」
 俺は突きながら言った。
「今夜、この街から出る」
 膣の中に精液をぶち撒けた。阿蓮を強く抱きしめる。阿蓮が震えているが分かった。
「……遠い所が良いな」
 阿蓮は耳元でそう(ささや)いた。陰茎を膣から抜き出す。阿蓮が力を失った陰茎にしゃぶりつく。
「綺麗にしてあげる」
 微笑みながら舌を巧みに動かし、張り付いた精液を舐め取っていく。程なくして、阿蓮が微笑みながら顔を上げる。俺は阿蓮の頭を撫でシャワーを浴びに、浴室に入った。
 服を脱ぎ、温かい湯を体に浴びた。体の毒素が全部流れていく気分だ。
 軽く浴びて、白いタオルで体に付いた水滴を拭った。服を着て浴室を出た。
「シャワーでも浴びてこい」
「は〜い」
 阿蓮が素っ裸のまま浴室に入っていった。すぐに水が弾く音が聞こえてくる。俺はそれを聞きながらM629ESを拾い、銃が入ったバックに押し込む。
 浴室のドアが開き、髪をタオルで拭きながら出てきた。バックをベッドの隅に置き、ベッドに腰を下ろす。阿蓮が横に来る。
「お腹空いた」
「食べに行くか?」
 そう聞くと阿蓮は黙って頷く。
「じゃ出かける用意をしろ」
 阿蓮は微笑みながらてきぱきと服を着ていく。俺は靴を履き、バックから銀色に輝くベレッタM92Fを出して腰に差し込む。コートを着て存在を消す。
 コートを着終わるのと同時に阿蓮が腕に絡んできた。近くで改めて見るとフリルのカーディガンが妙に、似合っていた。
「早く行こ」
 阿蓮に()かされ、部屋を出た。廊下を歩き、エレベーターに乗って地下駐車場に向かう。
 相変わらず静かな駐車場。白のランサーに乗り込み、エンジンをかける。駐車場にエンジン音が響く。助席に乗った阿蓮はわくわくしながら座っていた。ギアをDの位置に合わせ、アクセルを踏む。
 外苑東通りを進んでいく。阿蓮は(せわ)しく、首を動かしていた。暫くして、阿蓮が指をさしてあそこが良いと言った。俺は反論もせず、そのレストランの駐車場に入った。
 車を降りて、レストランに入る。阿蓮は目を輝かせながら店内を見渡す。店内は明るく、ボックス席がいくつもあり、もう既に何人かが座っていた。右の奧に行くと公衆電話とトイレがある。左横には厨房があるようだ。女の店員が出たり入ったりしていた。
「お客様は二名様で宜しいでしょうか?」
 いつの間にか黒縁眼鏡をかけた若い男が横に来ていた。
「はい」
 阿蓮が返事をする。
「では、こちらへどうぞ」
 男が手で招きながら進んでいく。
「どうぞ」
 俺と阿蓮は席に着いた。俺はコートを脱ごうとしたが、止めた。
「お決まりになりましたら、そちらのボタンを押して下さい」
 男はそう言うと一礼し、去っていく。阿蓮がメニューを開き、時折困った表情をしながら決めていた。俺はメニューをざっと目を通し、決めた。阿蓮はまだの様だ。
「そんなに悩む必要があるのか?」
「ある」
 溜め息をついた。携帯電話が震えだす。ポケットから出し、携帯電話を開く。非通知。俺は黙って席を立ち、公衆電話の前で、電話に出た。
「もしもし?」
『調べた』
 萩原の声だった。だが、どこか様子がおかしい。
『会って話したいんだ。今から』
 伊藤の時を思い出した。
「今は無理だ。そうだな……」
 腕時計に目を落とす。現在、三時八分。
「五時にいつもの場所だ」
『……分かった』
 電話が切られた。俺は不審に思いながら、携帯電話をポケットに押し込んだ。席に戻ると、テーブルには水が入ったグラスが置かれていた。阿蓮を見ると、まだ悩んでいた。ボタンを押す。
「ちょっと」
「遅すぎだ」
 そう言うと阿蓮は頬を膨らませた。先程の男が来たので、注文を頼む。阿蓮も黙って注文を頼んだ。男は再び一礼して去っていった。
「ねぇ、船で何処に行くの?」
 頬杖をしながら聞いてきた。
「ニューヨークだそうだ」
「ニューヨーク? 本当に?」
「あぁ」
「……二人でニューヨークかぁ〜。なんだか楽しみだな〜」
 阿蓮の頭の中にはニューヨークの街が映っている筈だ。俺はそれを見ながらにやけてしまった。グラスを手に取り、冷えた水を胃に流し込む。
 暫く阿蓮とニューヨークの話をしていると料理が運ばれてきた。阿蓮が頼んだのは肉汁が溢れたステーキだった。俺はというと只のスパゲティー。
 フォークを使って麺を絡ませていく。阿連はさっそくナイフとフォークで肉を切り始めていた。ミートソースが乗った麺が口の中に運ぶ。
 窓の外を見ると、太陽が雲に隠れ始めていた。歩道では携帯電話と話している者、耳にイヤホンを填めている者、談笑している者、手を繋いでいる者。平和な風景だ。
 時折阿蓮と談笑しながら食事を楽しんだ。食事を終え、車でホテルに戻る。そこで阿蓮に用事があると言って再び歌舞伎町に向かった。
 歌舞伎町に着いたのは四時五十一分だった。賑やかな靖国通りを西武新宿駅通りに入り、新宿ハイジア駐車場に着いた。車を止め、エンジンを切った。静かになる。
 ドアを開けて車を降りた。右手を後ろに回し、M629ESの銃把を握る。ゆっくり辺りを見渡しながら駐車場を歩く。所定の場所に着き、腕時計に目を落とす。四時五十五分。
「木村」
 M629ESを抜き、声がした方に銃口を向けた。その先には怯えた表情をした萩原が立っていた。
 不意に目眩が襲ってきた。体の力が無くなり、コンクリートに倒れる。いや目眩じゃない。殴られたのだ。それに気づいた時には既に真っ暗な闇の中にいた。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう