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紫陽花〜光栄の真実
作:〜koto〜



「名」


「はあぁぁぁ‥‥‥」
「ん? 清明、いかがいたした。退屈か? ほら、見るがいい。あの左から三番目の楽師の君は‥‥‥うん‥‥‥なかなかのもんだよ。「女」ながらに父親の跡を継ぎ、今では評判高い「売れっ子」だ。女だという事で随分と苦労もしているようだが‥‥‥ふふふ、どうだい? 見目も麗しい。年はね、十七だというよ。ううん‥‥‥丁度良い年頃だね。あの清らかな乙女は「(ねや)の中で」‥‥‥「どんな音色」を奏でるのであろうね‥‥‥ふふふ。そっちも実に興味深い。ところがね、中々にこれが手ごわくて、皆「苦労」しているらしいよ。「芸」一筋で中々なびかないらしい。「身持ちが堅い」とこれもまた評判だ。私もね、「文」は送ってみたのだが、色よい返事はもらえなくてね‥‥‥だがその返事も‥‥‥ふふ趣のあるものでね、あれは余程育ちの良い者だと思うね。実に「小気味良く」かわすのだよ、私と知りつつね。私だよ。いまをときめく「私」の誘いを断る女子など‥‥‥早々いるものじゃない。あぁ‥‥‥一人‥‥‥(といっていいかな)いるがね。清明お前のとこの「神将」。ん、そうだ。六合(りくごう)は元気かな? 何か言ってなかったか? 私に伝言はないか? 何時来てもいいと伝えてくれよ。私はずっと待っていると‥‥‥」
ゆるゆると顔を話し相手に向けるその表情は「呆れ」とも、「諦め」とも、「てめえバカヤロウ」ともとれる。しかしそれは何時ものことなので、再び、はあぁぁぁぁ‥‥‥と大きくため息をつき、
「こけ君様、「あれ」はやめたほうがいい。あの楽師‥‥‥「男」ですよ。「文」になびかないのは当たり前。あっちが「男色」でないのならね。この世は実にせちがらい。「売名」のためでしょうよ。ただ当たり前に家業を継ぎ、楽師として「売れっ子」になるのは難しい。
「訳あり」のほうが(きょう)(すずめ)たちの口の端に乗ることが多い。自然と「名」は売れるでしょう。しかもあの美貌だ。「恋の道」で頭の膨れ上がった貴族達が黙っているはずも無い。ふ‥‥‥中々頭のいい奴だ。楽師なんてやめて「陰陽師」にでもなればいいのに‥‥‥」
「え? 清明、あれは「男」なのか? うぅぅぅ‥‥‥信じられんなんという事だ」
華やかな舟遊びの中、時の権力者「道長」は失望に打ちひしがれている。
だが‥‥‥ん?
「おいっ! 清明、なんでそれが「陰陽師」と繋がる? お前あれを「弟子」として、「可愛がる」つもりではあるまいな‥‥‥お前って‥‥‥そういう趣味なのか?」時の権力者はいぶかしげに陰陽師をみつめる。
「ふ‥‥‥まさか。私には、ちゃんと「妻」がいますからね。数年後には「吉平」という立派な跡取りが生まれる。いい子ですよ。吉平は‥‥‥大切にしてくださいね。「藤原家」をお守りする陰陽師となる。お忘れなく‥‥‥こけ君様‥‥‥」
「その名を言うな! 清明! 私はその名は嫌いなんだ。今や誰もその名で呼ぶ者はいない。お前だけだぞっ。いまだにその名で呼ぶのは」
こけ君‥‥‥それは今をときめく時の権力者「藤原道長」の幼名である。三男坊として生まれ、「どこをどうしても絶対に」跡目を継ぐはずの無い「どうでもいい三男坊」は「女子であって欲しい」という両親の希望を裏切り、誕生の折には随分と皆をがっかりさせたものである。女子であれば、帝に献上し、「皇子」を生めば「藤原家」は安泰。
男は要らない‥‥‥だって賢い兄が二人も居る。誰もがそう思っていた。が‥‥‥「運」か「不運」か「二人の兄」はあっけなく他界し、ただ気儘(きまま)に育ってきた三男坊が「跡目」となった。
こけ君という名は、「こけ」のように逞しく、どこぞのそれなりの家に婿入りし、そこで「藤原」の根を生やしていけよ。と‥‥‥そんな感じで付けられたものだろう。
だからあまり大事にされていない「藤原の三男坊」は常にふらふらと気儘にあちこちを彷徨っていた。そんな折、「ある事件」に巻き込まれたところを「賀茂忠行」の家に弟子として入り込んでいた「清明」と出会い、助けられて今に至る。「幼馴染」そんな感じだ。
当時こけ君は「間違っても」跡目にはならないと信じられていたし、清明もまだ子供で、「藤原」と言う名に恐れも何もなかった。清明は両親を失ったばかりで、他に肉親はいない。「大切な者達」はいつも傍にいたのであるが‥‥‥「人」として生まれた清明にとって、「こけ君」は新鮮な「友人」だった。「こけ君」はいつも兄達と比較され、表立ってはいないものの冷ややかな目にさらされ、いつも孤独を感じていた。そんな自分に「対等」に接してくれる清明はまた‥‥‥かけがえの無い「友」となった。そしてそれは今も変らない。
だからぁ‥‥‥「こけ君」は見る目がないって言ってんの。やめたら? 「貴族ごっこ」。似合わないって‥‥‥なんだと‥‥‥こら、私を誰だと思っている? 今をときめく‥‥‥「こけ君」でしょ?
ばかっ! そうじゃないっ。こら、「狐」、私を幾つだと思ってる? もう立派な『大人』だぞっ。え? 「嫁」も居ないのに? 私は「(みやび)」を沢山味わって、素敵な女子(おなご)とめぐり合い‥‥‥だな‥‥‥むりむり。だって「こけ君」だもの。やめなよ。適当なところで手を打って、藤原のために子を作って‥‥‥何でお前はそんなに「夢」がないんだか。あ! わかった!
「こけ君様、無理な恋は諦めた方がいい。あなたの一途さはたいしたもんだ。だけど、あれは『神』ですよ。いくらなんでもあれを娶る(めと)のは難しい。それに言わせて貰えばついでにあれは「男神」だ。「和御霊(にぎみたま)」ですから、「人」には「女神」に見えるでしょうがね。あれはあのまま‥‥‥知ってるでしょう? あなたが始めて出会い、「衝撃の恋」に落ちたときからずっと変らない‥‥‥あなたが年老いて、「じじい」となってもあれは清らかなあの姿のままだ。どう考えても「釣り合い」はとれませんよ、こ、け、ぎ、み‥‥‥」
くっそう〜こいつめ! どうしてこう、お前は‥‥‥私が大切に少しずつ積み上げている『夢』を端から容赦なく突きくずかな‥‥‥お前は「(さい)の河原の番人」かっ!鬼っ。悪魔! はっはっは‥‥‥今頃気が付いたか。「哀れなこわっぱ」め。なんだとこら! わ、やめろって‥‥‥
狭い船の中、「こけ君」は清明にのしかかり、ポカポカと頭を叩いている。
いたいいたい‥‥‥やめろってば。清明は体をずらし、「こけ君」の背を羽交い絞めにする。と‥‥‥
「あ‥‥‥の、道長様? いかがされましたか?」二人の横から遠慮がちに声がかかる。
雨よけに組まれた屋形の隙間から、心配そうな女房の目が‥‥‥不意に「見てはいけないものをみてしまった」とばかりにたじろぎ、うっすらと頬を染め、「あ‥‥‥失礼をいたしました」と退いていく‥‥‥
「ん?」「あぁ?」
二人は女房の様子にあっけに取られ、しばし呆然としていたが‥‥‥
「ん、降りてください。「こけ君」様。どうやら女房殿は誤解したようだ。この趣深い舟遊びに、時の権力者道長様は「発情」し、「いたいけな陰陽師」を押し倒した‥‥‥と」
「な、なんだとぉ? わたしがぁ? 誰を? 何で好き好んで「お前」なんかを「押し倒し」たりするもんかっ。このぉ「えせ陰陽師」め。だぁれが「いたいけ」なんだ。お前の何処をどう探しても、そんな言葉は見当たらないぞ。山師っ。嘘つきっ。はったり野郎!」
「おやおや‥‥‥随分沢山の『褒め言葉』‥‥‥わたくし「安部清明」光栄の至りにてございます。
陰陽師など、八割がたは「はったり」で成り立っているような者でございます。ふふふ。それが出来無いものは決して「陰陽師」などにはなれない‥‥‥」
羽交い絞めにした「こけ君」の背を優しくなで、清明は水面をみつめ、とつりと言う。
「清明‥‥‥」叩いていた手を止めて、道長は清明の腕の中で、水面をみつめている陰陽師の美しい顔に思わず見とれてしまう‥‥‥水面に映る月の光に照らされて、怜悧な黒い瞳がキラキラと輝いている。
「これはやはり人外のものだ‥‥‥」道長の心にそんな思いがよぎる。だがその黒い瞳の中に揺らいでいるのが「深い哀しみ」である事をこの「幼馴染」は良く知っていた。
―陰陽師など八割がたは「はったり」で成り立っている。
この男はそれで割り切っているようだが‥‥‥違うな清明。「陰陽師など」ではなく、「人など」だ。わたしなど九割‥‥‥いいや、ほとんどが「はったり」で生きているようなもんだ。
ただ、「本物」であるこの陰陽師は‥‥‥「真実」という物を「人」よりずっと良く知っているから‥‥‥ただ(びと)よりも「はったり」を強く感じるのかもしれない。
無垢で純粋だった、子供の頃は‥‥‥こんなにも遠いものとなってしまった。よくこうして取っ組み合いの喧嘩をした。藤原家の(三男坊ではあるが)お坊ちゃまを、泥だらけになりながら、痣が出来るほどに殴り倒すのは‥‥‥こいつだけだった。こいつはいつも黒い瞳をキラキラと輝かせ「(あし)」のように真っ直ぐで、感情の豊かな‥‥‥「子供」だった‥‥‥随分と遠くへ来てしまったな。
「いいや、そうでもないよ」
清明は水面をみつめたままに、私の心の中を見ていたように返事をする。
「こけ君、私はね、あなたといると『素直』になれるような気がするんだ。子供の頃の様にね‥‥‥」
「ふふふ‥‥‥お前もか。実は私もそうなんだ。お前に『はったり』は通用しない。どうせ私の心のうちは全てお見通しだろう? でもわたしはお前に「隠し事」をするつもりなんかない‥‥‥「嘘で固められた時の権力者」の、たった一つの救いは‥‥‥本当の『私』を知っているものがいて、それが本当の『私』を大切に思っていてくれることだ。お前もそうなんだろ?」
黒い瞳が水面を離れ、真っ直ぐな瞳が「こけ君」をみる。
あぁ‥‥‥変わっていない。あの頃のままだ。澄んだ黒い瞳は清らかで明るい。「清明」その名のとおりだ。
つ‥‥‥清明の口の端がゆっくりと持ち上がる。長い睫毛が伏せられ、
「しかし‥‥‥こけ君様、そろそろ降りていただけませんか? これではまるで恋人のようだ。先ほどの女房は、どうやら皆に「私達」のことを話した模様。外が騒がしい気がするのは気のせいでしょうか?」
臨時に組んだ屋形は、船の上に乗せただけの物。「時の権力者」のために「雨避け」としてしつらえたものだ。小さな空間は本来「道長」一人が座れるように空けられている。そこに大人の男が二人座しているのだから身動きの取れる空間は少ない。「乱闘」? のために清明の上に乗っかった道長ではあったが、道長よりすこし長身の清明にいまは「抱かれた」形となっている。本人達は別段何も気にしている風はなく、「子供の頃の延長」そのままなのだが‥‥‥そういえば先ほどからひそひそと声がするようなしないような‥‥‥
(やだっ。気が付いたかしら)(ん‥‥‥もう。あなたがキャ―キャ―騒ぐからよ)(あら、騒いでなんかいないわよ)(でも‥‥‥まるで絵物語のような図‥‥‥よね?)(そうそう。神秘的で、美しいわ)(お二人は幼馴染なんですってよ)(ふ〜ん。幼馴染の恋か‥‥‥なんだかお話が一つ出来そうな感じね。いいわぁ‥‥‥萌えちゃう)(ほらほら、馬鹿言ってないで退散するわよ)(でもぉ‥‥‥こんな場面、中々みられないし‥‥‥)(見つかったら大変。叱られるわ)
くすり。清明は笑い、「よいしょ」。道長を持ち上げ、隣に降ろす。
「あなたはいつまでも‥‥‥甘えん坊ですね。だけど此処は狭すぎる。どうせ『抱く』ならもう少し広いところで‥‥‥舟遊びの船は小さいですから、「揺れ」がひどくなるのは危険でしょう。ね、こけ君様‥‥‥」
清明は悪戯っぽく笑い、道長に片目をつぶって見せる。あ、あぁ‥‥‥
「そうだな。そうしよう。「甘い音色」は‥‥‥虫の声にあわせて奏でるのが良かろう。今宵の『音色』は、雅楽(ががく)だけとしよう」くすくすくす‥‥‥二人は顔を見合わせ笑っている。
(ちょぉっと‥‥‥)(あぁ、どうしましょう。道長様と清明殿は‥‥‥)(‥‥‥萌える‥‥‥)
しばしの沈黙の後、静かな足音が去っていく。女房達の頬を染めながら、にやけている顔が、目に浮かぶようだ。
「さて‥‥‥夜雀達は満足したようだ。しばらくは「噂」に事欠く事はないでしょう」
清明はなんでもないことのようにそう言って、ゆっくりと盃を口にする。
「ん‥‥‥いい酒ですね。さすがは「こけ君」わたしの収入ではこんなものはとてもとても」
「そうか? 私は余り酒を飲まぬのでね。どうもあまり性に合わぬらしい。どちらかといえば食うほうが‥‥‥」
そう‥‥‥あなたには「酒」は良くない。なぜなら‥‥‥
「食う? 女をですか? 程ほどになさいませ。「女」は怖いですよ。骨の髄までしゃぶられる」
「ほう‥‥‥お前にはそんな「経験」があるのかね‥‥‥知らなかったよ。お前はいつも「清明」だからね‥‥‥」
「ふ‥‥‥清く明るい‥‥‥か。そう言うのは「人」ではあなただけですね」
清明は温かな目を持って「時の権力者」を見つめる。
「人は私を恐ろしいという。普通に接していても、その瞳の中に「嫌悪」という思いを隠している。私にはそれがよく‥‥‥分かりますよ‥‥‥」
つ‥‥‥陰陽師は船の外に視線をそらす。
「は‥‥‥そうかな? それは「お前だけ」の目に映る「はったり」であろうよ。誰もそんな風に思っている者はいない」道長は清明の視線を追って、船の外を見つめ、
「名は体を表す‥‥‥そうであろう? お前の言葉を借りるならば、「名はその者に初めてかけられる、(しゅ)である」だ。違うかな? お前はよい名を持っている。父親から貰ったのであろう? いいや、両親から‥‥‥だったね。うんうん。実によい両親だ」
道長は妙に明るい声で清明の肩をパンパンと叩いている。
ふ‥‥‥気を使ってるな。私に「両親」という「言葉」を言ってしまったことを後悔してるんだ‥‥‥もういいんだけどね、気にしなくても。私だって何時までも「親」を慕って泣いている子供じゃない。しかしまぁ、元服前までそのことで悲しんでいた私を良く知っているこけ君だから‥‥‥仕方ないか‥‥‥別に「両親が死んだ」ことを嘆いていたわけじゃなく、「両親を殺してしまった」ことを嘆いていたのだがね。沢山の「命」を失わせることになったのは「私」のせいだ。あのときの事は忘れようとしても忘れられない‥‥‥いまだに夢でうなされている。決して「忘れる」ことを許されない「私の罪」だ。母上はきっと‥‥‥それを知っていて、私に「清明」と言う名を‥‥‥私にとってはその名は「呪」どころか「結界」で縛られているような物だな。だって私の中には‥‥‥
「なぁ、清明、私はいつも気になっていたのだが、お前は‥‥‥私を「道長」と呼んだ事はないな。二人の時は「こけ君」だし、公の席では「()大臣(だいじん)殿(どの)」とか「内覧(ないらん)殿」だし、何故だ? 「道長」は嫌いか?」
道長は清明の横顔をうかがいながら(たず)ねる。ふふふ‥‥‥サラサラ‥‥‥衣擦れの音がして
「嫌い? いいえ、全くその逆です。こけ君‥‥‥私はあなたを愛していますよ」
ほんのりと柔らかな香りが道長を包む。あぁ‥‥‥清明の香だ‥‥‥
清明は道長の肩に手を回し、優しく抱き寄せる。
「ん?」怪訝そうに道長は清明を見上げ、清明は澄んだ瞳でこけ君を見つめる。
二人の視線が絡み合い、月の光が二人を照らす‥‥‥
ぎぃ‥‥‥屋形の柱がきしんでキッ、キッ‥‥‥誰かが這いながらその場を離れる気配がする。
「さてね。(居残り雀)は満足したでしょうかな‥‥‥今夜は随分と騒がしい。せっかくの「楽しい宴」であるのにね」
清明はこけ君に回した手を戻し、再び水面に視線を戻す。
「道長」は‥‥‥だめだ。私はそれを『知って』いる。「道長」の長い道は‥‥‥「病」を背負ったものとなる。そしてそれは決して「長い」ものではなく、「長く感じられる」苦しみの道だ。こけ君‥‥‥あなたが「酒」を好まないのは、私の飲ませている「薬草」のせい。何時かあなたの腹の中に宿る「病の巣」を‥‥‥少しでも小さく、少しでも痛まぬよう‥‥‥私は出来る限りの知識を絞り、書物を調べ、研究に研究を重ね、やっと調合した「薬草」はそれでも‥‥‥あなたの寿命を延ばすことは出来無いようだ。
だからこそ『陰陽師』である私が、祈りをこめてあなたを「こけ君」と‥‥‥苔のように逞しく、日の恵み、水の恵みを沢山に受け、日陰でいいから長く生きて欲しいと‥‥‥そう願いをこめて呼んでいるのだ。もしもこの私の「忌まわしい血」が陰陽師の力を通して発揮できるものであれば、是非とも言葉の呪をあなたにかけてしまいたい。私の大切な「こけ君」に‥‥‥

まだ女房が残っていたのか‥‥‥暇なんだな。少し仕事を増やしてやろうか‥‥‥どこをどうしてどうなったら‥‥‥私と清明が「恋」をするかな。ふん‥‥‥今更ねぇ‥‥‥
「愛している」などと‥‥‥そんなこと言うなよ、こっぱずかしい。でもちょっと嬉しい‥‥‥かな。
「大好き」な清明は私の無二の親友であり、大切な「身内」でもある。若くして「時の権力者」となった私を、常に助けてくれているのはこの「清明」にほかならない。共に生きていく大切な相棒‥‥‥そう、ずっと共に‥‥‥私はそう願っている。
貴族社会は複雑で、常に油断する事は出来無い。気の休まらない日々は‥‥‥私にとっての地獄である。でも‥‥‥清明が居る。私はいつも何事も全て‥‥‥清明に語り、清明は黙ってそれを聞く。そして私が辛い時‥‥‥清明は黙って私を抱きしめる。
「幼い頃に戻りなさい」そう言って‥‥‥
衣擦れの音とほんのりと柔らかな香り‥‥‥それは清明。幼い頃からずっと変らない「僕等」の清明(せいめい)(とき)‥‥‥心洗われる「時」だ。
互いが抱える『心の傷』を互いに癒し、互いに励まし‥‥‥「僕等」は此処までやってきた。これからも長い距離を共にこうしていくのだろう。だけど‥‥‥むくむくともたげてくる『不安』といった感情は‥‥‥「何に」関するものなのか私には分からない。「僕等」の清明(せいめい)(とき)は‥‥‥何時まで「持つ」のだろう‥‥‥












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