「イグドラシルの種」その2
滅び行く惑星
この星は死にかけていた。
千年以上前の世界大戦で使用された超兵器によって、大気の大部分が剥ぎ取られ、直接降り注ぐ太陽光線に焼かれた地表は砂漠と化し、海は干上がっていた。
残された数千人の人類は、強烈な太陽の光から逃れるために、直径500m深さ1000mの巨大な縦穴の底に暮らし、その絶滅の時をただ手をこまねいて待つだけだった。
人々に残された生活圏の巨大な穴は、大戦前にパルム鋼と呼ばれる物質を掘っていた鉱山跡で、もともと海底だった場所だ。海の中に巨大な囲いを作り、その中の海水を汲み出してから露天掘りをするという思い切った方法で作られた鉱山である。
海底で見つかったパルム鋼は、夢の新物質と呼ばれ、さまざまな用途に用いられた。
しかし、宇宙起源と推測されるパルム鋼は他の場所では見つからず、鉱山の場所が地理的に微妙な位置にあったため、世界大戦を引き起こしてしまったのである。
残された人々は、穴の奥底に残るパルム鋼を使って細々と生き長らえていたのだった。
父、ゼクタ
夜が明けた。灼熱に燃える朝日によって、地上に残る隔壁の残骸が穴の反対側の縁にまだら模様の影を落としていた。
その影の中に動くものが有った。それは人の背丈の二倍は有るダチョウのような機械で、
二足歩行式のパワーショベルだ。そのパワーショベルを先頭にして整備士達が歩いている。 彼らは夜間作業を終えて、家路に着く所だった。整備士は、この穴の人々の生活を支える施設を整備する人たちで、外気取り入れ口、光導入ミラー、等の地上に出ている施設の整備は、強烈な太陽光を避けるため夜間行われる。しかし、千年以上前に造られた機械類は、かなりガタが来ており、まともに動くようにするだけでも相当の努力と忍耐が必要だった。今日も作業が遅れ、彼らの顔には疲労の色が濃い。
穴の上下を結ぶ交通手段として、穴の周囲を螺旋状に走る列車がある。その上の駅に着いた彼らは、おのおの装備を列車に運び込んだり、残しておく機械類の後かたずけを始めた。
さきほどパワーショベルを運転していた男はゼクタといって、整備士仲間ではメカの扱いが一番うまい男だ。
ゼクタはパワーショベルを所定の位置に戻すと直ぐに自宅へ電話をかけた。昨日、出がけにお仕置きとして倉庫に閉じ込めてきた娘のモナのことが心配になったのだ。
母親が死んでからは苦労をかけ、独立心旺盛に育ったのはよいのだが、危険だから大型エレベーターは使うな、という言いつけを守らず、工作機械を運んでいたのがばれたのである。
ゼクタは、命に関わる事なので倉庫の中で反省させるつもりだった。が、仕事がのびて、思っていた以上長い時間閉じ込めることになってしまったので、お腹を空かせているのではないかと心配になったのだ。
「もしもし・・・」ぼそぼそと元気のない声で弟のセリが電話口に出た。
「セリか?起きていたのか」
「うん・・・」
「いつも言っているが、もっとハキハキしないとだめだぞ。姉さんはどうしてる」
「まだ・・・」
「そうか、まだ中だったな。で、どうだった、反省している様子はあったか?」
「ずっと寝てた・・・」
セリも心配で、夜中何度も様子を見に行ったのだろう。お仕置きがいのない姉である。
「そうか・・・。私が帰るまで倉庫から出すなよ。ただし、朝食は持っていってやれ」
「うん」
言うより早く電話が切れた。こういう時だけ素早い。ゼクタは苦笑しつつ受話器を置いた。
同僚の呼ぶ声がする。列車が出発するらしい。ゼクタは列車のほうに向かいながら、子供達の教育のことを考えていた。 |