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COCOON―そして少年は英雄の屍に出会う―
作:斎籐拓夢



六 竜を巡る…


     六 竜を巡る…


 人を待っている間中、弾手はぼんやりと空を眺めていた。灰色の雲が天を覆い、糸のような雨が降っている。
 雨宿りをしていた駅の軒先から一歩出て、舌を突き出した。ほとんど水の感触はないけれど、かすかに冷たい。
 雨は久しぶりだった。小学校の家族旅行で関東に行ったとき以来だ。あのときは本当に空から水が降っているのだろうかと、大粒の雨の中目を見開いて空を見た。目ン玉に冷たい雨粒が落ちてきたのを覚えている。
 あの日の夜は、姉弟でこの雨を持って帰ろうとか言って、泊まったホテルのバルコニーにふたを開けたペットボトルを出しっぱなしにしておいたのだった。ひと晩明けると、下のほうに少しだけ水がたまっていた。それを弾手は、帰りの新幹線の中で我慢できずに飲んでしまったのだ。
 友達に見せるつもりだったのにと、姉ちゃんは泣いて怒っていたっけ。
 頬を弛緩させる思い出し笑いを、弾手はうつむいてこらえた。
 今このあたり一帯に降っている雨を全部ためれば、家族や仲間達の一日分の飲み水くらいにはなるだろうか。そうすれば、バクテリアの危険がある闇水なんか、飲まなくてすむのに。
 家族と仲間のことを思い出してうっかりホームシックに浸りかけていた弾手に声がかかる。
「弾手さんですか?」
 顔を上げると、ロイたちと同い年くらいの少年が、自転車を押す格好で立っていた。顔立ちは明らかに東南系の移民だ。
「初めまして。ハルキと言います」
 急いで漕いできたのか、息が上がっている。待ち人が幼かったことを意外に思う弾手に、ハルキはそれを察したように上気した顔で笑った。
「こんなガキですみません。でも高千穂に住んでたことあるのって、移民の中じゃあうちくらいで。何しろ、出るにも入るにも許可が厳しいですからね」
 自転車を置いてきます!と言って、ハルキは駐輪所に駆けていく。それからふたりは駅ナカにあるドーナツショップに入った。
「おごるから、好きなの頼めよ」
 そう言って弾手は財布を出す。最初ハルキは萎縮したように遠慮していたが、情報料代わりだというと皿にドーナツの山をつくった。
「これが高千穂の地図です」
 チョコがたっぷりとかかったドーナツにかぶりつきながら、ハルキはリュックの中から地図を取りだし、テーブルの上に広げた。
「本堂さんと浦沢さんが竜退治をしたのはここらへんです」
 溶けたチョコがついている指で一点を差す。山の谷間に細い川が流れているようだ。すぐ側には鳥居の記号と一緒に、天岩戸(あまのいわと)神社と書かれた敷地がある。
「マンガやテレビでさんざんやってる、竜が隠れていた天の岩戸の洞窟がこのあたりなんです。スサノオの悪行に嫌気がさしたアマテラスが籠もったとかいう、あの洞窟です。神社の裏手から少し歩いたところの川原にあります」
 地図には赤ペンで印がつけてあるところが四ヵ所あった。町境の検問所だ。
「住みやすい町ですよ、あそこは。だって、雨が降ったらちゃんとやみますもん。竜の効果は半径三十キロだっていうじゃないですか。だから高千穂から半径三十キロの中にある町や村にはちゃんと晴れたり雨が降ったりっていう天気があるけど、その外は晴れるか雨が降るかのどちらかなんだって。このあたりも三十キロの圏外だから、小雨だけどあまりやまないでしょう? 鬱になりそうですよね」
 ハルキがいうのを聞きながら、弾手はその検問所の印をただただ見つめていた。
 異常気象が始まった二十年前、国民全員がこの雨期が、あるいは乾期が一生続くのだと絶望しているときに、日本でたった一ヵ所だけ天気が乱れていない土地があるということがメディアを通じて広まり、高千穂やその周りの町に移住者が殺到したのだという。
 初めは町の収入が増える、過疎がなくなると喜んでいた自治体は、しばらくすると移住希望者のあまりの多さと、元からいた町民たちと移住者間のトラブルに悩まされるようになった。
 そして二重の検問所がつくられた。半径三十キロの円上に十ヵ所、高千穂の町境に四ヵ所。出入りするには許可証がいるようになり、町境には電流こそ走っていないものの柵が張られ、監視カメラの目を持ったロボットが二十四時間見張っているという。
「竜を見たことはないの?」
 一番聞きたかったことを弾手は訊ねた。しかしハルキは首を横に振る。
「僕はないです。見たことある友達はいたし、噂ならいくらでもありましたけど。でも、どこに巣があるかは誰も知らないんです。竜は雨が上がる瞬間に現れるっていうでしょう? だから雨が降ると友達と天の岩戸の洞窟に行って雨が上がるまで待ったりしてたんですけど、竜が出てきたことはありませんでした」
 リュックの外ポケットから、ハルキは一枚のルーズリーフを取りだした。
「弾手さんと会うことになってから、向こうの友達にメールして竜が目撃されている場所をいろいろと教えてもらいました。ほとんど噂なんで、どこまで正しいのかはわからないんですけど」
 それを地図の横におくと赤ペンを取り出し、ハルキは地図に×印をつけていく。
「だいたい、こんな感じかなあ……」
 ×のつけられた箇所は三つにかたよっていた。ひとつは天岩戸神社周辺、もうひとつは高千穂神社周辺、そしてほうひとつが荒立(あらだて)神社周辺で、線で結べば右に折れた二等辺三角形のようになっている。
 他にもところどころにばらけて×がついているが、その三ヵ所についている×の数が圧倒的に多い。
「僕は小学校を卒業するまで向こうにいましたけど、そのときからこの三つが竜が出没するっていうスポットでした。やっぱり、雨上がりに出たって言う人が多かったかな」
「どれも神社なんだな」
「はい。なんだかんだいって、竜って神様ですからね。ぴったりじゃないですか?」
 弾手は地図を自分のほうに引き寄せる。
 当たりをつけて行くとしたらとりあえずこの三ヵ所か。ロボットは、なんとかすればなんとかなるだろう。
「ハルキのうちは、どうして引っ越したの? こんなにいい土地、普通は離れないだろ。転勤?」
 地図をたたんでポケットにしまいながら弾手が訊ねると、ハルキは肩をすくめた。
「田舎のほうには、まだ移民は浸透してないんです。人数も少ないし、うさん臭がられるというか。それで住みづらくて、僕が小学校を卒業するのと同時に引っ越しました。友達も、少しはいたんですけどね」
 寂しげなハルキに、弾手は「そうか」とだけ応えた。弾手はずっと都会で仲間たちと固まって暮らしていたから、そういう居心地の悪さはわからない。向けられる敵意はいつだって、そのうさん臭い人間が大勢固まっていることへの不安から出たものだった。
 でも、固まってなかったら固まってなかったでこんなふうに追い出されるんだから理不尽だ。
「俺、そういうの変えるから」
 弾手が言うと、ハルキは「えっ」と顔を上げた。
「そういうつまんねーの、絶対に変えてみせる」
 周りの客に聞きとがめられないよう、弾手は声を低くする。
 ハルキが笑った。
「信じたくなるから、不思議ですね。弾手さんてやっぱりすごい。聞いてたとおりの人だ」
 緊張が解けて溢れ出たような、綻びる花のような笑みだった。

 ××××××××××

 生美子は車の後部座席に座り、ぼんやりと外を眺めていた。旅館の外壁には〈歓迎! 全高会代表御一行様〉という白地に赤文字の幕が垂れ下がっていて、雨上がりの涼しい風になびいている。正面玄関にも〈全国高校生大会〉の文字がデカデカと入った幟がいくつも立っていた。
 もう〈授業〉が終わったあとだから生徒たちはみんな私服に着替えているようで、駐車場にとめた車からは友達としゃべり合いながら玄関を出入りする生徒たちの姿が見える。
 こう見ると、みんな普通だな。テレビを通すと、自分と違う人間に見えるもんだけど。
 車の外に立って二つ折りの携帯をパカパカしていた母が、誰かを見つけて手を振った。生美子もそっち、門のほうに目をやる。
 白い砂利の上を、すらっとした長い足が歩いていた。膝丈の黒いワンピースがよく似合っている。
 竹緒ちゃんはモデルみたいだなあ。
 生美子は小さくため息をついて、そして次の瞬間、息を止めた。竹緒の隣で片桐が笑っている。
 片桐君は正義と同じグループだったはず。それなのに、あれ? 友達なの?
 生美子は、なんだかそわそわするのを感じた。母に気づいた竹緒が片桐に何か言い、こっちに向かって歩いてくる。竹緒の他にもこっちに歩いてくるの人がいて、誰かと見てみたら正義だった。正義は片桐の隣で、別の男子と歩いていたらしい。
 竹緒と正義と離れて、片桐はその男子としゃべりながら旅館の正面玄関に歩いていく。
「生美ちゃん、どうかしたの?」
 いつの間にかドアを開けていた竹緒が、きょとんとした顔をしている。「別にっ」と慌てると、竹緒はさっきまでの生美子の視線を探すように片桐たちのほうを見て、またこっちに顔を向けて、「そういえば同じ学校だっけ」と意味ありげに微笑みながらうなずいた。
「な、何?」と顔を引きつらせる生美子の肩を「わかったわかった」と叩きながら車に乗り込んでくる。その後ろで正義が、不思議そうな顔をしていた。
「みんなで食事なんて久しぶりね。これから行く中華料理屋さんは、私の友達が夫婦でやってるお店なのよ。中国で修行してたんですって」
 母が車を出す。
「うわあ、楽しみ。中華、大好きなんですよ」
 そう言ってから、竹緒は両手を膝の上に乗せると咳払いをした。
「おばさんにこんな他人行儀な挨拶はかえって失礼かもと思ったんですけど、一応。今日はお招きいただいてありがとうございます。一緒のお食事は久しぶりなので、すごく楽しみにしてたんです。昨日父と母に電話したんですが、ご迷惑かけますがよろしくお願いしますとのことでした」
 竹緒の口からすらすらと言葉が滑り出た。もちろん、その間微笑みは絶やさない。竹緒がしゃべり終えるのを待って、「じゃあ僕も」、と正義が口を開いた。
「うちの両親も、ぜひ今度別荘のほうにでもお寄りくださいとのことでした。旅館の食事にはパターンがあって少し飽きていたので、僕も今日が楽しみだったんです。しかもおばさんのお友達のお店なんて、嬉しいですね」
 あはは、と声に出して笑った母が、「ご丁寧にどうも」と正面を向いたまま頭を下げた。
 目を丸くして、生美子はパチパチと手を叩く。
「すごーい。教養」
 端の席に座っていた正義が身を乗り出してこっちを見ると、「そう?」と笑う。生美子は勢いよくうなずいた。
「ちゃんと躾けられてるんだねえ。そういう、社交術っていうの? そういうのって、DVD付きでテキストでもあるの? 見事だわ」
「あるわけないじゃん。なんとなくだよ。親見て覚えたっていうか」
 竹緒ちゃんが困ったような顔をする。
 よく見てみれば、竹緒も正義もカジュアルかフォーマルか、ぎりぎりのラインの服を着ていた。家庭料理のような小さな店に行っても、ホテルの中に入ってるようなフランス料理の店に行っても、どっちでも浮かないような格好だ。
 これが巨大財閥の力かあ。あたしなんか、迷わず普段着だし。
 自分との違いを見せつけられたようで生美子が窓に額をつけてうなだれていると、バッグの中の携帯が震えた。見てみると竹緒からのメールだ。首をかしげて目を合わすと、竹緒はにやにや笑いながら『見て』と口パクでジェスチャーする。
 訝しみながら開いたメールの一行目には『片桐葉太君』とあって、改行して携帯の電話番号とメールアドレスが書いてあった。
 携帯を握りしめて顔を赤くし、金魚のように口をパクパクさせる生美子を見て、竹緒がクスクス笑う。
「生美ちゃんのことだから、聞けてないだろうと思って」
「何?」と身を乗り出してきた正義を、竹緒が「女の子同士のヒミツ」とあしらった。のことだからってどういう意味っ?と少し気に障りながらも、生美子はメアドと番号をコピーすると電話帳に移す。
 だからといって、メールを送れるわけじゃあないんだけど……。大切に携帯をしまう生美子に、竹緒が「こんど片桐君も誘って一緒にランチ食べ行こっか」とささやいた。
 車はやがて街中の駐車場に着き、生美子たちはイタリアン料理店や鉄板料理屋が入っている小さなビルの三階に上がる。エレベーターを降りたところから装飾品や壁が朱色で、福の文字を逆さにした飾りが入り口のところにかかっていた。
 狭いけれど床は黒光りする大理石で、焦げ茶色の足が着いた朱色の円テーブルもつやつやと輝いている。もうちょっとよそ行きの服を着てくるべきだったかしら?と身を縮めながら、生美子は母のあとについてテーブルに腰掛けた。
 エビチリや麻婆豆腐、せいろに乗った飲茶なんかが運ばれてきてテーブルの上がいっぱいになると、話は自然と今日の授業の話題になる。
 今日の講師は、数年前に玩具メーカーと家電製品のメーカーが共同出資して作った会社の開発部にいる、とかいう人で、正義たち生徒は準備万端にととのった体育館に通されていた。
 天井の高い体育館には、四本の柱の真ん中にゴムや棒で支えられた丸い球体がポツンとある機械のようなものがふたつ置かれていて、講師はそれを「正式名称はまだ未定ですが、ロボット対戦ゲームを現実のように体感して頂ける機械です」と紹介した。
 球体が操縦席になっていて、中に入ると正面についた窓がわりのスクリーンからはCGとアニメと映像を混ぜたようなリアルな景色と対戦者であるロボットの姿が見える。ロボットの外見は某有名マンガ家にデザインしてもらったという力の入れようらしい。
 テレビでしか見ていない生美子にはそれがどの程度リアルなのかはわかりづらかったが、実際中に入った正義が「あれはすごい!」と力説した。
 そういてゲームが始まると、球体はロボットの歩調に合わせて上下に揺れ始める。操縦者のロボットが投げ飛ばされれば勢いよく後ろに引っぱられるし、叩き付けられれば激しく上下に動く。
 外から見ていると宙につられたピンポン球ふたつがびよんびよんと暴れているようで変な光景だけれど、中にいる本人には土に打ち付けられた感触まできちんと音になって伝わってくるらしい。相手から攻撃を受けるのと操縦席がぶっ飛ぶのがほとんど同時だから、実体験にかなり近いのだそうだ。
 ゲームをやって操縦席から出てきた男子のひとりはリポーターにマイクを出されて、「戦争って恐いですね」と神妙な顔でつぶやいていた。
 授業が終わると、生徒たちはグループごとに集められて課題を出されていた。今日の課題は、実現可能な新しい体験型ゲーム機の企画書を四時間以内に提出すること。
「課題の点数は明日わかるんでしょ?」
 生美子が訊ねると、正義がうなずく。
「うん。バスの中で昨日の点数と、これまでの点数の合計がグループごとに出されたプリントが配られるんだ」
 まあそうなの、と、母が大げさに相づちを打った。
 その成績は、授業のテレビ中継の最初に表となって視聴者に伝えられる。あと確か、新聞の夕刊にも載せられていたはずだ。朝刊には間に合わないらしい。
「今のところ、うちのグループと正義のグループが抜きつ抜かれつの接戦なの。でも私、今日の企画書は自信があるわよ。負けないから」
 正義を見据えてビシッと言い放つ竹緒に、正義は「別に僕、争ってないし」とそっけない。
「どうしてよっ。パパが、うちのところも正義のところも、全高会は運命の分かれ道だって言ってたわ。人を使う能力やまとめる能力、何よりもカリスマ性が試される場所だから、そこで本当に財閥の跡取りとしてふさわしいかチェックするんだって」
「へえ。僕はそんなこと言われなかったけどなあ」
「じゃ、なんて言われたの?」
 竹緒の問いに、正義のスープを掬う手がとまる。生美子には、下を向いている正義の目が一瞬泳いだように見えた。
「……なんて、って?」
「あの神宮寺のおじい様が、こんな人の注目を集められる機会に、あんたになんのプレッシャーもかけないわけないじゃない。跡継ぐのに、何か条件出されなかった? 課題の成績がトップじゃなきゃだめとか」
「男同士のヒミツ」
「何よ、それ」
 竹緒が不服そうに横目で睨んだけれど、正義は気にする様子もなくスープをすする。
「まあどっちにしろ、勝つの私だから」
 北京ダックに手を伸ばしながら、気を取り直すように竹緒が言う。負けず嫌いで有言実行がモットーの竹緒らしいとは思いつつも、生美子にはその声と表情がいつもよりも固くなっているように思えた。
 竹緒ちゃんでもプレッシャーって感じるんだ。
 なんだか妙に感心する。

 その日の夜、生美子は隣の部屋のドアが開く音で目を覚ました。誰かが階段を降りていく。父か、母か。
 のどが乾いていることに気づいて、寝ぐせの髪をこすりながら生美子も一階に下りた。廊下は真っ暗で、台所の電気だけが灯ってほんのりとドア越しに明かりを飛ばしている。
 台所のドアを開けると、母と目があった。コップを両手で握りしめている乱れ髪の母が、幽霊か強盗でも見たような顔をして生美子を見た。
「誰?」
 のどから絞り出したみたいなかすれ声で母が言う。その見開かれた目に世界が今すぐ砕け散りそうな不安を感じながらも、生美子はなんとか笑いながら、一歩一歩台所に入っていった。
「生美子だよ。ほら、よく見てよ。お母さんの娘の、生美子じゃん。今日一緒に、正義たちとご飯食べに行ったでしょ?」
「生美子?」と母がつぶやいた。じっと生美子の顔を見て、そうして長い息を吐く。「大丈夫?」と近づいていくと、母にすごい力で抱きしめられた。
「よかった。恐い夢を見たのよ。小さい生美子が死んじゃう夢」
 母の身体は震えていた。生美子は薄く笑いながら、その肉厚な肩に手を当てる。
「大丈夫だよ。あたし、生きてるじゃない」
 そうよねそうよね、と母は何度も繰り返した。
 母を落ち着かせて部屋まで連れていくと、ふとんに潜り込んだのを見届けてから自分の部屋に戻る。暗闇に目が慣れるまでドアの前で佇み、慣れてくると勉強机の電気スタンドを点けた。
 一番下の引き出しから、ファイルを取り出す。開くと、中には生美子の年には不似合いな新聞記事の切り抜きが並んでいる。どれも古い記事をコピーしたものだ。
〈竜と接触して? 那須生美子ちゃん(生後六ヶ月)、谷底に落下し死亡〉
 唇を固く結んでファイルを閉じると電気を消して、生美子はベッドに潜り込んだ。
 あたしはちゃんと生きている、はずだ。
 手の甲を噛んだ。痛い。それで少しだけ、ホッとした。
 
〈つづく〉












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