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ディグノシス
作:沙堂 瑠々亞



#Numberless “甘く広がるその名は妄想”


「いいや、僕に名乗る価値など無い。それを証拠に、僕は誰からも存在理由を聞かれない。
 何故なら僕は、一人一人に遍く知られている存在だから。
 一部であり奥にあり、そしてまた破棄と追憶を与える存在だから。」


 ディグノシス ♯Numberless  “甘く広がるその名は妄想”


「周ちゃん、佳子かこね、聞いておきたいの」
 未だにオレのことをちゃん付けで呼ぶ幼なじみは、顔を上げた。 
「かこの身体でも、ちゃんと欲情する」
 誘ってるんだろ。応えてやれよ。……アタマの中で声が響く。 
 手を伸ばせば届く肌、掴める膨らみ、細い腰骨、……舌で舐めたら、彼女はどんな表情を見せるだろう。
 どうしてこんな状況になってるんだ?
 彼女は近所の幼なじみで、やめろって言っても ちゃん付けで呼んで来て、
 おかずのおすそ分けといっては家に上がりこんできて、
 今日だって明日のテストで教えて欲しいことがあるからって友達とやって来て、二階に上がって、それで急に彼女が――
「聞いてるんだよ……こたえて」
 オレの身体に触って、真面目に聞いてきたのだ。 
 ばか言うな、どこかで聞いたお決まりの台詞を吐こうと思った。
 もっと自分を大切にしろよ、そうも言いたかった。けれど出てこない。
 切実で、邪推のない、純な望を、拒否できなかった。オレ自身の希を、無いものになんて出来なかった。
「ソレの言うことは本心だよ。なぜ聞けない。」
 別の声がした。「彼」は、すぐ傍らに立ってオレの肩に手を乗せていた。
「希を識って模倣しただけの別個体だ。現実がいかに堅固で難儀か、知っているだろう。」
 ……お前は……
 知っている。オレはこいつを知っている。 
 でも一体いつから? ただ哂うだけの存在を、オレは見たことがあるのか?
 問えば必ず返ってくる答え。だが、オレは何も口に出すことが出来なかった。
「女は醜いが賢い。云ったらどうなるか把握している生キモノだから。」
 彼女は「幼なじみ」のオレにこんなことは言ってこない。
 みすみす関係を壊すような真似はしない。近くに居たオレが良く知ってることじゃないか。
 それなのに、どこまでも彼女のような声で……オレを窺う表情をして……
「周ちゃん。かこ、苦しいよ。止めて……止めて……」
 彼女が切なそうに懇願する。そんな目で見るなよ。そんな風に震えるなよ。
「だが男は頭が切れるが醜悪なイキモノだ、」
 ……黙れよ。糞が、それ以上オレに構うな。
 もうどうだっていい。目の前の、口をひくひくさせて潤んだ眸を向けてくる柔らかい生き物しか、今のオレには映らない。

 貪り喰らう、とはこういうことかと感じた。
「そうやって、後で自責の念に囚われることも解らないのだから。」
 嘲る声など聞かない振りをした。
 歓喜の渦に巻かれた、気がした。

 ――――――――――――――――――――――――――――――何もかもが、失せた。












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