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ディグノシス
作:沙堂 瑠々亞



♯02


 私はずっと、声を聞いていた。否、聞かされていた。
 ――何処に居る?

 その声はずっと前から、身体の奥側から響いてきていた。
 ――どこに、いる?

 「彼」は何処に居る?


 ディグノシス ♯02


 ちりと灼ける感情を覚えたのは、いつだっただろう。
 顔では笑っているのに、どこかが軋んで痛くなる。身体が錆び付いて鈍くなる。 
 そして必ず声がしてくる。――「彼」の声が。
「無駄な、時間だ。」
 例えば友達と話をしているとき、「彼」は傍で哂っていた。他人にとって意味のない話でも、だらだらと並べるだけの話でも、私はうまくやろうとしていたつもりだったのに。
「実に、空虚で、無意味で、無味乾燥な、日々だろう。」
 聞こえない振りをしていた。
 誰かから告白された時も、先生から謂れの無い事について咎められた時も、その声は響いていた。
 誰かに微笑み返した時も、泣くのを必死に堪えて言い返そうとした時も、確かに響いていた。
「周りが酷く愚かしいものに見えはしないか。つくり笑いをして、別個体に合わせて満足か。」
 内側から響いてくる声を、必死に殺そうとした。 
 声に応えてしまった私は、どうなる? 自分自身で居られるだろうか?
 応えてはいけない。予感めいたものが何処かに有ったのに。
 ベッドで一人震えているときに、真上からまた声が聞こえて――私は思わず、叫んでしまっていたのだ。
「だがその憎悪と衝動はあんたには隠せない。膿は広がりきって、此方側へと出ようとしている。」
 ぞわりと、身体に鳥肌が立った。背中に冷たいものが走って、どうしようもなくなった。
 シーツを固く握り、ある箇所へ導く。ユビの泥濘に浸る。
 声を聞いてはいけない。返事をしては、いけない。
 目の焦点がきかなくなった。暗闇がさらにぼやけていったのは、眸が潤んだからか。それとも、意識が飛ぼうとしていたからか。
「僕はあんたが呼び起こした。あんたが孕み温め育てたのが僕だ。そうだ、あんたは。」
 ――ずっと探していたんだろう。僕を。
 解りきった問いだと思った。
 私は知っていたから。ずっと探していたから。「彼」の声を、存在を。
「手を伸ばせ。振り返って僕の名を呼べ。」
 あなたの名は。私のどす黒いものが目覚めさせた、『名乗る価値もないもの』。












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