第五章 五日目−鈴の音−
辺りに、深くて広い闇が広がっている。
冷たい空気が刃物のように、全身の皮膚を刺している。
どこへ向かって、私は歩いているのだろう。
泣きじゃくる、小さな少女。
『……おねえちゃん、たすけて』
振り向いた童女の顔を見て驚愕する。
『……葵』
名前をつぶやくと、脳裏に焼きついている童女の残像が消えた。
そして。
――ちりん、ちりん。
頭の中に、涼やかな鈴の音が鳴り響く。
『さ、着いたわよ』
一定の間隔で鳴る鈴の音の間を縫うように、やわらかな声が、耳の奥を優しく刺激する。
『あなたの、そして、私の人生を狂わせた連中に復讐する時がやってきたのよ』
……ああ、そうか。
幼い時分に両親と引き裂かれ、辛い日々を送らねばならなくなったのも、まだ小さかった葵を喪
わなければならなかったのも、すべてあいつらのせいなんだ。
『そう……。失われた時間を取り戻し、新しい、幸せな時を刻むために、あなたは闘うの。私と共にね』
こくん、と頷いた自分の手が、温かいものに包まれた。導かれるまま立ち上がると、視界が大きく揺れる。
支えてくれた声の主に寄りかかると、甘い香りが、鼻を通って身体のすみずみにひろがっていく。
『……これからしばらくは、私のことは忘れなさい』
支え、抱き止めてくれているはずの、声の主の言葉に、思わず身をこわばらせる。
『大丈夫です。私を思い出してほしいときは、またこの鈴を鳴らします。その時こそ……!』
ちりん、ちりん。……ちりりん。
頭の中に響いていた鈴の音が聞こえなくなった時、すべての思考が閉ざされて、身体の力がゆっ
くりと抜けて行った…………。 |